7.目的
「好井さんはどうなの?何のためにダンジョン良いってるの?もう相当強いし、これ以上鍛える必要はあんまりないと思うんだけど」
今までずっと、過去の話などはごまかされてきた。
だが今回は少し方向性が違う。ただ単純に、ダンジョンに入る目的を尋ねているんだ。お金のためだと言えば少しはごまかせるかもしれないが、それを選択してこの質問から逃げるのかどうかも少し気になる部分ではあるな。
過去に何かあるということは、このダンジョンへもぐり続けることにもやはり何かしらの目的があるということだと思うから。
「……………」
好井はすぐには答えず、数秒の沈黙が訪れる。
だがそれでも俺は焦らせることもさせなければ、話題を転換するようなこともしない。ただ好井が動くのを待つだけ。ひたすら待ちの姿勢である。
「私の目的、か」
「そうだよ。今後行くダンジョンも、その目的に合わせたものにした方がいいでしょ。今は適当に入って行ってるけど、スキルを鍛えるにしてもお金を稼ぐにしても、そういうのに適したダンジョンってやっぱりあるからさ。目的があるならそういうダンジョンに絞った方がいいでしょ。それこそ、そういうところを周回するようにしていった方が効率とかは良いと思うし」
「まあそう。かな」
俺の言葉に反論する様子はなく静かに考えている。
ごまかす方法を探っているのかもしれないが、ここまで迷っているということなんだから恐らく、
「……………あのさ、雅君」
「ん?何?」
「私ね、やっぱりダンジョンって怖い場所だと思うの。絶対、資源を供給してくれるだけの場所じゃないと思うんだよね」
「……………え?どういうこと?」
打ち明けてくれる。
そこそこの覚悟は必要だったんだろうけど、あそこまで悩んだということはどれだけ悩んでも結局最終的には打ち明けてきたと思うな。悩んだということは、それだけ話したかったということだろうから。
ただやはり気になるのはここから打ち明けられていく内容だな。
ダンジョンが安全な場所ではないということは実際そうなんだが、どの程度のことを好井は口にしてくれるものなのか。
「ダンジョンが危険なのは確かに言うとおりだとは思うよ。俺も何回かヒヤッとしたことはあるけど、基本的に冒険者とかって危険と隣り合わせでいつ命を落とすか分かったものじゃないし」
「それはそうなんだけど、そうじゃないの。もっと本質的に、別のところで危険なんじゃないかと思うんだよね」
「ん~。というと?」
「例えばダンジョンのモンスターがもし外に出てきたら、一般の人に凄い被害が出ると思うんだよね」
「あぁ。この前言ってた、スタンピードとかいうやつ?あれが起きるって好井さんは考えてるわけ?」
「……………うん。間違いなく、起きると思う」
「そっか……………」
俺の確認に、好井は少し迷ったようだが素直にうなずいた。
それだけ素直に示してくれるということは、ある程度俺も好井に心を許されてきたってことだよな。ある意味俺がこうして好井と一緒にダンジョン探索するうえでの目的は達成できてきたってことか。
ただそれはそれとして、
「だからってダンジョンコアを壊しちゃったりするのはさすがにマズいと思うし、何かできることあるかな?」
俺は尋ねてみる。何かできることがあるのか、と。
そのスタンピードの対応のためにダンジョンをまず潰してしまうなんていう対応はできないし、できることは限られてくると思う。
その中で好井が選択するのは、
「いろんなダンジョンに行って、間引きをすべきだと思うの」
「間引き?」
「そう。間引き。ダンジョンのモンスターを定期的に間引いておくことによってあんまりモンスターが成長したりとか増えすぎたりとかしないようにできるんじゃないかと思って」
「……………なるほど?」
俺は理解できたようなそうでもないような、そんな声を出す。
実際、俺も内心あまり性格には理解できていなかった。
ただ1つ分かることがあったとすれば、救いはそのあたりの認識が決して正確ではない。決して、全てのダンジョンの機能を理解できているわけではないってことだ。
「増えすぎたり強すぎたりしなければ外に出てこないってことか?」
「そうなんじゃないかなと思う。条件は、モンスターが増えすぎたり成長しすぎたりすることなんじゃないかと思うから」
「ふ~ん?」
残念ながら、好井のこの認識は誤りである。
確かにスタンピードという機能が存在してダンジョン内のモンスターたちをを外に出す機能があるが、それは別にモンスターの数が増えたから起こるわけでもモンスターが成長して強くなりすぎたから起こるわけでもない。
単純に、発生してからの期間によって決まるんだ。ダンジョンができてか数か月すればいつでもスタンピードは起こせる状態にできて、それこそ今だって多くのダンジョンで引き起こすことは可能な状況になっている。
もちろん、今はまだ起こさないが。
「本音としてはその法律とか改正してもらってダンジョンをすぐにでも破壊してしまいたいところではあるんだけど」
「まあ無理だろうね。もしこの国がダンジョン破壊して良いってなったら、資源の差で絶対他国に後れを取っていくことになるから。政府としても国民感情としても受け入れがたいでしょ」
「だよねぇ。どうしようかな……………最近はいっそのこと、法律とか無視して世界中のダンジョンを破壊して回ろうかなとかも思ってるんだけど」
「うわぁ~。世界の敵まっしぐらだね」
少し疲れた表情で笑い、俺にとっては笑えないことを言ってくる好井。
もし本当にそんなことをされてしまったら、俺のダンジョンが大量に破壊されてしまって俺の目的達成がかなり難しくなってしまう。
好井をどこかの国がどうにかするなんて言うのも難しいように思うし、このままその思想を持たれ続けるのは確実にマズい。
しかも、好井がもう少し強化された場合下手をすると自分が好井であることを隠しながら世界中のダンジョンを破壊していけるようになる可能性もあるからな。
そうなってしまえばもう終わりだ。
そうなる前に、首輪を付けんなければなrな愛。
「……………よし。そういうことなら、俺から1つ提案があるんだけど、聞く?」
「え?何々?聞く聞く」
「好井さんさ、ダンジョン配信とかやってみない?」
「ダンジョン、配信?」