5.法律
「何?なんで止めるの?」
俺は今、冗談ではなく命の危機に瀕している。
好井がその気にいなってしまえば、すぐにでも俺は殺されるだろうと思われるような状況だ。ドラゴンをあそこまで一方的に倒す姿を見せられると、対抗できるとは全く思えない。おそらく戦うことになれば3秒持たないだろう。
だがそれでも、俺は動いてしまった。俺の作り出した大切なダンジョンを守るために。
こうして命の危機が訪れることが分かっていながら、動いてしまったんだ。だがそれでも、俺も全く何も考えずに動いたわけではなく、
「好井さんこそ何しようとしてるんだ?ダンジョンコアを壊すなんて立派な犯罪だぞ?」
「……………え?」
鋭い目つきが俺の言葉で消える。虚を突かれたような表情になった。
とりあえずこのすぐにダンジョンコアを壊すんだという雰囲気はなくなったし、話し合いをしていけるだろう。
「コアを破壊すると、そのダンジョンが消滅してしまう。ダンジョンは貴重な資源の供給源だから、壊すのは問題なんだ。好井さんかなりダンジョンに詳しいし手慣れてる感じだったから、てっきりそれくらいわかってるかと思ってた」
「いや、聞いたことないけど……………え?本当にダンジョンコア破壊するのは駄目なの?」
「当たり前でしょ?いったいダンジョンがどれだけ社会に貢献してくれてると思ってるの?俺たちが職業を得られるのもスキルを得られるのもダンジョンに入ったからこそだし、ダンジョンの宝箱で手に入るアイテムとかモンスターを倒して手に入る素材とかどこをとってもダンジョンは重要な場所なんだから」
俺がダンジョンを守るために使える言い訳。それが、法律になる。
非常に俺にとって集うの良い事に、ダンジョンは貴重な資源の供給源ということで世界中の各国で破壊することが筋されてるんだ。
それこそ1つ破壊してしまえば経済に非常に大きな影響を与えてしまうし、国が全力で資源を回収しようと動いてるんだ。
それこそ他の国から来たスパイなんかは他国のダンジョンを壊そうとするなんて言うこともよくあって、それで国際問題になったりなんて言うこともたまにある。
流石にそれで死刑なんて言うことにまではならないが、かなりの罰金を払わなければいけなくなるんだ。それこそ下手をすれば。数億円規模の。
「そ、そっか。でも、ダンジョンって危険な場所でしょ?危険なものを放置してていいわけ?モンスターの脅威を取り除くことができるんだよ?」
「いや。ダンジョンが危険なのはそうだけどさ。だとしても結局危険な目に合うのは中に入った人だけだからそこは良いじゃん」
「中に入った人だけ?………え?スタンピードは?」
「スタンピード?何それ?」
「え?知らないのスタンピード。ダンジョンのモンスターが地上に出てきて、暴れまわって人を襲ったりするんだけど」
「アハハッ。何それ。そんなのあるわけないじゃん。ダンジョンのモンスターはダンジョンンから出られないんだよ?あんなに強いしダンジョンには慣れてそうなのに、その辺の常識はないんだね」
俺は笑う。
だが、心の中で渦巻いている違和感は決して無視できるものではなかった。
あまりにも、この目の前にいる好井心という存在は異質過ぎる。俺だけダンジョンにしかいないはずのモンスターとの戦いが上手いだけでなく、ダンジョンに入ったからこそ使えるようになる魔法なんかも使っていた。だから、ダンジョンに入ったことがあるというのは間違いないはずなんだ。
ただ、そのはずにもかかわらずあまりにも常識がない。世界中でダンジョンコアを破壊するのはいけないことなんて言うのは常識だし、俺もそういう風な認識になるようにダンジョンの調整をしているのだから知らないはずがないはずなんだ。
だというのにそのあたりの知識が抜けているのは明らかにおかしい。
「そっか。ここだとまだスタンピードはないんだ…………そっか」
「えぇ?本当にどうしたの好井さん」
「い、いや、何でもないよ。それよりごめんね。知らなかったとはいえ、無茶なことをしちゃって」
「ああ、いや。話は素直に聞いてくれたから良いんだけどね?でも、本当にダンジョンコアとか壊すと大問題になるから気を付けてほしいかな」
俺の確認を適当にごまかしつつ好井は俺に謝ってくる。
だが、俺の心の中はやはり穏やかにはならない。
違和感はもちろんなのだが、それ以上に警戒すべきだと確信できる情報を好井は持っている。
それが、スタンピード。
俺の作ったダンジョンの中で使える機能で、まだ一度も使ったことがないはずの脳力なのだ。そんんあスタンピードを好井が知っているというのは、明らかにおかしい。
このダンジョンに一緒に来るまでは油断があったが、俺の心にもうそんなものはない。好井は確実に、この先ずっと警戒推していかなければならにだろう。それこそできるならば、消してしまった方がいいクリアの存在にすら思える。
もちろん、できるかどうかというのは別の話だが。
「さて、それじゃあ好井さん。帰ろうか。もうダンジョン子があるってことは先もないってことだし」
「あっ、うん。そうだね。ならゲートで…………って、そっか。ダンジョンコア壊してないからゲートもないのか」
「ゲート?何それ?」
「あっ、いや。何でもないよ?」
更に戻ろうと声をかけてみれば、新しく一般には知られてないはずの情報も出てくる。ダンジョンを攻略したらダンジョンコアのあるとk炉から入り口まで転移されるゲートができるなんて知識、いったいどこで身に着けたんだろうか。
ただそう言った知識を持っていることはごまかしたいようで、俺の追及をごまかすようにして、
「そ、そうだ雅君。お願いがあるんだけど良いかな?」
「お願い?何?ダンジョンコア壊すから黙っててお欲しいなんて言われても嫌だけど?」
「しないよそんなこと!犯罪ならやらないもん!そうじゃなくて、私あんまりダンジョンの常識とか分かってないのも分かったし不安だから、良かったらこの先しばらくダンジョンに行くときに一緒についてきてくれないかな~って思って。良かったら、お願いできないかな?」
俺にダンジョン攻略時の同行を頼んでくる。
明らかに一般的な常識なんかは知らないようだし本人の不安も分かるから、そのお願いに違和感はない。俺は俺で好井のことを監視できるということを考えれば、悪くない提案と言えるかもしれない。
「……………はぁ。まあ、乗り掛かった舟だし協力するよ。好井さんのこと見てると不安になるからね」
「ありがとう!じゃあこれからよろしくね!」
「うん。よろしく」
一切の裏などなく、太陽のような明るい笑顔を向けてくる好井。
そんな彼女に俺は、対照的な純粋な気持ちなど全くないと言ってもいい真っ黒な笑みを返した。