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堕とされた果実 後日談(茨戯編)③



果竪はすぐに見つかった。

けれど、果竪以外にも何だか沢山居た。



そして何をどうすればそうなったのか?



果竪はボロボロになっていた。




「果竪っ!!」


果竪が居たのは街を抜けてしばらく歩いた先にある森の中だった。

そこで、夜盗に襲われていた。


「このっ!離しやがれっ!!」


夜盗の一人は16,7頃の若く美しい少女を抱き抱えている。

たぶん獲物として略奪しようとしているのだろう。


しかしそれを止めようとして果竪が夜盗にしがみついている。

だが、体力の限界なのか果竪の体は何度目かの夜盗の蹴りで地面へと叩付けられた。


地面を転がりアタシの足下へと転がってきた体はボロボロだった。



「ちっ!おい、行くぞっ」



夜の闇で此方に気付かない夜盗どもは獲物の少女を抱えてその場を去ろうとする。



けれど



「ひぃぃっ!!」


音もなく夜盗の一人の首が地面に落ちる。

アタシ達はそれぞれに武器を構えた。


「果竪は?」

「意識はない。殺れ」


意識がないという言葉に安堵の溜息があちこちで漏れる。

出来るならば見られたくない。

男達を消すところも、返り血に濡れた自分達の姿も。



明睡に果竪を託しアタシ達はそれぞれに武器を振るう。

夜盗の数は30ほど。

当然向こうも反撃してくるけれど所詮は自分達の敵ではない。



「ひぃぃぃっ!!助――」



命乞いする男の首も刈り取る。

どうせ自分だって今まで沢山の者達の命乞いを聞かずに殺してきたのだろう?

ならば自分の命乞いなど聞かれなくても当然なはず。



文句があるならば先に地獄で待っていればいい


下界の者達が見ればきっと驚くだろうこの所行


神だとて人間となんら変わらない


争い殺し合い、権力闘争も日常のように行われる


その犠牲になるのは何時も弱い者達


殺さなければ殺される


でも、多くの者達は殺さなくていいなら殺さないでいたかった


出来る事なにみんなで幸せになりたかった




最後の夜盗を抹殺する。


「今得た情報だが、近くに夜盗のねぐらがあるらしい。そこに略奪した物がある。

金銀財宝も人も」



女子供も立派な商品となる


明睡の言葉に何人かがその場から音もなく消える


夜盗達のねぐらに向かったのだろう



「あと、残りの夜盗達は街に夜襲をかけるそうだ」

「街って……アタシ達が滞在してる街?」

「そうですよ」

「馬鹿ね」


今の街には萩波の率いる軍が滞在している。

簡単に返り討ちにされるだろう。


「でも、そうなると果竪を連れて帰るのは危険じゃない?」


今帰れば交戦中の所に出くわしてしまう。


「少し時間を遅らせて帰りますか」


街には萩波を始め精鋭の者達が残っている。

彼らだけで対処出来るだろう。


「連絡の式も先程飛ばしましたし、心配事もなくなったでしょうから」

「う……」

「果竪?気付いたのか?」

「………歌緋は?」

「歌緋?」

「あの少女の事だろう」


夜盗が抱えていた少女は地面に倒れていた。

仲間の一人が駆け寄り抱き起こす。


「痛い……」

「当たり前です。あちこち傷だらけですよ」

「そっか……だから痛い……………………っ?!」


意識がはっきりした果竪は現状に気付くやいなや飛び起きた。

だが、そのまま明睡の腕から逃げようとするが失敗する。


「いやぁぁぁぁぁっ!!ごめんなさぃぃぃぃぃっ!!」

「あははははは、悪い事をしたっていう自覚があるらしくて何よりです」


笑っているが目は笑っていない。

滅多に見ない明睡の何処から見ても黒い笑みをさせられるのは果竪ぐらいだろう。


「イダダダダダっ」


思いきり頭を鷲づかみにされ、それでもジタバタと暴れる。

そんな事をしたら余計に傷に響くというのに。


「うわぁぁぁん!あちこち痛いぃぃ」

「当たり前です、あちこち傷だらけなんですから」


ぐわしっ、とそのまま抱き抱えると明睡は治癒の術をかけ始める。


「帰ったら覚悟して下さいね」

「覚悟?!お仕置き?!大根断ち?!愛する大根と私を引き離すの?!」


確かに大根から三日も引き離せば果竪は気が狂うかもしれない。

いつもMy大根を懐に忍ばせているぐらいだし。


「大根は、せめて大根と一日百回は愛を語らわせて!!」

「一日何回無駄な時間を過ごしてるのよ」

「茨戯煩い!!」

「あんたね!心配してわざわざやって来たのに何よその言い草はっ」

「う…………」


茨戯の言葉に果竪は言葉を詰まらせる。

そしてしばし視線を彷徨わせた後、素直に謝った。


「ごめんなさい、心配かけて」

「反省すればいいわ。で、なんでこんな所にまで来たの?」

「……………………」

「果竪?」

「………………………」

「言いたくないならそれもいい。でもね、朱詩なんて自分のせいで果竪が外に出たって思ってたのよ」

「茨戯っ!!」

「確かに朱詩もやり過ぎだけど、果竪も外に出るなんて軽率じゃないかしら?」

「……………それは……だもん」

「え?」

「朱詩のせいじゃないもん、私がここに来たの」

「なら、なんで」

「ヅラの材料探し」

「僕のせいじゃんっ!!」


朱詩が衝撃を受けてその場に崩れ落ちる。

珍しい、こんな朱詩の姿。


「え?!なんで?!どうしてそうなるの?!」

「だって、僕がヅラを返さなかったからじゃんっ!!」

「違うよ!!」

「違わないよ!!ってか果竪はそこまでしてヅラを領主に返したかったの?!はっ!もしや領主に脅されたんじゃっ」

「私は脅されてないよ」

「私は?」


明睡は聞き逃さなかった。


「うん。私じゃなくて歌緋が脅されたの」

「歌緋って……あの子?」

「うん。お父さんが理髪店を営んでて、鬘作りの名手」


一部の者達にとっては救い主だな、心身共に


「でね、今回無くしたヅラの代わりを作るように言われたんだけど、材料がなくって……で、その材料は今の季節とれないんだけど、そしたら領主様の息子が怒り出して」

「ヅラぐらい多めに作っておけよ」

「あんた、あの領主に関係するものには本当に手厳しいわね」

「それでどうしたんですか?」

「何が何でも作れって言われたけど、歌緋のお父さんは無理だって言い続けたの。その時にね、丁度歌緋が自分が着る花嫁衣装を持って現れちゃったんだ。そうしたら、歌緋が結婚することを知っていた領主様の息子がその衣装を奪い取って、これを返して欲しかったらさっさと作れって」

「最悪」


花嫁衣装は女の子の夢である。

それを奪い取るなんて、男の風上にも置けない。


「しかもそれ、歌緋の亡くなったお母さんの形見だったから……」


それで分かった。

歌緋はそれを着て花嫁となる筈だったのだろう。

けれどその宝物を奪われた。母の形見でもあるそれを。


だから、それを取り返すべくヅラの材料を探しに来たのである。



そして



「だから、アンタもヅラを取替えそうとしたのね」

「うん」



無くなったヅラの代わりを作るように脅した領主側。

けれど、そもそもそんな事をしたのはヅラが無くなったからで、もとのヅラが戻ればそんな事はしなくて済む筈。



そう考えたから果竪は朱詩に頼んだのだ。


「そっか……さっさと返せば良かったね」


朱詩の言葉に誰もが何も言えなかった。


「ってか、果竪。アンタもそれを言えば良かったのよ」

「うん、でも、朱詩だったら少し日を置けば大丈夫かなって」


その事を説明しようと果竪が歌緋の元に赴いた時だった。

歌緋は既に材料を探しに森へと向かっていたのだ。


だから誰にも何も言えずに飛び出すしかなかった。


「で、そこで夜盗に出くわしたと」

「うん」


そして夜盗から歌緋を守ろうとして、自分達が駆けつけたと。


「全くアンタは……」

「ごめんなさい……朱詩もごめんね」

「なんで果竪が謝るんだよ」

「だって私の説明が足りなかったから……説明してたらきちんと返してくれたでしょう?」

「それは……」


そこで朱詩は顔を伏せる。

何かぼそぼそと言っているが聞き取れない。

それでもようやく聞き取れた一言に果竪は顔を輝かせる。


――ごめん――


「今度は一緒に大根釣りしようね」

「うん」

「ちょっと!!そこは拒否しなさいよ!!」


素直に大根釣りする事に頷く朱詩に思わず怒鳴る。


「それで果竪」

「ん?」

「ごく基本的な質問なんですけど、歌緋とはどういう関係ですか?」

「お友達」

「…………………はい?」

「この街に来た時みんな忙しかったでしょう?でも私は何も出来なくて」


それで街をウロチョロしていた時に出会ったのだと言う。



「悪い男の人達に連れて行かれそうになってたの」


その男達を蹴り飛ばし町中を逃げ回ったと胸を反らして言う果竪に目眩がした。


「あんた……」

「だ、大丈夫だよ!!ちゃんと逃げ切れたし」

「逃げ切れたって危ないものは危ないでしょう!!報復とか来たらどうするのよっ」

「来ないよ。明燐がボコボコにしてたもの」

「え?」

「逃げてた途中で明燐に見つかったの。そしたらその男達が明燐に目を付けて手を出そうとしてボコボコにされたの」


それはそれは容赦がなかったという。

確かに明燐は容赦がない。特に自分が認めた相手以外の者が自分に近づけば全力で排除しにかかる。


「流石は私の姫。で、そいつらの名を全て教えて下さい」

「明睡、目が笑ってないわよ。果竪が怯えてるわ」

「別に果竪には怒ってません」

「ならその怒気をどうにかしなさいっ」


そう言うと明睡は舌打ちしながらも怒気を押さえ込む。

全く……妹の事になると暴走するんだから。


仮にもうちの軍師でクールビューティーと名高いくせにシスコン。

敵に知れたらさぞかし恥だ。


「まあ、でも明燐に助けられたんなら運が良かったわね」

「うん!!でね、明燐凄いのっ!!ロープで男の人達をキッコウシバリにしたんだ!!」


前言撤回。寧ろなんて運が悪いんだろう。

しかも茨戯は果竪の言葉にゴクンと唾を誤嚥した。

本来食道に入る筈の唾は見事なまでに気管へと入りゲホゲホと間抜けに咳き込む。


「ゲホゲホゴホッ!!」

「亀甲縛り……」

「うちのお姫様は勉強家ですね~」

「そういう問題じゃないわよこのシスコンっ!!」

「なんかね、街の人達が凄いって褒めてたんだ!!」

「果竪、あんた今すぐその記憶を頭から消し去りなさいっ」

「え?どうして?凄かったよ!!その後縛り付けた人達を鞭で叩いて蹴り倒したり踏んづけたりしててやり過ぎ!!って思ったけど、でもその人達が明燐に苛めてくれてありがとうって……」

「今すぐ記憶から消しなさいぃぃぃぃっ!!」

「はぃぃいっ?!」


明燐の女王様度は日々上がっていくようだった。


「うちのお姫様の勇姿を忘れるなんてとんでもない

「茨戯が怒った~~」

「きっと月の障りだよ」

「男のアタシにんなもんあるかぁぁっ!!」


朱詩の言葉に思わず絶叫する。


「とにかくっ!!とっとと戻るわよ街にっ」

「え?!で、でもまだ危ないんじゃ」

「大丈夫よ!!今頃夜盗達も一網打尽に捕らえられてるわ」


あれから既に1時間近く経っている。

街にいる者達の戦力を考えればとっくに決着はついているだろう。


そうして果竪と思いがけず助ける事となった歌緋を連れてアタシ達は街へと戻ったのだった。





まだ続きます~。

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