表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/70

45.みんなで遊ぼう!(1/2)



……11月22日、午前11時ちょうど。


「あっ!さっぽーん!こっちこっちー!」


ショッピングモールの西側入口前で、千夏さんがボクに向かって手を振っていた。


他のメンバーは、みんなもう既に集まっていて、ボクを待っていてくれたようだった。


「す、すみません、遅くなりました」


ボクは小走りになって、彼女たちの前へとやって来る。


「いいよいいよー!全然集合時間通りだし、むしろ時間ぴったりなのさすがさっぽんって感じー!」


千夏さんからそう言われて、ボクはほっと安堵のため息をついた。そう言えば、白坂くんとデートした時も、似たようなことを言われた気がする。


「よし、じゃあみんなも集まったことだし……千夏、これからどうしようか?」


西川さんにそう言われて、千夏そんは「とりまご飯食べよーよ!」と叫んだ。


「あーし、もうお腹ぺこぺこー!なんか食べたーい!」


「うーん、まだお昼には早いけど……お昼時になったら混むし、早めに行くのもありか。じゃあ、みんな何が食べたい?」


「はいはいはーい!パスタ!パスタ食べたいです西川センセー!」


「はいはい、もう分かったから。千夏はパスタね。他のみんなは?」


西川さんの問いかけに、みんなでそれぞれ答えていった。


「ウチはなんか、軽めがいい。サンドイッチとかハンバーガーとか、そういうの」


小岩瀬さんはスカートのポケットに右手を入れて、頭に被ったキャップを整えながらそう言った。


「えー!?やだよるうー!あーしがっつり食べたいよー!」


「ウチはまだそんなお腹空いてないっつの!てか、千夏こそなんでもうお腹空いてんの!」


「だってー!お腹すくんだもーん!るうもちゃんと食べないと、身長伸びないよー!?」


「あー!?よ、よくも!ウチ、背ぇ小さいの気にしてるのにー!」


小岩瀬さんはこめかみに青筋を立てて、千夏さんを追いかけ回していた。そんな彼女たちの様子を、西川さんはため息混じりに「二人とも子どもなんだから」と呟いて、今度は二階堂さんへと話しかけた。


「二階堂さんはどう?何か希望はある?」


「そうですね、私はそこまで強い希望はありませんから、みなさんの食べたいものに合わせます。強いて言うなら、おそばやおうどんなどは、今の食欲的に食べやすいなと思っているところです」


すらりと高い背筋を伸ばして美しく立つ二階堂さんは、まさに模範解答とも言うべき答え方をしていた。


みんなの希望に合わせる柔軟さも出しつつ、自分の意見も言う。他人任せにしすぎないし、意見を通し過ぎない、ちょうどいい案配だと思った。


あと、何気にうどんを「おうどん」と上品な言い方をするのも、ちょっと憧れるポイントだった。


(こういうのを、スラスラ言える人になりたいな……)


ボクからしたら、西川さんが子どもと言っていた最初の二人も、羨ましいと思える。


自分の気持ちを、臆せずはっきりと言える。そういう度胸が、ボクにはまるでなかった。


白坂くんに告白した時も、素直に「恋人になりたい」と言えず、えっちなことで彼を釣ろうとした。


(つくづくボクって、恥ずかしい人間だな……)


「さて、と。黒影さんはどう?何か希望はある?」


西川さんからの問いかけは、ついにボクの番となった。


「あ、えーと……そう、ですね」


うーんと吃りながら、ボクは必死に答えを考えていた。


「あ、あの、ごめんなさい。西川さんの希望って、何かありますか?」


「ああ、私?私は特に希望はないよ。みんなもうある程度希望出してくれてるし、その内のどれかで全然いいかな」


「な、なるほど……」


がっつり食べたい千夏さんのパスタに、小岩瀬さんの軽めなサンドイッチ、二階堂さんのうどん……。


「……あの、正直に言うと、“私”も特段、希望があるわけじゃなくて……。全然、みなさんに合わせたいと思ってるんですけど……。ただ、えっと、ひとつ提案があって……」


「提案?」


「ファ、ファミレスは、どうですか?誰か一人の希望を叶えるために、なんらかの専門店に行くんじゃなくて……。ファミレスなら、みんなの希望するご飯をそれぞれ頼めますし、気、気を使わなくていいかなと……」


「おー、ファミレスか。なるほどね」


「私は、ファミレスの案に賛成です。黒影さんの仰るように、各々が気兼ねなく注文できるのは、今の需要に合致すると思います」


「うん、確かにそうだね。おーい!千夏も小岩瀬さんも、こっち戻ってきてー!」


こうして、今回はボクの提案した、ファミレスへと向かうことになった。







……長方形の6人がけテーブルのうち、席の配置は次のようになった。


左側の奥から、ボク、千夏さん、西川さん。右側の奥から、小岩瀬さん、二階堂さんという席順だった。


注文したものは、ボクがカレーライス、千夏さんが明太子パスタ、西川さんが肉そば、小岩瀬さんがハンバーガー、二階堂さんがとろろうどんだった。


「ねーねー凛ー!明太子とたらこって、どう違うのー?」


千夏さんからそう話しかけられた西川さんは、「ええ?」と言って顔をしかめた。


「うーん、私もよく分かんないけど……辛さの違い、とか?」


「あー、そういう系?確かに明太子は“辛子”明太子ってつくけど、“辛子”たらこって聞かないかも?」


「いや、分かんないよ?憶測だから」


千夏さんと西川さんの雑談に、二階堂さんが加わった。


「明太子とたらこの違いは、唐辛子を使用しているかどうかで決まります」


「え?じゃあ今私が当てずっぽうに言ったのは、正解だったの?」


「はい、まさしくそのとおりです」


「へ~!凛凄いじゃん!当たってるって!」


「うん、ちょっとびっくりかも」


「さらに厳密には、どちらともスケトウダラという魚の卵巣を使用していますが、たらこはスケトウダラではなく、マダラの卵巣でも作ることができます」


「お~、さすが二階堂さん、物知りだね。学年トップの成績は伊達じゃないや」


「うふふ、そう言われると照れ臭いですね」


二階堂さんは口に手を当てて、まるでお嬢様のように笑った。


「に、二階堂さんって、学年トップなんですね……。凄い……」


ボクがそう言うと、二階堂さんは「いえいえ、私なんてまだまだ」と謙遜しながら微笑んでいた。


「あっ、そーだ。ねえみんなー、修学旅行の自由行動さ、行きたいとこあるー?」


千夏さんの質問に、小岩瀬さんが「自由行動ってどのタイミング?」と確認を入れた。


「えーと、大阪と京都で二時間ずつかなー?ちなみにあーしは、大阪の道頓堀は絶対行きたい!グレコのポーズみんなでとろーよー!」


千夏さんは腕をY字に上げて、ボクたちに力説していた。


「道頓堀行くんだったら、ウチあれ食べたい。串カツ」


「おー!いいねるう!串カツ食べよ串カツー!」


「うん、串カツいいね。お店に入ると時間食うし、テイクアウトして食べながら歩くのがいいかもね」


「じゃあ、大阪は道頓堀で決定!京都の方はどこ行くー?」


「京都でしたら、私、伏見稲荷を希望してもよろしいですか?あの鳥居が立ち並ぶ光景は、一度お目にかかりたいと思っていたのです」


「おー!さすがみーちゃん、いいとこ挙げるねー!伏見稲荷、あーしも行きたい行きたい!」


千夏さんは隣にいるボクの方へ顔を向けて、「ねえね、さっぽんはどっか行きたいとこないー?」と話しかけてくれた。


「あ、じ、実は二階堂さんと一緒で、“私”も伏見稲荷、候補に挙げようかなって思ってました」


「お!さっぽんもみーちゃんと一緒ー?」


「は、はい。あの和風ファンタジーな感じが、昔から憧れてて」


「ふふふ、分かります。まるで異世界に迷い込んだようで、ワクワクしますよね」


ボクたちは和気あいあいと、会話を楽しんでいた。


いつもボクは一人ぼっちで、こういう談笑するグループを遠巻きに見ることしかできなかったけど、今はそのグループの中にいる。疎外感も感じないし、話の輪にボクを入れてくれる。


各人、別方向に個性的な人たちなのに、輪が乱れないと感じるのは、きっとみんなが優しい人だからなのだろう。


今日は無事に1日を終えられるといいなと、心の中でそう思った。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ