海の柘榴
【海の柘榴】
それは海の神々の食べ物
一口食べればあらゆる病や傷が治り
半分食べれば半神である人魚となりその寿命は延びる
そして一個丸ごと食べればその身は海の神となる
多くの人々がその果実を望み
その果実を得るべく争ったという
昔、人間界に一つの超大陸があった
かの大陸は後の三強と呼ばれしアトランティス、ムー、レムリアを支配下とし各国の頂点に位置した
大陸の名はエスと呼ばれ、大陸一つで国となし、エストリア帝国と呼ばれていた
帝国は皇帝から始まり民の一人まで傲慢にして堕落し享楽的な生活を謳歌する
常に支配下の国々を苦しめ、更には守り神である海を穢し続けた
ある日帝国を狙って魔神が現れたが、海神達の王――海神王により難を逃れた
しかし海神王の美しさに目をつけた皇帝は術者に頼み込み、傷ついた海神王を連れ去り強引に自分の后にしてしまう
四肢に鎖を付けられ、皇帝の欲望の犠牲となる海神王
皇帝は自分の子を産ませたいとし、海神王の女性化を願う
また、海神王の故郷を憎み海を干上がらせてしまう事を望んだ
悲鳴を上げる海に海神王は憎しみを募らせる
ある日海神王は奴隷の少女に出会う
少女は歌い微笑み、その温かさにいつしか海神王の憎悪に染まった心は開き始める
ほどなくして、少女の尽力で無事に蒼海へと逃げ延びた海神王
代わりに少女は皇帝達の手によって海神王を取り戻す力を得るべく蒼海へと捧げられ
幾つかの国は魔神復活の生け贄として滅ぼされていた
しかし帝国への怨嗟も、帝国を守る呪力によって届くことはない
怒り狂う海の神々は帝国を罰するべく一つの果実を与えた
【海の柘榴】
不老不死を、神の位を与えてくれる至高の果実を狙い帝国中が争った
互いに殺し合い増える死体の数
帝国を守る魔術師達すらも例外ではなく、次第に呪力は弱まっていく
反対に、積もり積もっていた滅ぼされた国々の怨嗟の念が集い膨らみ爆発する
帝国の傀儡となっていた魔神へとその怨嗟は流れ込み
帝国は魔神によって引き起こされた大地震と大津波に襲われた
海神達に助けを求めるも願い叶わず
絶望と悲鳴の中、帝国は海の底へと沈んでいった
ある日、海神王は海の神殿にて死んだ筈の少女を見つける
自分達の王を救うために生け贄にされた少女を不憫に思った海の乙女達によって、少女は【海の柘榴】の半分を与えられ半神である人魚へと姿を変えられていた
少女はいつの日か陸に帰る事を夢見て人間に戻る努力を続ける
そんな少女に海神王は求婚するも受け入れられない
積もり積もった想いに海神王は少女を宮殿へと連れ去り【海の柘榴】の残りを食べさせる
海神の食べ物である【海の柘榴】を丸ごと口にすれば二度と人間には戻れない
人魚となっていた少女は再び足を取り戻すが、既にその身は海の神へと変わってしまう
少女は嘆き悲しみ、それでも必死に逃れて陸に上がったものの既に帰るべき国はなく
沈んだ国を探して海を駆け巡れば
残酷な時の鎖に囚われ続ける国の怨嗟の声を聞く
身勝手なまでに呪いを紡ぎ、ようやく繁栄し始めた地上の国々は次々と絶えていく
自分達が再び海上へと舞戻るべく多くの生け贄を求める帝国
少女の説得も受け入れず
ひたすら地上の国の滅亡を願い堕ちていく
嘆き悲しんだ少女は自らの命と引き替えに国を眠らせた
そうして力を使い果たした少女は海の泡となり
嘆き悲しむ海の神々は少女を求めて今も少女の泡を探して海を駆け巡っているという
その手に【海の柘榴】を持ちながら
(「海の柘榴」出典 海にまつわる御伽話)
ファイルを整理していたら、活動報告に置いたままこっちにのっけ忘れていた小話があったので、改めてアップしました。
ちなみに、ある方達の前世です。
という事で、こちらの更新は終ります。