百合の少女は悩み焦がれる⑧
一体何が悪かったのだろう?
一体どうすれば良かったのだろう?
女官長に任命された時、色々と思った事はあったけれどーーでも、嬉しかったのだ。
今まで、周囲から遠巻きにされて、喧嘩を売っているのかと言われ続けて。『キツイ』雰囲気と厳しい言動のせいで、いつもいつも周囲になじめなかった。
愛らしく可愛らしい修羅が羨ましかった。
修羅の様になりたかった。
美しく可憐で、誰からも必要とされる明燐が羨ましかった。
明燐の様になりたかった。
無い物ねだりだと言われてしまうかもしれないけれど……本当に、本当に羨ましくて、そうなりたいと思った。
でも、所詮百合亜にとってそれらは夢のまた夢なのだ。百合亜には手の届かない存在なのだ。
そしてそんな彼らに嫉妬して、周囲まで心配させて、挙げ句の果てには女官長の任を解かれてしまった。
頑張った。
でも、その頑張りは誰にも通じなかった。
責められ、誰もが明燐の方が相応しいと言う。
「私、もう、何も持ってない」
もう私の手には何もない。
女官長の仕事も。
大切な神達の笑顔も。
修羅は怒ったし、周囲も怪訝そうな表情をしていた。
でも、そんな風にしたのは百合亜のせいなのだ。
あんな風に意固地になって、周囲を突き放して。
そのツケが今来ただけなのだ。
寝台の上で横になりながら、百合亜は静かに涙を流した。
どうせ、修羅と出会う前は何も持っていなかった。ただ、その時に戻っただけだと言うのに。
どこまでも沈んでいく仲間に、朱詩は自分が小梅を失った時の事を思い出した。ただ自分よりマシなのは、こいつの相手は生きていて、まだ挽回の機会はあるという事だ。
死んでしまえばそれも無理だ。
とはいえ、朱詩の場合は小梅が挽回の機会を与えてくれた。今思い出しても、心が熱くなる。
もう、もう良いだろう。
朱詩を心配して眠れなかった小梅を静かに眠らせてやる為に、朱詩はもう二度と狂ったりはしない。馬鹿な事をしない。
それが、自分の為に魂だけになっても見捨てずに来てくれた小梅に出来る唯一の事だ。そして小梅に対する愛の証だ。
でも、修羅は違う。
相手は、百合亜はきちんと生きている。
修羅が出来る事は一つではない。
だから、修羅はまだ大丈夫。
「うぅ……百合亜ぁ」
えぐえぐと泣き伏す修羅は、それはそれは蠱惑的でグッとくるものがあった。朱詩は全く来ないが、普通の男なら堕ちる。あと、上層部やそれに準ずる者でも惑わされる者は出てくるだろう。
全身から濃厚な色香を放ち、更には艶めかしく我が儘なダイナマイトボディを白衣に包んだ姿は、誰が見てもけしからん程に禁欲的で背徳的かつ扇情的な姿をしていた。
患者は元気になるだろうーー別の意味で。
まあ、神の三大欲は確かーー睡眠、食欲、性欲だった気がするし、それだけで言えば問題はないだろう。それらは生きていくには必要な欲だし、そこを刺激する事で治療を促進して死から遠ざけると考えればーー。
「百合亜に嫌われたぁぁっ」
ただし、当の本神は瀕死だが。
「こんな事なら、とっとと百合亜を襲って結婚退職に持ちこんでおけば良かった!!」
「違うだろ」
朱詩はベシリと修羅の頭を叩いた。しかし、いつもは頭から湯気を出して怒る修羅は、そんな一撃に対しても泣くだけだった。
「お~いおいおい」
「しゅ、朱詩、やめてくれ。修羅が馬鹿になったらどうする」
「この程度でなるわけないじゃん」
止めようとする鉄線を制し、朱詩はべしべしと修羅を叩いた。もちろん、手加減はしている。
「百合亜を孕ませておけば良かった!」
「言っとくけど、それ最低だからね? それ男として最低な事だからね? 萩波だってやってないのに」
「いや、萩波はやりたいけれど果竪が身籠もらないだけで」
「やめて! 萩波に忠誠を誓っている自分が悲しくなるからっ」
国というよりは、悪の組織に感じてしまう凪国。なぜだろう?萩波が国王ではなく、悪の帝王で、自分達がその構成員に思われてしまうのは。
「だってそうしないと百合亜に逃げられるもんっ」
「そうしたら余計に逃げられるよ!! そもそも、あの百合亜がそんな事をされて黙っているわけないじゃん!」
報復……はしなくても、全力でそんな最低男から子供を抱えて逃げるだろう。修羅がわあわあと泣き叫び、鉄線が慌てて宥めていた。
「そんなに泣くなら、今からでも百合亜の所に行ってくれば?」
「出来るわけないだろ!! 今更どの面下げて行けって言うんだよっ」
修羅は朱詩に向けて怒鳴りつけた。
「何言ってんのさ」
朱詩は大きくため息をついた。
「君は医師として、医務室長として女官長の百合亜を叱りつけたんだろう? なら、修羅として百合亜の所に行くのは構わないじゃないか」
「っ?!」
「それに医師としてだって、女官長の病状観察とでもしておけば」
「……元女官長だよ」
「一時的なものでしょう? きちんと体調がが回復したらまた戻れるよ。今回の措置だって、このままだったら百合亜が死んでしまうと判断されたから行われたものじゃん。それに、百合亜以外の誰が女官長の仕事をこなせるのさ」
「……明燐」
修羅は小さくその名を呟けば、朱詩は声を上げて笑った。
「ばっかだねぇ! 明燐は所詮代役だよ」
「で、でも」
「それは君だってわかってる事だよ? それとも君は本当に百合亜の代わりに明燐が出来るとでも?」
「そ、それは……」
「女官長という職は、ただ能力が秀でているだけじゃ駄目。もちろん、他の部署もね。それに、明燐がなぜ侍女長という役職につけて、百合亜が駄目なのかも修羅は理解していると思っていたんだけど」
揶揄を含んで言えば、修羅はムッとした様にこちらを睨み付けた。
「そ、そんなのわかってるよ!」
「ならいいよ。もしわかってないであんな事を言ったなら、それこそ百合亜には相応しくないけどね」
「ゆ、百合亜は僕のだっ!」
「だからガキなんだよ。ボクだって大概ガキだけど、誰々は自分の物って宣言しているだけでそうなると思ってるならとんだオメデタイ頭の持ち主だよね」
「しゅ、朱詩、それは言い過ぎ」
「鉄線は黙ってて」
朱詩は鉄線を一睨みで黙らせると、修羅へと視線を戻した。
「もう一度言うよ? 百合亜を本当に自分の物にしたいなら、ただ宣言しているだけじゃ駄目だ」
「なら、既成事実」
「やるなよ?」
朱詩は修羅の胸ぐらを片手で掴んだ。朱詩もまた神様には言えない仕打ちを小梅にはしてきたし、思い切りからかい倒して暴言の限りを尽くしたがーー強引に襲って孕ませる様な事はしなかった。既成事実を作りたくても、自分の体質を考えた朱詩は、最後の最後でその手段を回避し続けた。
どんなに小梅が欲しくても、ぎりぎりの所で我慢し続けた。
もしーー。
もし、もっと早くに小梅を自分の物にしていたらどうなっていただろうか。
小梅は死ななかったかもしれないし、激怒して朱詩から離れていったかもしれない。そうすれば、大嫌いな朱詩の命を助けようと自分の命を犠牲にする事だってなかったかもしれない。
たとえ朱詩は助からなくても、小梅は助かったかもしれない。
そう考えた事だって何度もあった。
でもーー。
そこまで考え、朱詩は馬鹿な考えだと自分を嘲笑う。
死んでも尚、自分を心配してこの世にとどまり続けた彼女の事だ。どんな仕打ちをされたって、結局心配して朱詩を助けてしまうぐらい、お神好しの彼女なのだから、きっとどうやったってあの日、あの時、朱詩を助けに戻ってきてしまっただろう。
馬鹿な小梅。
愚かな小梅。
でも、そんな小梅だからこそ、捻くれた上層部やそれに準ずる者達は愛したし、自分は彼女を生涯の番いとしたかったのだ。
きっと朱詩はこれから沢山の女性に出会うだろう。
けれど、彼にとって小梅だけが運命の神である事には変わりない。
そして、修羅にとっての運命の神は百合亜なのだ。たとえ他にどんな美しく聡明な女性が現れても、百合亜でなければ修羅には何の価値もない。
実際、百合亜以上の女性と言えば数神あげられる。明燐だって、あのドSな女王様っぷりがなければ、凪国一の美女又は美姫として称えられる程の佳神だ。そして、中身だって聡明だし打てば響くような機知に富み、国王の隣に立つ王妃に相応しいと言われている。たいてい初対面はまず間違いなく明燐を王妃だと勘違いするし、違うとしっても明燐以外に凪国の王妃に、萩波の正妃に相応しいものは居ないという。
文武に秀で、歌舞音曲に優れ、政治手腕は兄譲りだし、財政や軍部、市政や裏の世界にも通じる彼女は、官僚として足りない所はないと言われている。
抜群の政治センスと、巧みな神心掌握は貴族平民裏の世界の者達問わずに高い影響力を発揮し続ける。
はっきりいって、凪国で明燐ほどの女性はまず居ないだろう。
そもそも、あそこは兄妹揃って上層部よりも頭が五つ分は飛び抜けている。
しかも見た目は清楚系な美貌で、バリバリ系と言うよりは男に守られている方がよほどお似合いの容姿だから、たいていの者達は油断する。
彼らを手に入れようと画策し、その魔手を伸ばすのだ。
そうして、頭からバリバリと食われた者達のなんと多かった事か。
あいつらにだけは手を出してはいけない。
それは、凪国上層部とそれに準ずる者達の共通認識である。
それ程に、あの兄妹は厄介だ。
兄の明睡も、妹と恋しい相手が関わればヘタレだが、そうでなければ萩波並に厄介な冷酷な鬼畜やろうである。
ーー果竪に対しても激甘だけど。
そしてあの兄と妹は、実はよく似ていた。
片方はドMで、片方はドSと言われていようとも。
「それって略したらSM兄妹ーー」
「駄目よ果竪!」
「そんな可愛い口からそんな言葉を言っちゃ駄目ぇ!」
とりあえず、それにいち早く気づいた果竪がそれを口にして茨戯と鉄線に止められていたが。あと、正確にはMS兄妹である。兄の方がドMだし。
まあ、それは置いておくとして、あの兄妹。
実はそっくりなのである。
そして明燐と百合亜は正反対だった。
ただし、百合亜がドMというわけではないが。
だから、百合亜に恋した修羅は間違っても明燐にだけは靡かない。まあ、自分にない物を持つ相手を結婚相手として選ぶ事もあるが、修羅に関してはそれは当てはまらないだろう。
そもそも、百合亜は明燐ではないし、明燐は百合亜ではない。それだけなのだ。
「じゃあどうすれば良いのさっ」
「そこは自分で考えなよ」
そこまで面倒は見切れない。
「というか、僕が百合亜にしてあげられ事なんて殆ど無いんだからっ」
「それ自分で言うと悲しくない?」
「うっさい! そもそもっ」
修羅は血を吐くような叫びを放った。
「僕から体と顔を取ったら何が残るのさっ」
「男気かな」
いつの間にか部屋の扉を開けて入ってきた果竪が、首を傾げながらそう告げた。
「果竪、果竪はずっとそのままで居てね」
果竪をぎゅぅぅぅっとぬいぐるみ抱きする修羅を余所に、果竪の付きそいとしてやってきた明睡と茨戯は朱詩に問いかけた。
「一体何があったんだよ」
「果竪が修羅の心をわしづかみにして」
「いや、それは分かるから。なんでそうなったかって事で」
「流石は果竪! 果竪も素晴らしい男気の持ち主だ」
「「「駄目だろ」」」
目を輝かせる鉄線に、男達三神は同時に突っ込みを入れた。
「修羅、苦しい」
「果竪可愛い」
果竪のほっぺに自分の頬をつけてすりすりとする修羅は、端から見ればお気に入りの神形を愛でていようで、それはそれはとても愛らしい絶景たる光景だった。
「というか、どうしたの?」
「果竪……僕、何も持ってないなぁって」
「ん?」
修羅は涙目で果竪を抱きしめながらぽつりぽつりとそれを口にした。
「百合亜が本当に本当に大好きで大切なのに……僕のした事は大好きな子を逆に困らせて泣かせちゃうばかりでさ」
果竪も百合亜の起こした騒ぎは耳にしていた。
「こうなったらもう既成事実」
「やるなら相手になるよ、このクソガキ」
「誰がガキだよ」
「テメェだよ、このガキ」
朱詩が放つ笑顔の悪口に、修羅の目が段々と座っていく。
「誰が、ガキだぁ?」
「そういう所がガキなんだよ。んな事している暇があるなら、とっとと百合亜の所に行けば良いじゃん」
そう良いながら、朱詩は修羅から果竪を奪い取った。
「だから、今更どの面下げていけって言うのさ!」
「どの面だろうと良いから行けって言ってんだよ。じゃないと、ボクみたいになるよ?!」
ボクみたいにーーその言葉に、その場にいた者達が朱詩を見つめた。
愛しい相手を失った朱詩。
あれは仕方の無かった事だったとしても、朱詩は気持ちを何一つ伝えられないまま相手を失った。
「いつまでもグチグチグチグチっ」
「いや、そんな長くはグチグチはしてな」
鉄線はそう言って修羅を庇おうとしたが、朱詩はそれを振り払った。
「鉄線は黙ってて! 良い?! ボクと小梅の事を見てたんだから、どうすれば良いか位お前には分かるだろう?! 謝ろうとした時には相手なんか居ないんだからっ! いや、そもそも修羅は医師として女官長を止めようとした。そのどこにショックを受けなきゃならないのさ」
「で、でも、あんな言い方はなかったって」
「そんなわけないだろう? 他の誰が言ったって女官長は聞かなかった。ボク達が言ってもね。最終手段は陛下だけど、それは本当の最後の最後。君の言う通りだよ。ボク達は皆、自分達の許容範囲以上の仕事はしている。でも、休む時は休んでる。百合亜は違う。自分の限界を突破して久しいし、満足に睡眠も食事も休養もとってない。このままじゃ確実に待ち受けるのは死だ」
朱詩の厳しい言葉に、修羅は押し黙る。
「今この状態で女官長が死んだらどうなるか? そんなの、考えるまでもないよね?! 今この政権が維持できているのも、女官達が各部署を支えているからだ。そしてその女官達を統括しているのが百合亜だからだ。一時的なら明燐でも出来るよ? でも、ずっとは無理だ」
朱詩は断言した。
「部署を確立した当初なら出来たかもしれない。でも、もう百合亜を中心にまとまり、百合亜を主として戴いている。たとえ、一部がごちゃごちゃ言おうと、百合亜が女官長なんだ。女官達は彼女に従い、彼女の命を至上とする。特に、有事!!」
明睡と茨戯は何も言わなかった。鉄線も黙っていた。
果竪は黙って、それを聞いていた。
「各部署は大戦時代同様、それぞれの長を主として戴き部隊となって戦う。たとえ、今の女官達を構成するごく一部しか、百合亜の率いた部隊が居なくても、ね」
「……」
因みに、修羅の部隊に鉄線は居て、彼女はそのまま修羅の補佐につく事になった。
だからーー。
「鉄線」
「それ以上はやめてくれ、朱詩」
鉄線は修羅を、自分が主と認めた相手を守るように間に入った。
「やめても良いけど、それでこのヘタレが動くとでも?」
「修羅はヘタレじゃない」
「ヘタレでしょう? ウジウジしてんだから」
因みに、凪国一のヘタレは今のところダントツで宰相閣下である。
「ヘタレで悪かったね!」
そこで、修羅はある事に思い当たった。
「そ、そういえばどうして果竪が此処に居るの?! 百合亜は?!」
百合亜の療養先として『後宮』が選ばれた時は驚いた。『後宮』なんて、普通なら王の妃達が住まう花園で、そこに行くという事は王に召され妃となるみたいなものだからだ。
それでも修羅がそれを認めたのは、萩波は果竪以外に興味は無い事を熟知していたし、そもそも萩波が部下の好きな相手に手を出すような男でもない事も大きい。
そして、『後宮』は警備的にも他より安全で、果竪の世話をする侍女達も居るから、百合亜の世話もしてくれるだろうという思いからだった。
今現在、涼雪以外の侍女達は不在らしいが、涼雪一神居ればきっと百合亜にも良くしてくれるだろう。
いつも穏やかな笑みを浮かべ、ほんわかとした空気を漂わせる少女を信頼する修羅は、そうやって百合亜の後宮滞在を納得していた。
だと言うのにーー。
果竪が此処に居る。
という事は、百合亜はあの広い『後宮』にただ一神ーー。
百合亜は一神で『後宮』に滞在した。
基本的に現在の『後宮』には王妃付きの侍女達しか居ない。一応他にも在籍している者達は居るのだが、残念なことに別の部署の助っ神に走っている。
掃除料理その他一手に現在は王妃付き侍女達が引き受けている今。
果竪が此処に居るとなれば、百合亜は。
「涼雪ちゃんが傍にいるから大丈夫」
果竪は修羅を安心させる様に言った。
「そ、そう……って、それとは別にどうして果竪が此処に居るの?! 『後宮』の外に出たら駄目って言われてるでしょう?!」
果竪の動ける範囲は、基本的には王宮の一番再奥にあたる『奥宮』で、付きそいが居れば『奥宮』の外側にあたる『後宮』内までは可能だった。
しかしそれより外には果竪は出られない筈だった。
因みに、『後宮』も王宮内の奥深くに位置する為、現実的には果竪が出歩けるのは王宮の奥である事には変わりない。
しかし、ここは『後宮』の外側にあたる内宮の、それも修羅の部屋である。
普通ならここまで来られる筈がないと言うのに。
「馬鹿修羅。だから明睡と茨戯がついてきてるだろ?」
「っ! いや、だからって」
確かに宰相閣下と『海影』の長が傍にいれば余程の事がなければ大丈夫だろう。不審神物は近づけないし、それに決して果竪を逃がしたりはしない。
「果竪がどうしても来たいと言うからな」
「来たい?」
「お前に会いに」
明睡からそう言われた修羅は、目を瞬かせた。
「ぼ、僕に?」
「本当なら呼べば良いんだろうが……お前の言うとおり、『後宮』には百合亜が居る。呼んでもお前、絶対に来ないだろう?」
今の修羅の状態を見ればそれは一目瞭然だった。
「っ……」
「だから来た。特別だ」
「……それで、僕に会いにって何か用なの?」
「うん」
果竪はコクコクと頷いた。それがあまりにも小動物らしくて。
「果竪を離せ」
果竪を再び抱きしめた修羅から、朱詩は再度果竪を取り返した。
「ケチ!」
「ふんっ! 悔しかったら、ボクよりも上の地位になったら? なれるとは思わないけどねっ」
「この野郎……」
頬を赤らめ、涙目で朱詩を睨み付ける修羅の愛らしい美貌は、見る者達の庇護欲を激しくかき立てた。
しかし、残念ながらここでそれが通用するのは、鉄線しか居ない。
「その百合亜ちゃんの事なの」
朱詩の腕の中から、果竪は修羅に話しかける。百合亜という名前に、修羅は朱詩と睨み合うのをやめて彼女を見た。