表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/41

鳥籠姫(※他のと比べて痛い話です)

残酷なシーンが出てきます

『貴方はずっとここで暮らすんですよ』



その言葉と共に、自分は外界と遮断された。



「可愛い……」



小さな小鳥が窓の外を飛びまわるのを見て、果竪はくすりと微笑む。

木の枝にとまり、嘴で自分の毛並みを整える様をただジッと見守っていた。


「本当に可愛いなぁ」


そして……何よりも羨ましい


自由に飛び回れるその姿が


もっとよく見ようと、椅子から立ち上がった果竪の足下で、シャランと鈴の音がする。

それは、果竪を戒める枷に繋がる鎖。


美しく壮麗なる宮殿の奥深く。

中でも一番広く一番豪華なこの部屋に似つかわしくないもの。

しかし、果竪はそうは思わない。

どれほど豪華な部屋だろうと、沢山の高級な衣装や家具が置かれていようとも、この部屋は籠でしかない。



そう――自分を閉じ込めるだけの籠。



鳥籠姫



誰が言ったのか、この部屋に閉じ込められた果竪をそう呼ぶ者がいる。


ある日、どうしても他国に行かなければならない萩波は、果竪を共に連れてきた。

しかし、ようやく外に出られると心弾んでも、実際にそれを感じることは出来なかった。


目隠しをされ、薬を飲まされ、気づけばこの部屋にいた。

あの塔となんら変わらない装飾の部屋に。


ここには、一ヶ月滞在する。

既に半分の日程が過ぎ、今後も変わらない日々が過ぎ去るだろう。


窓からは中庭が見える。

花の一つも咲いていない無機質な庭。


それは、まるで果竪が外に意識を向けるのを許さないと言わんばかりの光景だ。


それを命じたのは、夫だ。

彼は果竪が外に意識を向けることを極端に嫌う。

そうして果竪を囲い込むのだ。

大切な者達から引き離し、外界のすべてから切り離して自ら創り出した鳥籠へと閉じ込める。


外に出たい


それは今も思う願い


けれど、それを言うことは出来ない


言えばどうなったか、果竪は今まで何度も思い知らされた。

それどころか、外に気を向ける事すらも許されない事を知っていた。


知っていたはずなのに……


小鳥は、果竪がここに来て間もない頃からこの中庭に舞い降りてきた。

毎日毎日、木の枝にとまっては可愛らしい姿を見せてくれる。

ダメだと思っていても、気づけばその姿に見入っていた。


可愛い


羨ましい


何度か窓の格子のすぐ近くまで降りてくる事もあって、その度に手を伸ばした。


指一本外に出すことが叶わないとわかっていても


そうして忘れていた


外に気を向けてはいけない事を


もし侍女にでも見つかればどうなるかすらも忘れていた


ただ、今日ようやく格子を挟んだすぐ側まで来てくれた小鳥に微笑みかける。


「ばいばい」


小鳥が羽ばたく。

中庭の塀を越えて空高く舞う姿を果竪はいつまでも見送った。




その夜



「果竪、貴方に贈り物ですよ」



そう言って、萩波が渡した贈り物を開けた果竪は悲鳴を上げた。



それは小さな鳥籠だった



その中にいるのは、一羽の小鳥――



の剥製



反射的に鳥籠を床にたたき落とそうとするが、萩波の手がそれを押しとどめる。


「おや? 気に入らなかったですか? 貴方が好きなものなのに」

「酷い……こんな……」


自分を癒してくれていた小鳥の無残な末路にもはや言葉もない。


どうして


いや、今までもそうだった


優しい言葉をかけてくれた侍女が居た


逃げようと言ってくれた侍従が居た


でも、彼らはそのすぐ後には居なくなっていた


今まで何度も聞かされた言葉を萩波が紡ぐ。


「そうさせたのは貴方でしょう?」


萩波の冷たい声が耳元をかすめ、果竪を振るわせた。


私のせい……


「言ったでしょう? 外に気を向けるのは許さないと」

「…………」

「昔の貴方は違った。私達だけに懐き、私達だけを見てくれた。なのに、今の貴方は本当に困った子になってしまった。あの者達のせいで」

「蓮璋達は関係ないっ」

「他の男の名前を言わないで下さい、虫ずが走る」


萩波が果竪を寝台に押倒し、その上に馬乗りになる。


「可愛い果竪。ずっと私達だけの……私だけのものだったのに、忌まわしい虫がつく。まあ、美しい花に虫はつきものですが……それにしてもつきすぎです」


誰もが賞賛するその優美な笑顔も果竪には狂気の笑みにしか見えない。

果竪は床に転がる鳥籠を見る。


「どうして……」


可哀想な小鳥の剥製には、小鳥を死に至らしめた傷が確かに残っていた。

矢に射られた無残な傷に果竪は気づいていた。


それを行ったのは


「邪魔は取り除くまでです」


そうして萩波は消していくのだ


果竪が気を向けたものすべてを


自分達だけでいい


萩波が認めたもの以外に気を向ける事は許されない


「逃げるのは許さない」

「萩波……」

「あの時も、本当は離したくなかった」


果竪を辺境の地に追放しなければならなかったあの日


胸をかきむしりたくなるなんて言葉では言い表せない怒りと絶望


そしてその結果、果竪は自分達から離れていった


「あの時、離すのではなかった」


そうすれば、果竪はずっと側に居た

他の者に気を向けることなくずっとずっと自分達だけを見てくれた


「そう……果竪、貴方は外に出てはいけなかったんです」


この限られた場所の中だけで生きていかなければならなかった


「貴方は外に出てはいけない。私や私達以外の誰かを求めてもいけない」


他の者を見るのも、話すことも許さない


ある狂った王は愛しき王妃を繋ぐために、格子で閉じ込めて、鎖でつないで、鈴をつけて、目を塞いで、足を切り落としたという。


だが、自分はそんな事はしない


果竪を傷つけるぐらいならば、気を向けた者すべてを消して外を壊す


「わかってますね?」


わかりたくない


知りたくなかった


こんな思い


いつだって萩波は優しかった


優しくて、強くて誰よりも優れていた


萩波も、他のみんなも


ずっとずっと自慢で、大切な存在だった


美しく優しく気高い、誰よりも大好きな人達


今もその優秀さも美しさも変わらないのに


その心はもう……


「果竪、返事を」


果竪は哀れな小鳥を見る。

自分が気を向けてしまったが為に、小鳥は死んだ。

死んでなお、その遺骸を弄ばれた。

その姿に、蓮璋達の姿がだぶる。

外を望むのは許されない。

自分は死ぬまでこの作られた鳥籠の中で生きるのだ。


「果竪、泣いているのですか?」


はらはらと涙を流す果竪に、萩波は声をかける。


『化け物は多くのものを与え、受け入れてくれた枷を愛するわ。愛して、愛して、自分達以外のものが自分の枷に近づく事を許さない』


愛と憎しみは紙一重


けれど、枷が憎まれることはない


彼らが憎むのはいつも、枷を外に連れ出すもの



神堕とし




その言葉が、果竪の中に響き渡る。


愛故に狂う化け物達


誰よりも高潔で美しい人達を自分は確かに堕とした


「貴方はずっと私達の側に居るんですよ。その為にはなんであろうと利用しますよ」


腹部をなで回す萩波の手が果竪に知らしめる。


「自分の子であろうとね」


化け物は枷を愛する


愛するが故に狂い


そしてどこにも逃げられないように逆に枷をはめる


そう……子どもという絶対的な枷を


「愛してます、果竪。貴方を、貴方だけを愛している。私から貴方を奪う者はすべて消してしまいましょう」


服をはぎ取られ、寝台に沈められ


耳元で狂ったように愛していると囁かれる


「逃がさない、何処にも行かせない」


まるで幼子が母にしがみつくように抱きしめられた果竪は、涙に濡れた瞳で窓を見つめる。

窓の外に見えるのは、相変わらずの殺風景な景色。

それは変わることはないだろう。



「愛してます愛してます愛してます愛してます」

「っ――」



その後、中庭の空を覆うようにして張り巡らされた糸により、中庭に生き物は完全にいなくなる。

反対に、鳥籠には沢山の豪華な家具や衣装が運び込まれる。

女性ならば誰もが目を奪われる品物の数々。

正しく、この中だけが貴方の生きる場所だというように。



そうして哀れな鳥籠姫は、また一つ外界との繋がりを断たれたのだった。




なんとなく書きたくなった、監禁物。

久々?の痛いお話でした。

果竪の不憫さが突き抜けていく感じです。


ちなみに、今回のお話は完全に私の趣味です。

王様に執着される王妃のお話がモロに好みな私なので(苦笑)


というか、シリーズで何か書きたくなっている今日この頃です。

自由を駆けた鬼ごっことは別の、果竪の逃亡第二弾。

本編シリーズとは別の番外編で、追放前のお話で……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ