2.初ダンジョン
「じゃあ行こうか」
「うん。案内よろくね!」
放課後、俺たちは学校を出て、近くのダンジョンへ向かうことにした。道中、好井さんは興奮気味にダンジョンのことをいろいろと尋ねてくる。
「ダンジョンの中ってどんな感じなの?モンスターってどれくらい強いの?」
「ダンジョンによって違うけど、基本的にはゲームによくある迷宮みたいな感じだよ。モンスターもレベルがあるから、初心者向けのところもあれば、上級者向けのところもあるし」
「そっか、面白そうだね」
「そうか?面白そう、か?」
「え?あ、あれ?そうでもないの?」
好井は慌てた様子を見せる。俺の反応からして、自分の言葉や態度が間違ったものだったと気づいたようだ。
実際命の危険がある場所だし、決して楽しい場所ではない。
とはいっても一攫千金を目指せる場所ではあるし比率居た戦闘ができる場所でもあるし、稼ぎの面でも戦闘面でも楽しいと思える人も一定数はいるのだろうが。
そうして失敗した好井はすぐに話題を変えてきて、
「雅君はどれくらいの頻度でダンジョンに行ってるの?」
「最近は週に一回くらいかな。学校の勉強もあるし、時間を見つけてって感じだね。」
「ふーん。そうなんだ。それでも結構頻繁に来てる気がするけど、習い事みたいな間隔じゃん」
そんなことを話しながら歩き、割とすぐにダンジョンへは到着する。
ダンジョンの入り口に立つと、好井の表情が引き締まった。彼女の目には覚悟のようなものが宿っていて、その姿に俺は少し驚いた。
力があるのは分かっているが、ここまで何か彼女に感情の変化を引き起こす兪応なものはなかったような気がしたから。明らかな警戒心が見て取れる。
俺はそれが少し怖く感じたため早くその姿から良あっまでの救いの様子に戻したくなり、
「行こうか」
俺が言うと、好井は頷いて一歩踏み出した。
その時には俺が望んだように、すでに様子は先ほどまでの明るい穏やかな物へと変わっている。
ダンジョンの中は暗く、冷たい空気が漂っていた。好井は迷いなく進んでいき、その後ろ姿に俺は何か特別なものを感じた。
「どっちに進む?」
しばらく歩いているとモンスターにも宝箱にも出会えないまま、分かれ道に出会う。本来なら道中にモンスターが配置されたりしているはずなのだが、おそらく先に他の冒険者が来たりしたんだろう。
分かれ道のどちらに進めばいいのかまでは好井も分からないようで、振り返り尋ねてくる。さすがに何でもダンジョンのことを知っているわけではないと知り俺の心には少し軽くなったような気が下。
「こっちの方が安全だと思うよ」
ただそんな俺の気持ちは一切表面には出さず、分かれ道の一方を指さしながら答えた。
好井は頷き、先に進む。彼女の動きはスムーズで、まるでこの場所に慣れているかのようだった。
そうしてしばらく歩いていると突然、
「ここで待ってて」
好井がそう言うと、一気に走り出した。
「好井さん、待って!」
俺は急いで追いかけたが、好井はすでにかなり先の方に行っていた。
そしてさらに、その先に走って行っただけでなくモンスターたちと戦い始めている。
「ハァァァ!!!!」
「ブギャアアァァァ!!!????」
好井は光の剣を魔法で作り出し、その剣を握ってモンスターに切りかかる。その動きはまるで舞うように美しく、次々とモンスターたちを切り裂いていく。
しかも剣で切り裂くだけでなく、遠くにいるモンスターには他の方法で対応している。
「ライトアロー」
そう好井が唱えれば光の矢が放たれ、それぞれモンスターたちを一撃で仕留めていった。さらに、「ライトランス」と唱え光の槍を生成し、それを投げて遠くの敵を貫く。
彼女の戦いぶりは圧巻だった。モンスターたちを次々と倒していくその姿に、俺はただ見とれるしかなかった。
「すごい……」
俺は思わず呟いた。
だが俺の心には、単純な驚きや尊敬などだけではなく、小さくはない不安と恐怖が渦巻いていた。俺が知る限り、この目の前にいる好井という少女は人類最強なのだ。ここまでモンスターたちがあっさりとやられることなど、今までなかった。
「じゃあ雅君。モンスターも片づけたし、そろそろ先行くよ~」
「あ、ああ。そう、だな」
俺は苦々しく思いながらも、アックまでも表面上は驚いているという程度に推しとどめてその背中を追いかけた。
ダンジョンの奥へ進むにつれ、周囲の空気が一層冷たく、重く感じられるようになった。壁に刻まれた古いルーン文字(風に見える何かを俺がデザインした)が光を放ち、不気味な雰囲気を醸し出している。俺たちは注意深く進みながら、周囲の気配に敏感になっていた。
「っ!危ない!雅君!」
「え?………うおっ!?」
「グオオオオオォォォォォオッォ!!!!!!!!」
突然、通路の先から巨大な影が現れた。とび出してきた巨大なオーガが、鋭い牙をむき出しにしてこちらを睨んでくる。全身を覆う筋肉が盛り上がり、その威圧感に一瞬足がすくんだ(ような演技をする)。
「気をつけて、雅君。あれは強敵だよ」
好井が冷静に声をかけてくる。
「わかってる。でも、その様子だと強敵だとか言いつつ倒すつもりだな?」
俺は拳を握りしめ、戦う覚悟を決めた(という風に見せておく)。
好井は前に出て、光の剣を生成した。その輝きが暗闇を照らし出し、オーガの巨大な体を鮮明に浮かび上がらせる。
「ライトアロー!」
好井が叫び、光の矢がオーガに向かって飛んでいく。しかし、オーガはその矢を巨大な腕で弾き飛ばした。
「なかなか手強いな……」
好井は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに戦闘態勢に戻った。
だが直後、俺は好井が戸惑った様子を見せた理由を理解する。
何せ急に、
「グオオオオォォォォォォ!!!!!!???????」
「あっ。ちゃんと効果出た。光属性はこっちのモンスターにも聞くんだね」
オーガが叫び暴れ始めたのだから。
苦しげな表情で全身から血を流し始めるそれに、救いはなんてことなさそうな顔で笑っている。ぞ割と俺の背中に寒気を感じた。
だがそれでも俺は恐怖を憶えるだけではなく、
「っ!雅君!危ない!」
「え?」