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ヒーロー・アンド・パートナー  作者: はははてな
2/2

拒絶

あなたは、誰かを守ったことがあるか。


あなたは誰かに、命がけで守ってもらったことはあるだろうか。私はよく、「守る」という言葉と向き合わされ、考えさせられる。


この作品を読む前に、一度思い浮かべてみて欲しい。あなたが守る、あるいはあなたを守る人のことを。


 あれから、どのぐらいの時間が経ったのだろうか。竜騎士に拘束されたサクジは、ドラゴンに乗せられ、先の村とは遥か遠くの、王都にまで連れて来られていた。今囚われている場所は、王国国防省の本部だと言うが、頭に麻袋を被せられ、どんな部屋なのかも見えない。椅子に座り、手錠をかけられている。

 もう夜中だが、サクジは時間など把握する術がない。これからどうなってしまうのか、皆目分からない。

「大丈夫。悪いようにはしないから。」

竜騎士は、サクジをここに連れてきた時、そう言った。

 昼間倒れていた男性が来ていた特殊な服は、サクジのような一般人に見られるのはまずいものだったという。だからサクジを一旦拘束し、口止め料を支払う措置が必要なのだとか。スパイ疑惑がかかっているなら罰や拷問も有り得るが、そうではなくサクジが現場を見たのは単なる偶然である。そのことは竜騎士も分かっているため、サクジが不利益を被る心配はないらしい。

 とはいえ、まるで罪人のように拘束されていては、不安や恐怖を感じないわけがない。特にサクジは、こういうときに落ち着いていられる胆力を持ち合わせていない。何も見えない暗闇の中、麻のにおいと不安だけが籠もったこの空間で、ただひたすら待っている。


 しばらくすると、扉をこじ開ける音に続いて、複数人の足音が堂々と入ってきた。うち一人の足音がサクジに近づき、頭の麻袋と手錠を外してくれた。バサァッ、という音とともに、視界が一気に眩しくなる。

 急な明暗の変化に目が慣れると、向かい側の椅子に一人の男が座っていた。先の竜騎士とは打って変わって、高貴で偉大そうな40代ぐらいの男性だ。その後ろには部下らしき人たちが待機している。

「サクジ君、といったか。初めましてかな。国王、ラルフ・ラヴェンジャーだ。」

サクジは唖然とした。ラルフ・ラヴェンジャーは元国防省大臣で、2年ほど前に国王に就いたという。国のトップと急に対面することになり、動揺を隠せないサクジに、王が話し始める。

「私が来た理由は、他でもない。君の見た、流体操作スーツについてなんだが……。」

「りゅうたい、……え?」

全く知らない単語を、聞き取ることすらできなかった。国王は、右手のジェスチャーを走らせながら、一生懸命思い出させようとしてくる。

「君が見た奴が着てたスーツの名前さ。黒かっただろ?それにほら、隙間なく、体に沿った作りをしていて……」

わけのわからない単語に困惑したが、やはりあの時倒れてた人が着ていた、あの特殊な服のことを言っていたのか。そんな名前だったのかと驚くとともに、スーツという呼び方に違和感を感じた。サクジのイメージするスーツとは、商人がYシャツにネクタイ、その上にジャケットを着こなしている姿だからだ。

「あ……ああ、あの人が着てた。」

「そうだ。あれが、流体操作スーツ。ウチの国家機密兵器だ。」

機密兵器……そんなにスゴいものなのか。相当物騒な現場に巻き込まれたのだなと、面倒な気持ちになる。

「あのスーツは、周囲の流体を自由に操り、空を飛ぶことや、水の流れをコントロールすることができる。」

流体、をサクジはよく分かっていないが、拾えた言葉から察するに、鳥みたいに空を飛んで戦えるようになるスーツ、とぼんやり想像した。

 それにしても、先の竜騎士の話では、サクジには口止め料が支払われ、解放してもらえるのではなかったのか。だから、軍人やら諜報組織の人やらと対面し、口止めの説得をされたり、多少脅しまがいのことを言われるのだと思っていたのに。それがなぜ、国王が目の前に来て、しかも機密兵器の詳細を、わざわざ教えられているのだろうか。 

 国王はジェスチャーの手を落ち着かせ、沈黙の中、一呼吸してまた口を開く。

「実は君を、麻酔で眠らせていたときにだ。こっそり身体検査をさせてもらったよ。その結果、君には流体操作スーツの適性があった。」

「て、適、え?」

身体検査というのにまず驚いたが、適性があるとは。それはつまり、サクジは機密兵器を扱う素質を持った人間ということだ。

 国王によれば、このスーツは特別な適性を持った人間が着た時にしか、力を発揮しないのだという。そうでない人が着ても、ただの暑苦しい変な服に過ぎない。

 あの時気絶していた男は、軍部の中から選ばれた、適性のある兵士だった。だが、訓練で飛行している途中、事故で墜落し、サクジに発見された。

「兵士が墜落した時には、スーツは稼働していなかった。だが竜騎士の証言によれば、君が兵士を助けるようと触れた瞬間、スーツが再起動しかけたと。」 

それで、まさかと思ってサクジの体を調べてみたら、適性があったという。

 国王はまた一呼吸置いてから言う。

「サクジ君、君に頼みがある。」

「陛下。彼はまだ、状況を飲み込めていません。」

後ろに控えていた部下が、国王を止めるように口出ししたが、国王は無視して進める。

「君に、ヒーローなって欲しい。」

「は、……はい?」

急に何を言い出すんだ、この国王は。めちゃくちゃにも程がある。

「私はスーツを着て戦う者を、国のヒーローという称号をもって讃え、国民達の希望の光になってもらうとともに、魔王軍に対する抑止力にしようと思っていたんだ。」

この世界には、魔王が支配し魔族の住まう国がある。その国は、つい先日王国との和平を蔑ろにし、宣戦布告をしてきた。いつ魔王軍が攻撃してくるか分からない情勢に、王国民は不安に追い込まれている。

 その魔王軍に対抗するために作られた、流体操作スーツ。適性を持っていた兵士は墜落事故で戦えなくなり、その代わりを探すのはとても手間がかかるのだという。だからこそ、偶然適性が発覚したサクジを野放しにはできないと。

 サクジにとっては青天の霹靂である。これは栄光か平凡かの二択だ。だがサクジは、ここで迷わず栄光を選ぶ人でも、どちらをとるか迷う人でもなかった。後者に決まっているのだ。

 何たってサクジは、戦う勇気などないし、注目を浴びることにも、責任の重圧にも耐えることはできない。

「無理です……それは断ります。」

声を必死に絞り出して、おそるおそる言う。

「なぜだ。ヒーローになれるのだぞ?これ以上ないほど最高の待遇を約束しよう。」

「国王様。私には、そのような重い仕事はできません。」 

「サクジ君。君は大した収入もなく、村の仕事を手伝って居候するらしいな。不安定で、自由も少ないのだろう。だがヒーローになれば、君の生活は一転する。衣食住も全て豊かになるのだぞ。」

国王は必死に説得した。だがどれだけ口説いても、サクジが首を縦に降ることはなかった。相変わらずおどおどした声で拒むだけだ。

 結果、国王の方が折れることになってしまった。

「そうか。分かったよ、サクジ君。荷が重い話だということは、分かっていた。けど頼んでみるだけでもと思って話してみたんだが、やはりだめだったか。」

サクジは安堵した。案外、諦めてくれるものなのかと。こういうお偉いさんは皆、自分の主張を否が応でも通してやろうとするものだと思っていたから、気持ちいいぐらいの諦めようにホッとする。

「君には後で口止め料と帰りの旅費だけ渡して、解放してあげよう。君の故郷の人達には、冤罪で一時的に拘束してしまったと伝えておくよ。今日のことは、くれぐれも秘密にね。それじゃ、私はこれで失礼するよ。」

そう言って微笑むと、国王と部下達は部屋を去っていった。

 その後、サクジは金を受け取り、翌日、王都を少し観光して、帰路についた。


 3日ほどかけて、ようやく帰って来られた。いろいろ大変な目に遭ったが、ひとまず故郷に戻れて安心だ。

 しかし、妙な違和感を感じる。村が前より少し、賑わっている気がする。高価な装飾品を身につける村人がいたり、昼間から酒を飲み、見慣れない料理を食べながらわいわい騒ぐ者もいる。村全体に余裕がでできたというか、急に豊かになった気がする。少し不思議に思いながらも、いや良いことじゃないかと悩むのをやめた。

 村長が見えたのでただいまの挨拶をと近づいたら、外から来たであろう騎士と話をしていた。

「帰ってきたかサクジ。この裏切りモンが。」

 サクジに気づくなり、声を荒げて言って来たので、困惑した。急に裏切り者呼ばわりとは、一体どういうことだ。

「騎士様から聞いたぞ。国王陛下から、とても名誉ある役目をいただいたというのに、ビビって逃げ出したとな。」

村長の言っている意味が分からなかった。名誉ある役目とは、国王の言っていたヒーローのことだろう。その話なら断りましたと告げると、村長はこれまたカッとなって言い放った。

「何を言っとるんじゃたわけ。とにかく国王様んとこ帰って謝ってこい。お前が逃げたまんまだと、ワシらが受けたご恩はどうなるんじゃ。」

一瞬頭がフリーズしかけ、吹っ切れた。ようやく分かった。国王は、サクジがヒーローになる話を受けたと村に伝えたのだ。そしてヒーローの故郷であるこの村に莫大な褒美を出した。この村に余裕ができたように感じられたのはそのためか。言うなれば、この村は国王に買収されたようなものだ。

「村長。サクジ殿を王都へ連れ帰ってもよろしいか。」

騎士が言うと、村長は満足気に首を縦に振る。断れるわけがない。

 騎士に連行され、再び王都に戻ることになったサクジ。

完全に、してやられた。自分のことを諦めてくれたと思った国王は、それとは裏腹にどす黒いやつだったのだ。サクジは国王の企みで、強制的にヒーローにさせられるのだ。

 馬車に乗った時、サクジの目には涙が滲んでいた。ハメられた屈辱、危険な戦いに駆り出されるという恐怖。

 再びサクジを王都に連れて行くべく、馬車は動き出した。


 読者の皆さんのアドバイスを元に、私とこの小説は成長していきます。

 まだ未熟な私に、皆さんの知恵を貸してください。


 ヒーロー・アンド・パートナーを読んでくださって、本当にありがとうございます!!

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