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堕とされた果実 後日談(明燐編)


美しい青空だった。

何処までも澄み切った空の空気は酷く清廉で、小鳥達の朝の囀りが心地よい。

今が戦いの真っ最中だなんて思えない朝の清々しさに、明燐は久方ぶりに自分がくつろいでいる事が分かった。





そんな素晴らしい朝に響いてきたのは、自分が可愛がる少女の泣き声





「果竪っ?!」



驚いて部屋に駆けつければそこには姿がなく、必死に探せば果竪は自分達の軍のリーダーの元にいた。





半裸で。




「果竪、どうしたんですか?」




そう告げる相手は、下半身に下衣を身に付けているが上半身は裸。

雪のように白い肌はほのかに青白く輝いているかのように艶めかしかった。

いつもは衣に隠された上半身は一目見て無駄な贅肉のない美しい体つきをしている。

何処か中性的な雰囲気を漂わせつつも、しっかりと鍛えられたその身体は女性であれば抱き締められたいと懇願するほどに素晴らしい。



しかし――




「なんで……」



年頃の女性が半裸で側に居るならまだいい。

つまりそういう事をしていたんだね、うん――で済む。



だが、上半身裸の萩波の傍に半裸で居るのは、まだ12歳という幼い果竪である。




なんで





「貴方は何をしてるんですのぉぉぉぉっ!!」




明燐の怒声が、自軍の滞在する舘はおろか周囲の建物にも響き渡った。




「明燐!!」



果竪が明燐に飛びつく。



「果竪!!」



そんな果竪を自分が羽織っていた上掛けでくるみ抱き締める。

まだ未熟な身体が小刻みに震えている。



「おやおや、逃げられてしまいましたね」

「萩波様!!貴方は果竪に何をしてたんですかっ!」

「愛を交わしてました」



愛?



ぽかんとする明燐に萩波はくすりと笑う。

慣れた筈の不遜な態度が今日に限って妙に憎たらしく感じる。

いや、殺意さえ覚える。



「馬鹿にするのもいい加減にして下さいな!!」

「馬鹿になどしてませんよ。全て真実です」



萩波の言葉に明燐は更にかみつこうと頭を回転させる。

だが、萩波が身体を動かした事で毛布がずれ、露わとなったシーツのそれに明燐は目を丸くした。




それは





それはっ






「果竪になんて事を!!」




しかもよくよく見れば、果竪の身体にも萩波の所有の証が刻み込まれていた。




「そんな……そんなっ!!」

「ひっく……えぐ……」

「まだ年端もいかない少女になんて事を!!」




果竪は幼い。

見た目だけでなく精神も。

人よりも大人びていると言われる明燐とは雲底の差である。

特に体つきに関しては、年齢に似合わない豊満な肢体を持つ明燐と並べば実年齢よりも更に幼く見られてしまう。



そんな、そんな果竪にこいつはっ!!



「まあ年端もいかない事は認めます」

「認めるですむ問題ですかっ!!」



済む問題ではないだろう。



「くっ!!いいです事?!これからは果竪が成人するまで近寄らないで下さいな!!」



萩波の事は尊敬しているし立派な人物とも思っている。

でなければ自分も兄もこうして従軍したりしない。

軍にいる狸揃いの者達の尊敬と信頼を勝ち取るほどの存在。

だからこそ皆が萩波に従った。



そんな萩波が果竪の事を密かに想っている事も知っていた。

果竪が年頃になればきっと自分の想いを伝えるだろうと。

その上で果竪が選ぶのならば――そうしたら祝福しても良いと思っていた。



だが




この男はまだ幼い果竪にちょっかいをかけ続け、挙句の果てには




こうなったら年頃になるまで近づけさせない。

もし果竪が別の男性を選ぶのならば自分が盾になってやる。


しかし、萩波はそんな明燐の想いを嘲笑うように微笑んだ。



「近づけさせないですか」

「そうよ」

「でも、それは無理ですよ」

「え?」

「だって自分の妻の傍に居るのは夫の特権ですから」

「はい?」



妻?




「昨夜、入籍致しました。その書類も全て送って今頃は受理されてると思います」



入籍?



書類?



受理?




「と言うことですので、妻をかえして下さい」

「このっ!!ロリコンがっ!!」



明燐の怒りは頂点に達した。



「大切に……大切に大切に育てて、これからも大切に育てる筈だったのを、貴様がぁぁぁぁぁ」




こいつ殺す。主君だろうが関係ない。



怒り狂った明燐は神気を爆発させようとした時だった。

すっと音もなく気付けば後ろに立った萩波が首に手刀を入れる。

トンッという感触と共に一気に目の前が暗くなり意識が遠のく。



「果竪が怯えますから静かにしてて下さいね」



誰が怯えさせたんだと怒鳴りたいが、もはやそれさえも出来ず身体から力が失われていく。




「明燐っ!!」



果竪の叫び声を最後に意識は途絶えた。





次に目覚めた時には、諦めきった茨戯と朱詩を始め、いつもは唯我独尊と名高い仲間達の絶望と悲しみと同情に満ちた眼差しに囲まれていた。



そしてその向こうには




「夫?お父さん?」

「お父さんは違いますね。でも、果竪の母上にとっての父君ですね」

「そうなの?」

「そうなんです。果竪は私の奥さんになったんですよ」

「でも……私、12歳だよ?村のお姉さん達が結婚した時の年齢は17,18歳ぐらいだったよ?」

「果竪の場合は特別なんですよ」



「特別で済む話ではないですわぁぁぁっ!!」




果竪に間違った知識を植え付ける萩波に再び飛びかかった明燐を止めるのに、茨戯達が死力を尽くしたのは言うまでもない。



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