プロローグ
衝動で書きました。続くかはわかりませぬ。
世の中には不思議なことが沢山ある。
なぜリンゴは落ちるのか。
なぜ空は青くなったのか。
なぜ女性は神秘的なのか…
人間ってやつはその不思議を不思議じゃなくして来た。
未知を既知にするってやつだ。
しかし。
世界にはまだ沢山の不思議が溢れていたらしい。
「ウーッス」
「はよー」
そこかしこで軽く朝の挨拶。
私も声をかけられれば答える。
自分から声を掛けないのかって?
これまでの経験から、それは避けた方が良いと学んだ。
チラチラと視線を感じたりもするけど、基本的には無視だな。
ここは教室。
当たり障りない、普通の中学校の教室だ。
私にとっちゃ、二度目の中学生なんだがね。
留年じゃないよ?
それよりもっと不思議な事さ。
「おっはよー」
字面は陽気なのにダウナーなテンションで挨拶が飛んできた。
視線を向けつつ、「おう」とシャイな中学生男子みたいな返答。
視線を向ければ美少女がそこに。
「今日もやる気無さげだねー」
そう言いながら私の頭を撫でる彼女は、幼馴染みの【樋村佳織】だ。
校内でも一二を争う人気の美少女だそう。確かに可愛い。
明るめの髪に少し癖っ毛が優しげな印象を抱かせる。
背は小柄だがスタイルはかなり良い。
そして何より。
目の前で動く、猫耳。
決して飾りではない。
彼女の自前だ。
そう、彼女は人間ではない。
獣人種というファンタジーが形になった種族なのだ。
一応、獣人も人類の一種と認められて久しいので、あまりこの話は広げないけども。
私も人間種じゃないしな。
「あ、ゆずっちまた『おまかせ』にしたでしょー。髪適当じゃん」
と私のまとめた長髪をほどき、手で簡単に漉き始めた。
親の意向で伸ばしちゃいるが、そのうち切ってやろう。本当はボウズが良いんだけども、周りが怒るのが目に見えてるのでショートで勘弁してやるか。
「ゆずっちも女の子なんだからさー、お手入れには気を付けよーよ?エルフだって髪痛むでしょ?」
佳織はそう言いながら私の髪を軽く三つ編みにしていく。
きっと端からみたら、可愛い猫耳の女の子が、これまた美人のダークエルフの髪をいじっている風景が見れただろう。
そう。
私はダークエルフ種の女の子。
【古森柚花】、中学三年生です。
西暦2052年8月9日10時47分。
この日この時間、地球は異世界と繋がった。
始まりは穏やかだったらしい。
管理の行き届いていない森の中や、廃線になった鉄道トンネル、放棄された建設跡地。
そんな人気の無い場所から、見たこともない生き物が出てきたと報告されるようになった。
それは一地域に留まらず、日本中、いや、世界中から聞こえるようになった。
モンスター。
世間一般では、そう言われている。
モンスターは瞬く間に世界中に広まった。
その出所はさっきも言った森や廃トンネル、建設跡地等…そんな場所がダンジョン化することで、モンスターを吐き出すようになったんだ。
先進国は整備された連絡網と軍隊による対応でなんとか凌げたが、アフリカや中央アジアではいくつかの国が無くなったと聞いた。
東南アジアと南米、東アジアの一部地域でも対応が遅れ、壊滅的な被害を受けたらしい。
日本も少なくない被害を受けた。
ただ、元々森林が国土の七割を占めていたので、人類の生息圏は守り通せた。
でもこのダンジョン災害に始まった世界的な変化は、人類の価値観を一変させるほどの出会いも生んだ。
異世界人とのコンタクト。
有史以来、初めて人以外の種族と文化的交渉が取れたのだ。それはもう騒ぎになった。モンスターとの遭遇なんて比じゃないくらい。
彼ら彼女らは、人類が抱いていたファンタジーを体現したかのような存在であった。
獣人、エルフ、ドワーフ、龍人、魔人、そして普人。
この出会いは互いが理性的に、そして友好的に進めることを望んだ。
我々は彼らに様々な知識を渡し、そして彼らは我々に様々な知識を教えてくれた。
モンスターから取れる魔石の加工技術と、それを活用した新たなエネルギープラントの開発。
エネルギー資源の輸入の目処が立たなくなった日本にとっては、喉から手が出るほどほしい技術でもある。
まさしく、天恵とも言える出会いであった。
やがて交流は進み、共に生きることを誓う者達が現れる。
血の交わりだ。
生物学的に系譜の違う両世界の人類は、収斂した進化の証明か、子を成すことができた。
魔力なる不可思議な要素が働いたのかもしれない。
お互いが友好的であれば交流は進む。
同化もまた然りだ。
初期に心配された互いの世界への侵略は、お互いがそれを成すリソースを持たなかったが為に、文化融合を果たす猶予をお互いの世界に与えた。
結果として、宗教やイデオロギーによって交流の進まない地域はあれど、大なり小なり種族としての交わりは世界中で起こっていったのだ。
そうして約100年の月日が流れた…
私の物語は、そこから始まる。