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食べるものが無ければ国庫をひらけばいいじゃないの(大根)




昔、ある王妃が言ったという





パンがなければ御菓子を食べればいいじゃない





人間界でも有名な話である







津国王妃――芙蓉こと寿那は基本的にグータラである。



「ちょっと!!少しは働きなさいよ!!」

「明日出来る事は明日やる」



そう言って仕事をさぼる。

そしてとっととトンズラする。




しかも公式の場では我先に食べ物に向かう。




まさに我が道を行くタイプだった。




これだけならば最悪の王妃だろう。

というか歴史書にも最低最悪の暗愚な王妃として記載されてしまうに違いない。




しかし――




「芙蓉お姉様こっちを見て~っ!!」

「あぁんっ!!芙蓉お姉様素敵ぃぃ!!」

「きゃあ!!こちらを見たわっ!!」

「ああ、なんて素敵なお姿……」




国民――それも年頃の女性陣からとても人気があった。



「お前、詐欺だろ」

「私のせいじゃない」



寿那は興味なさげに言う。

が、正真正銘寿那の行動が原因だった。







それは津国が建国してしばらく経った頃の事である。



その年、津国を大飢饉が襲った。

殆どの作物は枯れ果て、民達は飢えた。



国庫には十分すぎる食べ物があった。

しかし、その時隣国が焦臭く津国に戦を仕掛ける噂が流れており、物資の配給を制限しようという声が一部から上がった。



だが食べるものがない




寿那は言った。




「食べるものがないなら国庫を開けばいいじゃない」




と言って、反対派を押しのけてとっとと国庫を開いてしまった。

人間界の某王妃と似たような感じだが、言う事は違う。

そしていつものグータラな姿は何処に言ったのかと思うほどの速さで書類を調えつつ軍に命令して各地へと物資の配給を行った。




それだけでも功績は称えられるが、それ以上に芙蓉后の偉大なる功績が二つあった。




一つは隣国が焦臭くなり出した頃に友好国にして同盟国である凪国に即座に密使を送って隣国に睨みをきかせてもらう事。


それはただ隣国への警戒と牽制の理由だけではない。



芙蓉后には今年大飢饉が起きること、隣国にまで手が回らない事を予め知っていたのだ。




グータラな芙蓉后。

よく姿をくらます芙蓉后。

しかしその姿をくらましている間、とくに被害が大きくなる部分に行き、予めその旨を村や町のトップに伝えておく。

そして予め対策を行わせるのだ。




だが、それでも避けられずに起きる大飢饉がある。

それがその年の大飢饉だった。




どうあがいても避けられない。

蓄えがあればまだマシだが、その蓄えだってあっと言う間に尽きるだろう。

ならば真っ向から立ち向かうしかない。



そうして芙蓉后――寿那は連絡網を徹底させ、ある訓練をさせていた。

それは配られた配給を効率よく全ての者達に行き渡らせる訓練である。



ものがあったってそれを上手く活用する訓練をしていなければ役に立たない。

それは、災害を多く体験してきた寿那の人生経験に基づく言葉だった。




最低限の動きで最大限の利益を得る




特に飢えれば体力はなくなりそれだけ動けなくなる。

その為無駄な力は使わず、それでいて迅速に物資が全員に行き渡るように寿那は徹底的に指導した。


勿論、全ての街や村を寿那一人で指導出来るわけがなく、いくつかの村や町で行った後はその訓練を受けた者達が自主的に他の町へと訓練に向かった。




そうして度重なる訓練が行われた村や町は寿那によって届られた物資を全員に行き渡らせ、大飢饉にもかかわらず死者は出なかったという。



予め物資を配っていれば良かったという話もある。

しかし、それでは予想外の出来事には対処出来ない。

現に、予想していた被害とは大幅に少なかった場所、また多い場所があり、予め均等に配っていれば多すぎる少なすぎるでまた争いが起きていただろう。



――今回は当たり年だから



大飢饉。

唯でさえ厄介だが、時々予想外の被害を及ぼすものがある。

それすらも寿那は見抜いていた。

もともと家が農家で土や水の変化には敏感だったが、それだけですむ話ではない。




大戦時代死ぬほど飢えてきた民達。

ようやく生活も軌道にのってきた時の大飢饉に昔を思い出し恐怖した者も多い。

しかし、それを未然に防げなくとも物資を惜しみなく各地へと分け与え、隅々にまで行き渡らせるように指導した芙蓉后を、彼らは王である津国国王と同じぐらい心から敬愛した。



そして民達は知っている



面倒くさがり屋でグータラだが、動く時には動く



故にその人気は高い




それは、人気が高い王宮の者達の中でもダントツである。

特に馬をかって走り回る姿に年頃の女性達は王子様と呟き熱い視線を送る。



「お前、俺よりモテるな」

「じゃあ後宮でも開けば?」



ウハウハだよ



夫に後宮を持つ事を進める妻はそうそういないだろう――本心からは




「お前……俺の妻だよな?」

「譲ってもいいよ――ああ、何するの」

「煩いっ!!」



額に青筋を浮かべた夫によって寿那は寝室へと引き摺られていった。




名君として後に名を残す暎駿。

数多の功績を残した彼だが、その最も名高い功績を挙げてと言えば誰しもが答える。





寿那――芙蓉后を妻と迎え愛した事だと





芙蓉后はグータラである。

芙蓉后はよく姿をくらます。

芙蓉后は面倒くさがり屋である。



でも誰もが愛した王妃様



賢く聡明



適材適所の判断に優れ、馬鹿みたいに観察力と洞察力に優れている



面倒くさがり屋だけどよく人を見ている




そんな賢い王妃様




芙蓉后




後に勇后の果竪后、賢后の芙蓉后としてその名を炎水界に轟かす




伝説の后の一人である





寿那のお話でした♪

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