3.強敵(笑)
「っ!雅君!危ない!」
「え?」
好井が突然俺に叫ぶ。それにより、俺の視線が好井の方へと動く。この動きによって俺はかなり無防備な状態へとなった。
そんな俺を見た好井は失敗したという表情になる。しかしすぐに光の壁を生成し俺の前を覆った。その早業に俺は驚くが、直後オーガの拳が壁にぶつかり激しい音を立てたため意識はそちらに持っていかれる。
……………という一連の演技までして、好井の戦闘面の能力を理解していく。
あえて俺が無防備になりモンスターに攻撃をさせることによって好井がどう行動するのか観察しようと思ったのだが、予想以上に好井には速く動かれて俺は何も影響を受けずに済んでしまった。
本t峰は殴られて吹き飛ばされるなりして安全圏から観察できるような状況にしたかったんだが。
好井の実力はまだまだ俺の想像よりも上なようだ。
苦々しくは思うが表面上は驚くとともに安堵したような表情を浮かべておき、
「ありがとう、好井さん」
俺は息を整えながら感謝の言葉を口にした。
オーガは血を吹き出し倒れたから、倒せたと思わせることができたと思ったんだがどうやらそんなことはなかったみたいだな。油断はしてくれないらしい。
「気にしないで。あそこまで血だらけになって倒れたら死亡したと勘違いしちゃうのも分かるし。でも、次はもっと気をつけてね」
好井は微笑みながら、再び前に出る。
オーガが再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、好井は「ライトランス!」と叫び、光の槍を生成して投げつけた。槍はオーガの胸を貫き、開いた穴から血が噴き出す。オーガは苦しげに呻きながら、倒れ込んだ。
「倒した、の?」
「まあね。でもまだ気を抜かないで。このくらいの階層には同じくらい強いモンスターが大量に居るだろうから」
俺が諦めず油断を刺せるように喜んでみたのだが、好井は警戒を解かず前を見据えていた。
なかなかガードが堅いな。
そんなこともありつつ俺たちはさらにダンジョンの奥へと進んでいき、
「あっ。そこ罠あるから気を付けて」
「うぇっ!?罠!?今までそんなのなかったのに?」
「今まではなったけど、下の階層になってきたから出してきたんじゃない?こうやって石を投げれば………ほら。矢が飛んだでしょ?」
「ほ、本当だ………」
道中、いくつかのトラップを避けながら進んでいく。好井のどこで手に入れたのかもどうやって手に入れたのかも全く分からない知識と経験がいともたやすく俺のダンジョンの罠を見抜いて行く。
好井は本当に俺を苦しませてくれるな。
先頭に強いだけでなく罠まで発見できるとなると、火穏当に対処の使用がない。もし俺が魔王だとバレてしまえば、どうしたって対処はできないだろう。
そうして俺が若干どころではない恐怖を感じる中、進んでいると好井は何かを感じ取ったのか、
「ここからは慎重に行こう。」
そんなことを言ってくる。当然ここまでの探索の流れで流れの主導権は握られてしまっており俺が断る理由もなく、俺たちは言う通りゆっくりと進み始めた。
するとある程度まで進んだところで突然、通路の先から異様な音が響いてくる。金属が擦れるような音と、低い唸り声が混ざり合っていた。
「何かいるな……なぁ、さっきのОがより確実に強いやつがいると思うけど進むのか?」
「うん。進むよ。あれより強いくらいならまだまだどうにでもなるから」
俺は撤退を提案してみるが、あえなく好井に首を振られてしまう。どうやらそのつもりはないらしい。下なく俺は警戒しながら進んでいく。
ここで撤退させて一旦ダンジョン運営の新しい方針なんかをしっかりと考えなければいけなかったのに。
「音は、ここからか?」
「そうだね。気配もするよ」
通路を抜けると、大きな部屋にたどり着いた。
その中から先ほどから聞こえている音が発せられており、好井は何かの気配まで感じ取っているらしい。
俺たちがユックリと壁から顔をのぞかせてみれば、
「あ、あれは!?」
「う~ん。まあそこそこの強さではあるかな」
その中央には巨大でありそして圧倒的な格の違いを見せるモンスター。ドラゴンが佇んでいた。鱗が光り輝き、その瞳には知性が宿っているように見える。
「ドラゴン……こんなところに……」
俺は驚きの声を上げた。
もちろんいることは分かっていたが、こうして実際に声に出してみることで俺自身に実感を与えて安心すると共に、俺の隣のやつに恐怖をもたらすという効果を出すんだ。
「今までとは比べ物にならないね。でも、これくらいならどうにかなるかな」
「なっ!?戦うつもりなのか!?ドラゴンだぞ!」
どうやら俺の願った成果は得られないようだ。恐怖に震えるなんて言う様子は一切見せず、好井は余裕そうな表情で光の剣を握り直した。
俺はさすがにマズい気がして止めようとするが、
「大丈夫だよ。雅君は隠れてて。私でこれは片づけられるから」
「なっ!?戦うだけじゃなくて1人であれを倒すつもりなのか!?…………まあ確かに俺じゃあ役に立てないかもしれないけど」
どうやら戦うという意思は消えないらしい。
ここで無理やり止めるのも不審がられかねないから、俺との実力差という部分を強調して止められないという理由付けをしておく。
そんなことをしていると、
「ガアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!」
ドラゴンは俺たちに気づき、威嚇するように唸り声を上げた。空気がびりびりと震えて、強烈な圧を感じる。
オーガも強かったし覇気はあったが、やはりそれでも圧倒的な威圧感の差をドラゴンは持っていた。
ただその咆哮をうけても眉1つ動かさず、逆にお返したとばかりに好井は、
「ライトアロー!」
と叫び、光の矢を放った。
先ほど見た時よりは浅く、しかししっかりとドラゴンのうろこを貫通して矢は突き刺さる。
これでもこのドラゴン、たいていの物理攻撃ははじくし魔法も当たったところでまったく意味をなさないようなモンスターのはずン場のだが、簡単に作り出された魔法の矢でここまでの結果が出せることに俺は背筋が凍る。
どんどんと俺の予想を射好井は超えてくる。
超えるのはかまわないのだが、もっと別のところの俺にとってメリットになる部分で越えてほしかった。