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突然デスゲームに参加させられたが、やっぱり主催者がどう考えても俺の幼馴染な件

作者: 紐育静


 「──起きろ、おい起きろ和希!」


 体を揺さぶられて目を覚ますと、俺の視界に坊主頭の男子が映った。


 「お前は……秋大(あきひろ)? どうしたんだ、そんな慌てて」


 起き上がると、床に座っていた友人の和久井秋大が「やっと起きたか」と言いながら溜息を吐いていた。俺は放課後に自習室で勉強していたつもりだったが、どうやら女子バレー部の部室で寝ていたらしい。いや、どんだけ寝ぼけていても流石に校舎にある自習室と体育館にある女子バレー部の部室を間違えるはずがないし、男子が入り込んだら大問題だ。キョロキョロと部室の中を見回すと、秋大の他に男子が一人、女子が二人部屋の隅に座って俺のことを見ていた。


 「た、武田君……良かった、もう起きないのかと思った」


 「勝手に俺を殺すな倉野」


 黒縁メガネをかけた黒髪のおしとやかな女子は倉野舞依(まい)。いつも教室や図書室、中庭で本を読んでいる文学少女で大人しい女子だ。


 「まー大丈夫だって舞依。武田は最後まで醜く生きてるタイプっぽいから」


 「何か偏見を持たれてるな……」


 茶髪に赤いリボンを着け、ミサンガを大量に腕に着けている女子は瀬戸栞里(しおり)。まー他人をからかうのが大好きだという悪趣味な人間で、倉野とは正反対の雰囲気だ。


 「それに国崎まで……一体どうしたんだ?」


 そして女子達によくモテる完璧超人の国崎(まもる)までいた。俺は国崎とあまり接点は無いが奴は有名だからよく知っている……秋大も含めて一応同じ学年だし知り合いではあるが、今までこの五人で集まったことはない。倉野は瀬戸の手を握ってビクビクと体を震わせていたが、国崎は澄ました顔で口を開いた。


 「お前、確か武田和希だよな? 眠る前の記憶、何か覚えてないか?」


 「え? いや、普通に自習室で勉強していたはずなんだけどなぁ」


 部室内の時計を確認すると、まだ夕方の五時ぐらいだ。確か俺は自習室で勉強しようと意気込んでいたが、急に眠くなってきて居眠りしてしまったんだ。そういえば、勉強を始める前に俺は幼馴染の水無瀬蒼乃から栄養ドリンクといって変な物飲まされた気がするが……。

 国崎は冷静そうに見えたが、秋大は慌てた様子で言った。

 

 「実は俺達、この部室に閉じ込められてるんだよ」


 「え? どうしてまた」


 「外から鍵が閉められてるんだ。助けを呼ぼうにも今日体育館誰も使ってねぇんだよ」


 段々と眠気が覚めてきた俺は、ようやくこの状況を理解してきた。確かにドアを開けようとしても開かない。窓も防犯のため外側に柵がつけられており脱出も不可能だ。今日は誰も体育館を使わないのか外から物音も聞こえず、助けを呼ぶのも難しいか。いや、頑張って叫べば流石に誰か来てくれそうだけど。


 「ど、どうしよう栞里ちゃん。携帯も無くなっちゃってるよ」


 「いやー、アタシらもいつの間にかこの部屋に閉じ込められててさ。アタシが先に起きてて良かったよ、秋大が先に起きてたらアタシ達にナニしてくるかわかんなかったもん」


 「そんなことするわけないだろ……多分絶対!」


 まぁ秋大は確かに自分の欲求に正直な奴だが……俺は段々とこの状況に既視感を覚え始めていた。何か前にもあったなこういうの。

 すると突然、部室のどこからか携帯の着信音が鳴り響いた。音を辿って探すと、バレーボールが詰め込まれていたカートの底に俺の携帯が入っていた。着信画面を見ると『ミス・ブルー』という懐かしい名前が表示されていた。


 『フフフ……カズく……じゃなかった、武田和希、和久井秋大、国崎衛、倉野舞依、瀬戸栞里。私の声が聞こえるかな?』


 「だ、誰だ!?」


 『フフ……私の名前はミス・ブルーだ。君達にはこれから私が考えたゲームに参加してもらう』


 「ま、まさかこれが噂に聞くデスゲームってやつなのか!?」


 「う、嘘!? 私達殺されちゃうの!?」


 秋大や瀬戸達はデスゲームという事態に慌てているようだが、俺は人並み外れた優れた頭脳で瞬時にこの状況を理解した……というわけではなく、前にもこんなことがあった。わざわざ連絡先の登録名変えてるけど、こいつ絶対蒼乃だろ。蒼乃は女子バレー部のOGだし後輩に頼んで部室使ったんだな。

 前回、初めて蒼乃がデスゲームを開催するという茶番をしてから一ヶ月ぐらいが経ってもう十月に入ったが……前回は自分の妹使ってたのに今回はちゃんと人数集めてきたな。秋大や倉野に瀬戸は同じクラスで蒼乃の友人でもあるが、まさか国崎までいるとはな。


 「んで、どういうゲームなんだ?」


 経験者である俺は、まぁせっかく蒼乃が何かやろうとしてくれてるんだしと思って前回の件について黙っておくことにした。


 『フフフ……これから皆にはその部屋で愛の告白をしてもらう』


 「あ、愛の告白!?」


 思っていたのと全然違う内容だが、何だか穏やかじゃないぞこれは。これ本当にデスゲームのつもりでやってるのか?


 『勿論嘘はダメだ。お前達が本当に好きな人のことを想って、今ここで告白するんだ。一番その想いが強かった奴だけを生かしておいてやろう』


 「じゃ、じゃあそれ以外の人は……」


 『デスゲームだと言っているだろう? 勿論惨めに死んでもらう』


 「そ、そんな……!?」


 倉野や瀬戸の反応を見る限り、二人はどうもこのデスゲームを本物だと思っているらしいが……。


 「ほう、それは面白いな」


 国崎はこんな状況でも冷静だ。野球部のエースでもあった国崎はマウンド上でもポーカーフェイスだったが、ここでもポーカーフェイスを決め込むつもりか。かっこいいなこの野郎。でもデスゲームでの生存率あまり高くなさそうだな。


 「ま、待てよ! どうしてお前にそんなこと言わねぇといけないんだよ! 恥ずかしいだろ!?」


 しかし秋大は一人、顔を真っ赤にして蒼乃……じゃなくてミス・ブルーに反抗していた。お前そんな初心だったのかよ。お前剣道部の部室にエロ本大量に溜め込んでるだろうが、俺は知ってるんだぞ。


 「え~秋大って好きな子いるの~?」


 「べ、別に俺にも好きな人がいたっていいだろ!? そ、それをだな、なんでこんなとこで……」


 『嫌だと言うのか?』


 「嫌に決まってるだろーが! 畜生無理矢理にでもここから出てやるからな!」


 そう言って秋大は部室のドアに体当たりを何度も決めるが、最近体育館は改装されたばかりでこの部室の設備も新品だ。そう簡単には壊れないだろう。

 しかしこの雰囲気、デスゲームで見せしめに殺される第一被害者みたいになってるけど大丈夫かこいつ。


 『フフ……そんなに私が考えたゲームが嫌なら仕方がない』


 「お、良いのか?」


 『お前には死んでもらおう』


 「え」


 すると突然秋大は胸を押さえてゲホゲホと咳き込むと、今度は口を手で押さえ──ゆっくりとその手を離した。ガクガクと震えたその手には赤黒い血がベットリと付いていて、秋大はさらに口から血を吐き出した


 「わ、和久井君!? 血が一杯出てるよ!?」


 「お、俺は、もうダメかもしれん──」


 秋大は胸を押さえながら白目になって床にバタリと倒れた。国崎がすぐに秋大の手首に触れたが、すぐにそっと手を離した。


 「ダメだ、もう息がない……」


 「あ、秋大おおおおおおおおっ!?」


 告白するのが恥ずかしいからって殺されることあるの!? 本当に惨めな殺され方されてる!?

 

 「そんな……これ、本当にデスゲームなんだ……!」


 「大丈夫だよ舞依。アンタの想いは届くから」


 瀬戸はそう言いつつハンカチを取り出して秋大の顔に被せていた。いや、秋大が死んでるのにその死にこんなあっさりと対応することある? 本当に凄い惨めな死に方したけどクラスメイトが一人死んでるんだぞ? 秋大の命ってこんな軽いものだったの?


 『フフフ……私は遠隔操作によってボタン一つで君達の心臓を破裂させることが出来る。無駄なあがきはやめておくんだな、その坊主頭のようになりたくなければ』


 あれ? 俺はまた蒼乃が仕掛けた茶番かと思ってたけどこれってモノホンのデスゲームですか? このミス・ブルーもマジのデスゲームの主催者? もしかして蒼乃が受験勉強のストレスで頭おかしくなっちゃったの?


 『じゃあまずは……そこのメガネの女子だ。自分の想いを赤裸々に語るといい』


 「え、私が……!?」


 文学少女、倉野は急に顔を真っ赤にしてチラチラと俺の方を見ながら、両手で顔を押さえていた。まぁ、人数は少ないとはいえ公開処刑みたいなものだしな。しかも異性もいる状況で好きな人への想いを告白させられるとか……まぁ言わなかったら秋大みたいに殺されるんだろうけど。

 そういや倉野って誰が好きなんだろうか。あまり男子と話してるの見かけたこと無いな。倉野は恥ずかしそうに顔を押さえながら、ギリギリ聞き取れるぐらいの小さな声で話し始めた。


 「その……私は本を読むのが好きで、一年生の時に図書委員になったんです。でも、もう一人ペアでなった子がその……いつも仕事をサボっちゃって、作業を全部私一人でしないといけなかったんです」


 あぁ、そういえばあの頃の倉野は大変そうだったもんな。真面目な分一人で背負い込み過ぎって感じだった。


 「結構図書委員って力仕事が多くて、でも私あまり力持ちじゃないから大変で……でも、そんな時にいつも助けてくれる人がいたんです。その人は図書委員でもないのに仕事を手伝ってくれて、重たい本を進んで運んでくれたり、私じゃ届かない棚の高いところに本を入れてくれたり……何か手伝えることがあればいつでも呼んでいいと、連絡先まで教えてくれたんです」


 倉野は小柄であまり運動が得意っていうわけでもなかったから大変そうに見えた。確かに俺は図書委員でも何でもなかったが、何か暇な時は図書室行ってたな。


 「一時すると仕事をサボっていた同じ図書委員の子が仕事してくれるようになったんですけど、後から友達から聞いた話によると……私の仕事を手伝ってくれてた人がその子を怒ってくれたらしいんです。それにその子と話してみると意外と楽しくて、内気であがり症な私も段々と色んな人と話せるようになって、友達も増えて……私が変わるきっかけをくれたその人のことを、好きになったんです」


 え、何かめっちゃいい話じゃん。デスゲームの最中にこんな話聞かされたら俺譲っちゃうよ? 秋大みたいに真っ先に死にに行くぞ。


 「最近は恥ずかしくて、あまり目も合わせられなくなって、私からは中々話しかけづらくなっちゃったけど……その、武田君」


 「ん? 俺?」


 「武田君のこと、一年生の時から好きだったんです。

  私と、付き合ってくれませんか?」


 「……え?」


 待て、よくよく考えてみると倉野が話していたのって俺のことか。滅茶苦茶他人事みたいに聞いてたけど、確かに俺は倉野のことよく手伝ってたし、そのサボってた奴のこと諌めた記憶あるわ。

 え、じゃあ倉野が好きなのって俺のこと……?


 「ヒュー、青春力高い話聞かせてくれるじゃーん。青春力を過剰摂取しすぎて死にそう」


 瀬戸が倉野を肘で小突いた。倉野は顔を押さえて俺に背中を向け黙ってしまった。


 「それで武田、どうなの答えは?」


 「え、この愛の告白って答えないといけないの?」


 「そこら辺どうなのミス・ブルー?」


 『返答次第でカズく……じゃなかった、武田和希を殺す』


 やっぱりお前蒼乃だろうが。お前このパターンを想定せずに倉野を呼んだんだろ。

 勿論倉野の気持ちは嬉しいし何なら俺も動揺してキョドっているが……俺にはもう心に決めた彼女がいる。


 「ごめん、倉野……俺、もう付き合ってる人がいるんだ」


 「うわー酷いな武田。こんな可愛い女の子をフるなんて、いっぺん死んだほうが良いよ」


 『じゃあ殺す?』


 「待て待て、気分で殺すんじゃない」


 ごめん倉野、俺の彼女はもっと可愛いんだ。こんなバカみたいなことしてる奴だけど、俺はそんなバカみたいな奴が好きなんだ。


 「うん……ありがとう武田君。この気持ちを伝えられただけで良かったから……でも、これからも私と友達でいてくれる?」


 「そりゃ勿論」


 『チッ』


 おい誰だ今舌打ちした奴。蒼乃も倉野と仲良くしてるだろうが、大体お前が呼んだのが悪いんだぞ。


 『はぁ……じゃあ次はそこの茶髪赤リボンガール。さっさと言え』


 「滅茶苦茶キレてるじゃん主催者。私の告白はもっと青春力高いよー?」


 『うっさい。早く話しやがれ』


 青春力っていうパラメータなんだよ。瀬戸は男友達も多いが好きな人とかいるのか? まさかとは思うが、俺と瀬戸の間に倉野みたいなエピソードあったかな。


 「私さ、演劇部入ってて昔から脚本とか監督やってるんだけど、やっぱり文化祭とか大きなイベントで劇をやるってなると練習もそうだけど小道具の準備も大変なわけ。ウチの演劇部は部員が少なくて、演技の練習に加えて小道具も自分達で作らないといけないってなると昼休みとか放課後はホント時間がなくなっちゃうの。

  去年の文化祭で、初めて私が脚本と監督をやる劇をすることになったんだけど、練習も上手くいかなくて小道具も材料の調達すら大変で、もー私ったらすごくナイーブになって……全体練習の日にサボっちゃったんだ」


 うん、何か俺が絡んでそうなエピソード来たわ。俺その事件知ってるもん。


 「何だかもう全部嫌になっちゃってゲーセンで遊んでたんだけど……何でか私をわざわざ探しに来た奴がいたんだよ。しかも演劇部じゃない奴がさ」


 うん、それ俺だな。俺は男子バレー部だったから、体育館でざわついてる演劇部の面々を見て話を聞いたんだったわ。


 「そいつも部活あるのにさ、私が練習サボったのを聞いてわざわざ探しに来たんだよ、バカみたいじゃない? 私、思わず逃げちゃったんだけど手掴まれてさ……」


 滅茶苦茶不審者じゃん俺。


 「その後公園に行ってさ、そいつの話聞いてたんだけど……そいつは私の演技とか脚本の構成とか小道具の仕上がりとか、とにかく色んなことを褒めちぎってくれたんだ。しまいには『俺のために劇を仕上げてくれよ』だなんて言っちゃってさ……」


 そんなことを言った覚えはないが、とにかく瀬戸を引き戻そうとしたのは確かだ。俺はバレー部だったから、同じ体育館で演劇部の練習をよく見てたし、瀬戸の頑張りだって見ていた。


 「まずはサボったことを皆に謝って、それからとにかく文化祭に間に合うよう頑張って……あのバカもさ、わざわざ知り合いに声かけて小道具作りを手伝ってくれたんだ。部活の大会も近かったのに」


 まぁ、ウチのバレー部地方大会も突破できないぐらい弱いチームだし。


 「迎えた文化祭当日、皆の助けもあって劇は大成功、色んな人が褒めてくれたけど……私はあのバカが『良かったよ』って言ってくれたのが、一番嬉しかったんだ」


 何か照れくさくなってきた。もしかして公開処刑されてるの俺なんじゃないか。


 「な、なぁ……武田、いや和希。私、お前のことが好きなんだ。いや、別に答えなんかいらないよ。私も、この気持ちを伝えられただけで十分だから……」


 照れくさそうにアハハと笑いながら瀬戸は言った。ヤバい、何故か恥ずかしすぎて死にそう。ていうか早く俺を殺してくれミス・ブルー。お前デスゲームの主催者なんだからスッと殺せるんだろ。


 『うっ、泣けるぅ……』


 お前も大分心揺れ動かされてるんじゃねぇかミス・ブルー。


 「な、なぁ武田! 勿論私とも友達だよな!?」


 「う、うんそうだな……」


 逆に俺が照れくさくて倉野とも瀬戸とも話すのを躊躇うかもしれない。


 『色目使ったら死が待っていると思え』


 やっぱり滅茶苦茶キレてるじゃんミス・ブルー。

 にしても確かにあの劇の準備は大変だったな。血のりとかどっから調達するんだよって思ったし……ん? そういや演劇部って在庫に結構血のりあったよな。

 秋大……お前まさか。


 『さて、次はそこのイケメンエース』


 「俺か。俺が好きなのは……」


 すると国崎は俺の方を向いた。

 え? どゆこと?


 「武田和希。俺はお前のことが好きだ」


 「え」


 「えぇっ!?」


 「キタコレ!」


 『マジで!?』


 国崎の衝撃の告白に俺やミス・ブルーを含めた四人が驚愕していた。


 「そうだったのか国崎!?」


 死んでいたはずの秋大まで驚きすぎて生き返ってんじゃねぇか。


 「冗談だ」


 「嘘かーい」


 「国崎もそんな冗談言うんだね……」


 国崎は野球部でも孤高のエースという存在だった。友達がいないわけではないだろうが、秋大達と違ってそんな陽気というわけでもない。こんな時にそんな冗談を言うとは意外だ。

 いや良かった。ここで国崎まで俺のことが好きだって告白してたらマジで困ったよ、ていうか蒼乃が本気で誰かを殺しかねん。

 

 「てか秋大、お前やっぱ生きてたんだな」


 「あ、やべ」


 俺が秋大の方を見ると、奴はハッとしてすぐに顔に瀬戸のハンカチを被せて再び永遠の眠りについた。さてはお前蒼乃とグルだな。わざわざ血のりまで用意しやがって……いや、血のりを用意したのは瀬戸か? じゃあ瀬戸もグル? え、もしかして倉野とか国崎もグル? もしかして嵌められたの俺だけなの? ミス・ブルーが俺達に愛を告白をさせてるのって、要は蒼乃が俺から愛をぶつけられたいだけなんじゃないの?

 このデスゲームの真実に気づいてしまった俺は一人恐れていたが、国崎もちゃんと愛の告白を始めた。


 「俺は……自慢になるかもしれないが、やはり野球部のエースという立場上、告白されることも多かった。女友達や部のマネージャー、知らない後輩や他校の女子にまで告白されたこともある」


 良いなぁと思う反面、それを全部断るのも大変だろうなぁと思う。俺そんなモテたことないからわかんないけど、モテる奴の中にも苦労している奴はいるだろう。


 「だが俺は告白を断り続けてきた。何故なら……俺にも好きな人間がいたからだ。そいつのことが頭から離れなくなって眠れなかった夜が何度もあった」


 瀬戸がヒューヒューと茶化す。へぇ、国崎もそんな恋することがあるんだなぁ。


 「俺は一年の時からエースナンバーを背負っていたが、三年になってすぐに肘を怪我してしまってな。まだ投げたいなら手術が必要になるが、夏の大会には間に合わないと言われた。俺はこの先のためだと監督からの勧めもあって手術を選んだが……やはり夏の大会に間に合わず、ウチのチームは甲子園に行けなかった」


 国崎は速球派のピッチャーでプロからも声がかかる程の逸材だったらしいが、怪我の影響もあり国崎は大学進学を選んだ。やはりアスリートに怪我は付き物だ、それと向き合わないといけない時もある。


 「俺は引退まで一人特別メニューを組まれて校庭の隅でトレーニングをしていたんだ。俺が怪我をして夏の大会に出られないという噂はあっという間に広がっていたから、哀れみの目を向けられていたのをヒシヒシと感じていた。

  まだマウンドで投げていた頃は見物客も多かったが、怪我をしてからわざわざ見に来るような人間はいなかった……ただ一人だけ、変な女子が校庭の外側を走っている俺に声をかけてきた」


 国崎に声をかけるって大した度胸だな。蒼乃ぐらい根性が図太くないと出来ないぞ。


 「そいつは『どうして投げないの?』なんていうバカみたいな質問をしてきたんだ。こいつは俺を貶しに来たのかと、その時俺が少し荒んでいた時期だっただけにキレかけたが……『もう投げないの?』と追い打ちをかけてきやがった。俺はそいつの胸ぐらを掴みかけたが──」


 それは掴んでも良かったと思うよ国崎。そんなデリカシーない女子がいたのか、いやだから怪我をした国崎にわざわざ声をかけることが出来たんだろうが。


 「そいつは『野球やめないでね』と言って笑ったんだ。『私、野球やってる時の国崎君がかっこいいと思ってるから』って言い残して、そいつは去っていった。

  その頃の俺は怪我が本当に治るのか、また怪我をするかもしれないという不安から、もう野球から離れようと思っていた時期だったんだ。部活は惰性で続けていたようなものだったからな。だが俺は……その一言でまだ野球を続けようと思えたんだ。

  水無瀬蒼乃のおかげでな」


 ……んんっ!? 蒼乃の話なの!?


 『あ、私の話!?』


 何で当事者のお前が気づいてないんだよ。てか反応してるんじゃねぇよミス・ブルーが。


 「アオちゃん……やっぱり国崎君のことが好きだったの?」


 「いやーアオも大概魔性の女だよねぇ無意識にそんなのやっちゃうんだから。ま、武田と似た者同士かもしんないけどねー」


 「じゃ、じゃあ国崎は蒼乃のことが……」


 「あぁ、好きだ」

 

 「「ええーっ!?」」


 倉野と瀬戸が驚嘆の声を上げる中、俺は驚きすぎて声を出すことが出来なかった。突然の自分への告白にミス・ブルー、いや蒼乃も相当驚いていたようで、とうとう居ても立っても居られなくなったのか部室のドアをバァンッと開けた。


 「ちょちょ、ちょっとストオオオオップ!」


 前回のデスゲームでは黒いビニール袋を被っていたが、今度はちゃんと黒いローブと真っ白な仮面を被ってコスプレっぽくなってる。なんでこいつは形から入ってるんだ、もう少し瀬戸から演技力を磨かせてもらえ。


 「あ、本人が出てきちゃったよ」


 「ちょっと国崎君、打ち合わせと違うこと言わないでよ!? それホントなの!?」


 「あぁ、これは冗談じゃない。水無瀬蒼乃、俺はお前のことが好きだ」


 「ひょえっ」


 「うわぁすっげぇ男らしいじゃん国崎……」


 国崎は蒼乃を壁にまで追い込み、そのまま壁ドンを決めた。国崎が身長高いから蒼乃は顔を真っ赤にして凄いしどろもどろしている。その光景を見た俺は居ても立っても居られなくなり、国崎を引き剥がして二人の間に入った。


 「ちょっと待てよ国崎! 俺とアオは一生ずっとに一緒にいるって約束してるんだよ!」


 俺は人前でとんでもないことを言っているが、そんなことを気にせずに俺は話し続けた。


 「俺はアオの好意にも気づけなかったしそれから逃げようともしていた、でも俺はアオの存在がとても大切なことに気づいたんだよ! 俺の人生にはアオが必要なんだ、お前は俺より出来の良い人間かもしれねぇけど、俺がアオと過ごしてきた思い出は負けないぞ!」


 「ひょえっ」


 「うわぁ武田まですっげぇこと言ってんじゃん……」


 実際に蒼乃を巡って国崎と戦うとなったら完璧超人の国崎に勝てるとは思えない。こうして平気で壁ドンを出来る国崎なら俺から蒼乃を奪うことも簡単そうだが、それは絶対にさせない。

 俺は国崎と睨み合った。うん、国崎は俺よりも身長が高くてガタイがいいからめっちゃ怖い。しかし、そんな俺の腕が誰かに掴まれた。隣を見ると、顔を真っ赤にしながら俺の腕を掴む倉野がいた。


 「わ、私だって武田君のこと、諦めてるわけじゃないから……!」

 

 「え?」


 俺はてっきり倉野と瀬戸の告白も蒼乃と事前に打ち合わせしたものだと思っていた。だが恥ずかしそうな倉野を見て蒼乃が硬直しているのを見るに、どうやら倉野の告白はマジだったらしい。

 え……マジ?


 「なぁアオ。俺以外全員グルじゃねぇの?」

 

 「う、うん……色々と打ち合わせして、舞依ちゃんと栞里にはそれっぽいエピソードを話して告白してもらうだけのつもりだったんだけど……」


 「武田~アオはね、最近勉強ばっかりであまりイチャイチャしてくれなな~って悩んでたんだぞ? だから武田の口からアオへの愛を叫ばせるためにデスゲームやったんだよ」


 そういえば、何か他の女に目移りしたら殺すぞみたいなこと言われてたな。いや、俺は蒼乃一筋のつもりだったが、蒼乃のライバルがこうも身近にいるとは。


 「勿論私らも殆ど演技だけど……」


 今度は左サイドから瀬戸がニヤニヤしながら俺の腕を組んできた。


 「でも、私らが武田のこと好きなのは嘘って言ってないじゃん?」


 「えっ」


 そう、確かに倉野と瀬戸の話は嘘ではない、実際にあった出来事だ。それだけに随分とリアリティがあったが、俺のことを好きなのも本当だったようだ。

 ……これは困ったことになった。


 「ねー武田ー。アオってばこんな回りくどいことして遠回しでしか彼氏の愛を直接聞けないピュアな女の子なんだよねー。それより私と付き合った方がもっと色々と面白いことあるよー?」


 瀬戸が俺の腕を掴みながらさらに体を押し付けてくる。こいつ本気か!? こいつ演劇部だからこれも演技の可能性があるぞぉ!? だが俺の心はしっかりとかなり揺さぶられている!


 「わ、私はあまりお喋りが上手じゃないけど、武田君のために頑張るから……!」


 畜生倉野の方は結構マジっぽい! 俺は今人生で最高にモテてるけど今は絶対その時じゃない!


 「さっきも言ったが、俺はアオと付き合ってるんだ。二人には申し訳ないが──」


 「じゃあさ、別に私らが武田と仲良くするのは良いの?」

 

 「え?」


 「アオちゃん的には、どこまでがセーフ?」


 俺達が蒼乃の方を向くと、蒼乃は俺達から目を背けて小声で言った。


 「わ、私はカズくんが他の女の子と話してるのも嫌かな……」


 俺思ったより蒼乃に束縛されてたな。あまり俺が自由にやり過ぎると本当に殺されかねん。


 「実際、蒼乃の気持ちはどうなの?」


 「え?」

 

 「そうだ。俺達は一通り言ったが、水無瀬の告白は聞いてないぞ」


 「……え?」


 まさかの主催者への逆襲。これ皆で協力して主催者を倒しに行く展開だな。さっきまで威勢の良かったミス・ブルーも想定外の事態に慌てっぱなしだ。もう顔真っ赤だし。


 「実際どうなのアオ? 武田と国崎どっちが良いのさ?」


 「そ、それは勿論……か、カズ……」


 「えぇ~聞こえないな~?」


 わざわざ蒼乃の言葉を遮るように瀬戸が大声で言う。うん、確かに俺達はわざわざ告白させられたのに蒼乃はただそれを聞いているだけってのはフェアじゃないな、納得がいかない。


 「大体さ~元々の主旨は誰の愛が強いかって話だったじゃん? 蒼乃は誰の愛が強かったと思うわけ?」


 「そ、そりゃやっぱり……か、カズ……」


 「えぇ~聞こえないな~?」


 確かに、結局誰の愛が一番強かったんだ? それは俺が決められることじゃない、ていうか蒼乃が決めるのもおかしい話だが、そもそもどうやって決める予定だったんだよ。お前倉野とか瀬戸の話でも大分心揺れ動いてただろ。それに俺、勢いで愛の告白してたけど蒼乃はあれだけで満足してくれたのか?


 「や、やっぱりアオちゃんのお話も気になるよ。どうやって武田君を射止めたのか」


 「そうだよね~せっかく彼氏もアッツアツの愛を告白してくれたわけだしさ~蒼乃も何か言わないと私らが武田を射止めちゃうかもよ~?」


 どうやらどうしても瀬戸は蒼乃に愛の告白をさせたいようだ。俺も恥ずかしいが聞きたい。


 「ひょ、ひょえぇ……」


 蒼乃は倉野と瀬戸に迫られると、そのまま背を向けて部室を飛び出し一気に走り出した!


 「あ、アオが逃げた! 追いかけるよ舞依!」


 「う、うん!」


 一目散に逃げていった蒼乃を倉野と瀬戸が追いかけていってしまい、部室には俺と国崎、そして不機嫌そうな顔の秋大が残った。


 「俺、何か蚊帳の外なんだけど」


 「お前は結局なんだったの? デスゲームで最初に殺される奴役?」


 「その方がリアル感が出るって瀬戸の奴が言い始めてよ。俺結構演技上手かった?」

 

 「俺がマジで焦るぐらいには上手かったよ」


 演劇部の瀬戸がいなかったら大分信じてたな。いや、しかし今回のデスゲームは割と大掛かりだったな。前回は自分の部屋、しかももう一人は身内っていう随分と狭い世界だったし。


 「ま、瀬戸のハンカチの匂い嗅げただけで役得って感じだな」


 うん、こいつはデスゲームに巻き込まれても結構生き延びてそうだな。


 「実際、国崎ってマジで蒼乃ちゃんのこと好きなの?」


 「あぁ。今更武田から奪おうとは思っていないが」


 「それで良いのか? あの動揺ぶりを見るにアオも大分そっちに寄ってたぞ」


 「良いさ。今更お前から水無瀬を奪おうと思っても、奴の心の片隅にお前がいる限りお前に勝てそうにない」


 「お、おう……?」

 

 蒼乃って結構圧を強めて押してしまえばちょろそうだが、国崎はあっさりと諦めてくれた。いや、こいつがライバルとかまじで勘弁してほしかった。


 「奇妙な運命だ。俺は水無瀬の言葉に励まされて大学でも野球を続けることを決めたが、それ故に進学先が仇となってしまったんだ」


 「でも国崎なら女の子達からモテるだろーがよー。瀬戸か倉野のどっちかは俺のこと好きでも良かったじゃん」


 高校生活は残り半年を切っている。その間で遠距離恋愛に耐えられるだけの関係を築くのも大変だろう。国崎は推薦入学が決まっているが、俺と蒼乃は一般入試だ。ここ毎日ずっと受験勉強に明け暮れている。蒼乃はその息抜きのつもりでデスゲームを開催してくれたのだろうか。いや、デスゲームは絶対息抜きじゃないって。今回ばかりは血のりの効果もあって緊張感がヤバかった。


 「そういや秋大、お前は愛の告白しないの?」


 「いや、俺死んでたじゃん。大体俺の好み知ってるだろ。ボンキュッボンのドエロイ体の女だって」


 「あぁ? アオじゃ不満だってのか?」


 「お前の沸点どうなってんだよ」


 「俺がデスゲーム開いてお前を処刑しても良いんだぞ」


 確かに秋大はよくエロ漫画の趣味について話しているが、年上で髪が長くて唇がプルップルで胸も美しく豊満でウエストはキュッとしていて押し潰されたいぐらいのお尻がタイプだって言ってたな。こいつ彼女出来るかな。


 「なぁ武田。そういえばお前、水無瀬のために勉強会を開いているらしいな」


 「あ、あぁ……まぁ図書室とか自習室に集まってるだけだが」


 蒼乃の学力を底上げするために、俺は頭の良い友人達を集めて勉強会を開催している。その勉強会には国語担当の倉野と歴史担当の瀬戸も参加している。国崎も学年トップクラスで頭が良いはずだが、あまり接点がなかったから呼べていなかった。


 「実は頼みがあるんだが──」


 ---

 --

 -


 翌日。いつも通り俺は蒼乃のための勉強会を開催していた。今日図書室にメンバーとして呼んだのは倉野と瀬戸、そして──国崎。

 

 「アオちゃんそれ違うよ。『恋ふ』は上二段だから命令形だと『恋ひよ』だよ」


 「うぐぅ……」


 意外と勉強に厳しい倉野に古文を叩き込まれ……。


 「三角貿易の内容は結構入試出るから。まずオランダとイギリスの東インド会社の違いはね……」


 「うぐぅ……」


 世界史でも瀬戸にみっちりとしごかれ……。


 「苦手科目の克服も勿論大切だが、そのためには成功体験が不可欠だ。まずは簡単なレベルから段々と引き上げていって……」


 勉強の習慣のつけ方等、勉強そのものではなくそのために必要な準備などの基礎を国崎が教え……と、国崎もこの勉強会に参加することになった。国崎も蒼乃のことが好きなのは知っているが、まぁせっかくの申し出を断るのも悪かったし、国崎も蒼乃に手を出す気配はない。

 

 「助けてカズく~ん」


 受験勉強に疲れた蒼乃が俺に助けを求めて甘えてくる。あのミス・ブルーの時の威勢はどこに行ったのか。


 「チッ。私らの目の前でイチャイチャしやがって……」


 「良いなぁ……」


 勉強会に女性陣が参加してくれるのは嬉しいことだが、目の前にいる二人は俺のこと好きなんだよなぁ……気まずいというか変な気分だ。


 「ダメだよカズくん、鼻の下伸ばしちゃ」


 「ぐえっ」


 顔に出てたのか頬を蒼乃につねられた。


 「言ったでしょ? カズくんが誰かに目移りしちゃうようだったら、本当にデスゲーム開いちゃうから」


 「それは俺を殺すの? それとも俺が好きになった奴を殺すの?」


 「んー、勢い余ってカズくんまでやっちゃうかも」


 大丈夫だろうか、蒼乃の独占欲があまりにも強くなりすぎて本当に誰か殺されたりしないよな。

 今回は何だか綺麗にまとまったような気がする……いやまとまってないなこれ。新たな火種が生まれただけだよな。


 「いや、もしかして私らがデスゲーム開いてアオをやっちゃうかも? 必死に彼女を守ろうとする武田を見るのも良いかもねー」


 「う、うん……リアルにしたら緊迫感出るもんね」


 「野球部の後輩に声をかければ良い人数が集まりそうだな……」


 しかも国崎達が蒼乃の影響を受け始めてる。まずい、知識量が膨大な倉野が案を出して、瀬戸が脚本と小道具の準備を担当して、国崎が声をかけて人数を集めたらよりリアルになっちまう。


 「よし、じゃあ次はもっと凄いデスゲームをやろうねカズくん」


 「またやる気なのか!?」


 どうやら俺は、これから先もデスゲームから生き残らなければならないようだ────。





 完。




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