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サンタ・クロース

作者: 大器晩成

 真面目で優しい三太が、お寺の法話会で、

「悪想念を持つな、悪口を言うな、心に思っても如何」との、教えを頂きました。

 しかし、口に出す事は止められても、頭に浮かぶ事は止められなかった。

和尚様に問うと、

「未熟者」と一喝され、

「いつも笑顔でいなさい」と新しい教えを頂いた。

 三太は、一生懸命、笑顔で暮らした。


 或る夜、女の子の夢を見た、これも悪想念なのかな?

和尚様に聞いた、

「愚か者!おなごの夢を見るなど、煩悩の極だ」。

奥様がクスクスとお笑いになった、

「奥様、何んでお笑いなさるんですか」

「ごめんなさい、でも、三太さんの年齢で女の子の夢を見るのは普通ですよ」

「ええー、そうなんですか?」

和尚様が、

「もういい、もういいから、今日は帰れ」。

 

 三太は、美しいものだけを見て暮らしたいと、仏様に祈った。


 町に出た時、花屋さんの前で美しい花に見とれていたら、可愛い女の子が花を買いに来た、 

花も女の子も美しい、空を見上げると青空が美しい、雲も美しい、遠くに見える森も美しい、山も海も美しい、

 何だ、良く見たら、身近に美しい物は幾らでも有る。

逆に、汚い物って何だろう?、

人の心は汚い、簡単に悪想念が沸く、

人の口も汚い、直ぐに悪口が出る、

そうだ、口に絆創膏を貼ろう、

 しかし、心には絆創膏を貼れない、

和尚様に伺うと、

「たわけ」

 と怒鳴られた。

「何んでも良いから、褒めなさい」と、また新しい教えを頂いた、

「ハイ、分かりました」


 三太は散歩をしている少年と犬を褒めた、

塀の上の猫を褒め、飛んでる雀を褒め、コンビニの店員を褒め、

テレビの中のお相撲さんを褒め、友達を褒め、電柱やポストも褒めた。

 一か月続けたが、ちっとも悪想念が無くならない。


和尚様に相談したら

「馬鹿者」と怒られた、

「私は、どうしたら良いんでしょうか?」

「絶対、威張るな」と、また、新しい教えを頂いた。


 しかし、考えてみると、自分は生まれてから威張った事など一度も無い、逆に和尚様の方が、いつも威張ってる様に見えた。

 三太は訳が分からなくなり、必死で色々と調べたら、和尚様から頂いた書物の中に

(逆もまた真なり)と書いて有った。

そうか、和尚様からは、悪想念持つな、いつも笑顔、何でも褒めろ、絶対に威張るな、と四っ教えられたが、和尚様の言動を良く見ると、この四っの教えの逆をされてる、


(逆もまた真なり)なーんだ、そういう事か、

和尚様は本当は、悪想念を持て、笑うな、褒めるな、威張れ、と仰ってるに違いない、

そうすれば和尚さんの様に、立派な人になり、悟りも開けると三太は思った。

 超真面目な三太は、真剣に、村中の人に対して、無理矢理に悪想念を持ち、怖い顔で睨み、絶対褒めずに、一生懸命、一生懸命、威張った。とうとう村中の人が、我慢の限界を超えてしまい、三太を村の集会所に呼び、皆で三太を責めた。

すると三太が

「私は、悟りを開きたくて和尚様の真似をしているだけなんです」と答えた。

その時、誰かが

「そういえば、和尚様は、いつも怖い顔をしてるし、人を褒めないし、威張ってるな」

 と言った。

村の皆が、村長に向かって、

「そうだ そうだ、三太ばかりを責めては可哀想だ、三太は超真面目人間だから、和尚様の真似をしただけなんだ、和尚様の真似をしない様に村長さんから三太に言って下さい」と、お願いした。

村長が三太に、和尚様の真似をしない様に言って聞かせると、三太が

「和尚様の真似を、するのは悪い事なのですか?」

 と、村長に聞いた、

「いや、そうではないが…」

「私は悟りを開きたいんです」

「そうか、困ったな」、

そうすると村人が

「村長さんは、お寺の総代でも有るんだから、和尚様にお会いしてお願いするしかないですよ」 

 と、言った。

「何を、お願いするのだ」

「三太が和尚様の真似をするので、真似されても良い様に日常の言動に気を付けて下さい、と頼むのですよ」

「それは無理だ、あの方は、京都の一流名門大学を卒業し、京都の有名なお寺で修行をされ、いずれは、大僧正に、なられると噂も有った程の尊いお方なのだ、本来なら、こんな村の、小さな寺の住職になるような、お方ではないが、先代が急にお亡くなりなさったので、後を継ぐ為に帰って来られた方なのだから」

「そうですか、村長さんが言えないんじゃー、誰も言えないな」

 と村人達が言った。

村長が、三太に

「和尚様の真似をするのは悪い事では無いが、あまり一生懸命、真似をしない様に頼むよ」

「それじゃー、私は間違ってないんですね」

「う~ん、困ったな」

他の村人が、

「三太だけじゃなく、他の子供達も和尚様の真似をする様になるかも知れませんよ」

「それは困るな、副村長、あんたはどう思う」

「私に聞かれても、困りますよ」

 皆、どうして良いか分からなくなって、黙ってしまった。

三太が痺れを切らして

「もう良いです!明日からも和尚様を見習って生きて行きます、僕は悟りを開きたいだけなのです。村長さん、今日は、もう帰って良いですか」

「困ったな、ウーン、三太、ちよっと待っておくれ、副村長どうする」

「三太に威張られても困りますが、和尚様に対して誰も何も言えないんでは、どうしょうも無いですよ」

「それは、そうだが…」

 また、少し沈黙が有ってから、

村人の誰かが

「あのー、こんな事を言って、笑われるかも知れませんが、和尚様の奥様に相談してみるのは、どうですか?」

「奥様に相談?奥様は何にも分からないだろう」

「すみません」

 シーンとしてしまった。

三太が言った

「奥様は御立派な方ですよ、和尚様も頭が上がらないみたいだし」

「そうか、そうだな、三太が、そこまで言ってくれるなら、一応、お会いしてみるか、他に方法も無いし、駄目で元々だ、どうだ村の衆、私と副村長と三太で、奥様にお会いするという事では」

「おまかせします」。


 数日後、和尚様が檀家の法事にお出掛けされた留守中に、三人で、お寺に行った。

まず村長が、事の始終を奥様に説明した。

奥様が、

「そうですか、申し訳ありません、村の皆様に御迷惑をおかけして」

「いえいえ、とんでもない、私、和尚様みたいな偉い御方に、物を言える様な柄では無いのですが」

「京都にいる時は、あんなでは無かったのですが、道半ばで夢が途絶えた事や、私らに子供が出来なかったので、自分の跡継ぎがいない悩みも抱え、ストレスが溜まってしまい、結局、その発散する場が無く、どうにもならなくなって、皆さんに、きつい言葉で当たる様になってしまったんだと思います」

「いやいや、和尚様のストレスが少しでも解消されるなら、私らに当たる位は、おやすい

御用なんですが」

「申し訳ありません」

「お寺の跡継ぎの問題は、我々檀家にも切実な問題です、このお寺が無くなったら、村人全員が困ってしまいます」

「申し訳ありません」

「あの―、立ち入った事で真に申し訳ないんですが、養子とか、お貰いなさったら如何なもんでしょうか?」

「それも考えたのですが、片田舎のこんな小さな寺に、養子に来てくれる様な奇特な方は、中々いません」

「そうですか」。

村長が三太に向かって

「三太、聞いたか、和尚様の様な偉いお方でも、ストレスが溜まると、威張ったり、怖い顔になってしまうんだ、人間は、皆、根本は弱いものなんだ、だから、和尚様を軽蔑しては駄目だぞ、今迄と同じ様に尊敬しなさい」

「ハイ」

奥様が、

「三太さんは本当に良い性格ですね、いつも和尚様と二人で褒めてるんですよ」

「こいつは、三人兄弟の末っ子で、両親が早くに亡くなり、結婚した長男が実家を引き継ぎ、三太の面倒も見てるんです。次男は自立してます」

「そうなんですか、でも、本当に素直に育ってますね」

すると、それまで一言も話さなかった副村長が話し出した

「こんな事を、私の口から言うのも、おこがましいのですが、三太は信仰心の有る子で、いつも、悟りを開きたいなどと言ってます。お寺の養子にして頂いて、跡を継ぐという事になれば、和尚様も御安心なされるのでは」

「良いお話を有難うございます、和尚様に相談してみます。でも、一番大切なのは、三太さんの、お気持ちです」

そして、村長が

「今度の件で一番苦労したのは三太だな、悪かったな」と言うと、

三太が

「サンタ・クロース」と言った。

「オッ、三太も冗談が言えるんだな」

「僕の名前は、サンタクロースの様に人を幸せに出来る人間になる様にと、亡くなったお父さんとお母さんが付けてくれたんです」

村長が三太に言い聞かせた、

「そうか、御両親は、有難い名前を付けて下さったな、三太の超真面目な所は素晴らしいぞ、真面目で優しい人間は、喜びも沢山あるが、苦しみも沢山有るからな、苦しい事が起きても、真面目さと優しさを捨てるな、但し、狭い意味での真面目は駄目だぞ、それは、例えばだな、泥棒の親分から見れば、どんな子分が真面目かと言うと、沢山、物を盗んでくる子分が真面目という事になる。

 上に立つ人間が、そういう限られた狭い範囲の真面目だと、部下達は、辛い思いをするんだ、私が若い頃、会社勤めをしていた時の経験だと、上司の言ってる事は正論なだけに余計困るんだ。

間違っては、いないんだが、過ぎたるは及ばざるが如しと言ってな、そういう度の過ぎた真面目では無く、自分と違う意見の持主にも心を開いて対話出来る、心に余裕の有る、一般社会で通用する真面目、心豊かで他人の痛みが分かる真面目人間を目指しなさい、真面目だと、良い事ばかりじゃないぞ、正直者は馬鹿を見ると言ってな、時には、真面目で優しい自分を嫌になり、挫けそうになる時が有るかも知れないが、今のギスギスした世の中に、仏様が一番必要とされてるのは、

(真面目で優しい人間)なのだよ、仏様は三太の総てを見ておられるからな」

「はい」

 そののち、三太はお寺の養子に入り、京都での厳しい修行を経て、副住職になる為に、お寺に帰って来ました。

 三太が、和尚様に帰宅の御挨拶をさせて頂こうとした所、

「私より、仏様への御挨拶が先だよ」と、和尚様に窘められ、

改めて、仏様に向かいまして、

「世の悩み苦しんでる人々を救う為に、(日本のサンタクロース)を、目指して、精進させて頂きます」と誓いました。

                                         了


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