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果竪と寿那(大根)

活動報告からの引っ越しです








果竪には血の繋がらない同い年の従姉妹が居る。



名を寿那じゅな



その少女こそ、後にある事情から芙蓉と名を変え、津国初代王妃となる芙蓉后である。









果竪と寿那は一見するととてもよく似ていた。


一つ目はその容姿。

ただし見た目が同じというものではない。

寧ろ全く違う。


腰まである青みがかった黒髪と勿忘草色の瞳を持つ果竪。

ショートカットの空色の髪と瞳を持つ竪那。



そんな二人の何処が一緒なのかと言うと、十人並みという枠組みで一緒なのである。


どちらも何処にでもいるような平凡な容姿。

体つきもお子様で、自分よりも年下の子供達の中に居ればすぐに埋没してしまうような特筆するものもない、それが二人の容姿である。




二つ目はその能力。


果竪も寿那も共に落ちこぼれに近く、潜在能力も殆ど皆無に近いという最弱の力の持ち主だった。


ただ、それでも寿那の方が少しだけ果竪よりも力が強いが、周囲からすればどっこいどっこいだという。




三つ目はその将来。


ともに王妃になった彼女達。

それも腹黒に目を付けられたがゆえに。

そんな二人の旦那は幼馴染み同士の仲良し完璧美貌の腹黒さんである。






そうしてあらゆる点で似通った二人だったが、当然似てない部分もある。


その最も似てない部分はその性格だった。

何時も元気で明るい果竪とは裏腹に、色々と達観していて面倒事は寧ろ静観する傾向を持つ寿那。



特に面倒事に関しては全力で避けて通る。


その性格の形成は寿那の幼少時に起因していた。




全ての始まりは、全てにおいて恵まれていた寿那の友人である。



果竪にとっての明燐のように、寿那には常に完璧な友人が居た。

容姿も頭脳も全てにおいて勝っていた彼女は、街の権力者の子供だった。

それだけでも凄いが、本人も非常に優れていた為に男女問わず信奉者の数はそれこそ鰻登りとなる。



そんな友人に何故か気に入られてしまった寿那。

当然の如く、友人の信奉者達から敵視されたり、羨望の眼差しを受け続けて来た。

時には反吐が出るほどの称賛を。時には蔑みの言葉の数々を。



それは後に街は焼き払われ住む場所も家族も無くし、ある場所で大貴族の養女となった友人と再会した後も同じ。



大貴族となった事で信望者のランクはグレードアップした。

それどころか、大貴族の子息にして友人の義兄となった存在も友人の信奉者となっていた。

他にもランクはあれど貴族やら豪商、そして一市民の子息令嬢も友人の信奉者となり、そこに突然現れた自分達のアイドルの姫君のお気に入りに好機の目が注がれた。




そして始まる嫌がらせ




流石の寿那も切れたという。




後にそんな友人の信奉者達は友人の義兄となった子息を大将として軍を結成し、その強さは萩波の軍に勝るとも劣らないとして有名となる。



だが、そんな彼らにも徹底的な敗戦の経験を持つ




それはまだ軍を結成する前



信奉者達が寿那にちょっかいを出してから数ヶ月後の事だった




『………………………………………ウザイ』




ぼそっと呟かれた後、寿那に徹底的に彼らは




ボコボコにされた




蛙を鞄に入れられれば相手の顔に投げつける




蛇を仕込まれれば毒蛇を寝室に投げ込む




水を掛けられれば唐辛子入りの水をかける




大切な書類をぐしゃぐしゃにされれば相手の書類を春本と入れ替える




そして極めつけ




信奉者の男どもを登場人物として本番有りのBL本を書いて出版した





『おまっ、これは酷いだろぉぉぉっ!!』




本気で衝撃を受ける信奉者達に、寿那はそれはそれは美しい笑みを浮かべたという。



『今度、縄や鞭を使った話を書こうと思ってるの』



そして信奉者達は彼女に屈した。

基本的に争い事を好まない彼女だが、やり返す時は徹底的にやり返す。

面倒くさがり屋だが、その際には手段は問わない。



それから、信奉者達の彼女を見る目が変わったという――色々な意味で。




その後、何が起きたのか信奉者達は寿那の事も気に入り、それまでの態度を豹変させたとか。




しかし――





「私、平和に暮らしたいんだ」




寿那は果竪に暴露する。



それは、竪那の所属する軍が何時ものように萩波の軍と共闘中の時だった。

二軍は大将同士が幼馴染みな事もあり、かなり深い交流があり共に友軍として戦っている。



そんな事もあり、寿那と果竪は二人でいる事も多く今日もいつものように二人で遊んでいた。

そんな中、寿那は果竪へと呟いたのである。



「寿那は幸せじゃないの?」



確かに寿那も自分と同じように住んでいた街も家族も全てを失った。

そうしてその後は酷い苦労を重ね、今の軍に所属しているという。


同じ12歳。

全てを喪っても、すぐに萩波に引き取られた自分とは雲底の差があるだろう。



「幸せ……幸せだよ。でも平和じゃない」

「幸せだけど平和じゃない?」

「うん」



そう呟く寿那に果竪は首を傾げた。



「どういう事?」

「すぐに分かる」



その時である。



向こうから砂埃を上げて何かがやって来た。




「じゅな~~!!」




それは寿那の完璧なお友達――愛蓮である。

明燐に勝るとも劣らない美少女の彼女はそのままの勢いで寿那に飛びついた。




「寿那、此処に居たのね~」

「煩いの来た」

「じゅ、寿那っ」



ぼそっと呟く寿那に果竪の方が慌てる。



「あ、果竪ちゃんも一緒だったんだ!!」

「こんにちわ、愛蓮さん」

「何してたの?私も混ぜて」

「やだ」

「寿那!!」

「寿那ってば照れ屋さんなんだから」



いや、照れてるとはそういう問題ではないだろう。

顔を見れば一目瞭然。もの凄くめんどくさそうな顔をしている。



「何して遊ぼうか~~」


寿那に抱きついたまま愛蓮が言う。

しかしそこにまた新たな者達が割り込んできた。



「愛蓮、此処に居たのか」

「心配したんだよ~」

「遠くに行かないでくれ、攫われたらどうするんだ」



それは軍を結成した後も相変わらず愛蓮の信奉者をしている者達。

それぞれに見目麗しい彼らだったが、愛蓮は気にせず寿那にひっついている。



「って、あれ!寿那も此処に居たのか?!」

「うちの大将が探してたぞ」

「一緒に戻ろう」

「やだ」


「「「寿那?!」」」



断固拒否の姿勢に愛蓮の信奉者達ががんっと頭を殴られたような衝撃を受ける。



「向こう行け、しっしっ」

「俺達は犬かっ!!」

「ってか相変わらず毛嫌いするね、僕達を」

「もう心を入れ替えて嫌がらせしてないんですが」


「心を入れ替えた人達が人を軍に強制加入させないし」



「「「うっ」」」



「だって私が寿那と離れたくなかったんだもん」



愛蓮が邪気のない笑顔で言う。

その瞬間、寿那は三人の信奉者達を見る。



その目は




『面倒なことに私を巻き込まないで』




「やっぱり最初の第一印象って大切なんだね」




「「「果竪ちゃんっ!!」」」




散々嫌がらせしたせいで、心を入れ替えても信用して貰えない信奉者達。

もともと面倒くさがり屋な寿那の信頼を勝ち取るにはそれはそれは長い時間がかかるだろう。




「ってか次の街で私孤児院入るから」

「駄目!!寿那はずっと一緒に行くのよ!!」

「既に必要書類は揃えてある」

「なんでそういう時だけ行動が早いんだよっ!!」

「ってかその書類寄越せっ」

「嫌。私はこの孤児院に入るの。だって畑あるし」



果竪のように大根狂いではないけれど、実家が農家だったせいか畑仕事が趣味の寿那は孤児院のパンフレットを見せつけ畑の写真の部分をパンパンと叩く。



「あ、いいな」

「いいでしょう?果竪も入る?農業学校への推薦もあるらしいわ」

「農業学校?!」



キランと目を輝かせる果竪にその場に居た全員が青ざめる。

寿那が孤児院に行くのも大問題だが、果竪が孤児院に行くのはもっともっと大問題である。

自分達の大将(義兄)と同じぐらい腹黒の萩波が切れるのは目に見えている。



「か、果竪ちゃん、それはちょっと」

「大根の作り方も学べるかな?!」

「学べるんじゃない?他にもお米とか小麦とかお花とか色々あるし」

「た~の~し~そ~う!!」

「でもそこの学長は幼女に手を出すロリコンって話よっ!!」


何とか止めようと愛蓮が慌てて口を挟む。



だが――




「「手出されないから大丈夫」」




可愛くないもん私達




そう胸を張る果竪と寿那に愛蓮達は心の中で涙した。



果竪はもとより、寿那に対する愛蓮の義兄もとい大将の執着はいまや異常の一歩手前。

まだ子供だからと皆が止めているが、欲しい物はさっさと唾を付けるが信条の彼としてはとっとと婚姻関係を結んでしまいたいのだろう。



だが




『好み?私に平穏をプレゼントしてくれる平凡な人』




寿那の好みからほど遠い所にいる非凡な大将。

美貌も頭脳も全てが秀でている彼はどう頑張ったって平凡にはなり得ない。

そして平穏もプレゼント出来ない。



せめて最初に寿那に優しくしていればもう少し違っただろうか?



いや、きっと優しくしていても寿那は変わらないだろう




何故なら、それが寿那だから




そんな寿那だからこそ自分達は好きになったのだ




「って逃げるなぁぁぁぁっ!!」



書類片手にスタコラと逃亡する寿那とそれを追いかける人達。

残された果竪はぼんやりと思う。




「寿那、苦労しそう」




しかし苦労のは果竪も同じ。





後に二人揃ってそれぞれの軍が建国した国の王妃として祭り上げられる。





終わり?


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