1.無知
「そ、そうだね、久しぶり」
好井は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに微笑み返してくる。
彼女が学校に戻ってきたことは一大ニュースだったが、その背景に隠された真実を知る者は俺が知る限り誰もいない。当然俺もその知らない一人で、彼女がどこに行っていたのか、何をしていたのか、全く分からない。というかこうして戻ってきてその力を感じ取るまで、興味も持っていなかった。
「どう?久しぶりの学校生活は」
「うーん、まだちょっと慣れないな。でもみんな優しいから大丈夫だと思うよ」
好井の言葉にはどこか無理をしている感じがした。彼女がどんな経験をしてきたのか、俺には想像もつかない。でも、彼女が何か重いものを背負っていることは感じ取れる。
確実に何かここまでの力を手に入れるために必要なことは、生半可な経験をするなんて程度では済まされないだろう。
そのまま少し言葉を交わし、無効も緊張をしていたりまだ戸惑いのようなものを持っていたりするのは分かるが、それでも俺との会話を嫌がっているようには見えない。
どちらかと言えば、話す相手がいて喜んでいるようにも感じられる。
とりあえずある程度心を開いてきただろうと考えて少し勇気はいるが踏み込んでみて、
「どうして学校休んでたんだ?」
内心は警戒しつつ、しかし表面上は気軽な感じで問いかける。
あくまでもこちらが警戒しているとは悟らせず、あくまでも純粋な疑問を抱いたからこその質個だと思わせるように。デリカシーがないとかそういうのはこの際一旦無視だ。
ただ、
「ちょっと…色々あってね」
と彼女は答えたが、詳しく話そうとはしなかった。
表情やこのセリフから考えて、あまり話したくない話題であることはうかがえる。やはり誘拐をされていたりとかしてひどい扱いを受けていたということが考えられるな。
もしかしたらこの力は、誘拐犯などを殺害することによって手に入れた力なのかもしれない。
……………それにしても、強すぎる気はするが。
ただ、反応を見る限りこれ以上踏み込んだことを聞くのは愚策。も少し中を深めてからでないといけないだろう。どちらかと言えば、向こうから打ち明けてくれるということになるくらいが理想かもしれない。
そこまで考えてある程度探りは入れつつ相手のことを探る要素はないかと観察し、ふと彼女が腕に付けているブレスレットに目が留まる。
「そのブレスレット、いいね。どこで手に入れたの?」
あまり見ない形のブレスレットで、デザインから考えるとダンジョンから出るタイプのアイテムのようにも見える。
相手の外見や身に着けていることをほめるのはそこまで悪い事ではないし、逆に良い事と言ってもいいくらいだ。この話題はたとえ話したくはないことだとしても、あまり強く拒否はできないだろう。
「これ?これは、えっと…そうだね、ちょっと特別な場所で手に入れたんだ」
好井は少し考え込むようにしてから答えてくる。ただ、確実に何かがあるのは明白な回答だった。
恐らくこのブレスレットもまた、何か行方不明になっていた間に起きたことと関係があるのだろう。
「へぇ、特別な場所って?」
「うーん、なんて言ったらいいかな?……………でも加喜瑠君、そのネックレスも素敵だね。それはどこで買ったの?」
あまりにも露骨すぎる話題そらし。好井は、俺の身に着けているブレスレットへと話を転換してきた。
俺としてはさらに好井のブレスレットやほかの部分について質問したかったのだが、あまり攻めすぎて疑われても困るということであえてそれに乗っかることにする。
一旦探るのは休憩だ。
「これ?これはダンジョンで手に入れたんだよ。最近流行りの、LUKがちょっと上がるやつ」
「ダンジョン……………この世界にもダンジョンがあるの?」
好井の反応に耳を疑った。まるで初めて聞くかのような表情だ。
しかもこの世界なんて言う言葉まで出てきて……………思っていた以上に救いの今までに予想ができないな。これは、しばらく継続して探っていく必要性がありそうだ。
俺が身に着けているのは最近ダンジョンで簡単に手に入れられるわりに様々なところで恩賜があるという運気が上昇する腕輪。
とはいっても、怪しい物ではなくステータスのLUKが上昇するというものだが。
このステータスが高いと実際リアルの生活でも運が素押しだけよくなるようで、愛用する人は多い。俺もまたその流行りに乗ってる。
とりあえずどこまで好井がダンジョンのことを知っているのか探りつつ、
「そうだよ。ダンジョン、普通にあるけど知らないのか?この学校の近くにもいくつかあるし、世界のどこにいたって近くにあると思うけど」
「え?……………そっか。じゃあ、どこにあるか教えてくれない?興味あるし、行ってみようかと思うんだけど」
どうやら好井はダンジョンに興味を持ったようだ。
反応からしてダンジョンという存在を知らないわけではないようだが、様子を見る限り知らないということにしておきたそうだし俺もそれに合わせて対応してやろう。
「いいけど…………どうせだし、よかったら案内しようか?ダンジョンも知らないってなると、初心者でしょ?危ないから一応先頭になった場合に備えてサポート役がいた方がいいと思うんだけど」
「本当?じゃあ、お願いしてもいい?」
一切疑う様子もなく、俺にお願いをしてくる好井。
俺としても好井とこのままダンジョンまで言って関係を築いて、さらにはダンジョンの中で様子を観察できるのだから悪いことはないだろう。
逆に、これだけの力を持った奴が俺の知らないところで暴れる方が怖い。
「うん、いいよ。でも、ダンジョンは本当に危険だから、気をつけてね」
「大丈夫、私には自信があるから」
その言葉には一切自身の力を疑う様子のない圧倒的な自信がみなぎっていた。好井がどれだけの力を持っているのか、俺にはまだわからない。でも、彼女が本気でダンジョンに興味を持っていることは確かだ。その興味が俺にとって良い物なのか悪い物なのかは別の話として。