目撃
あなたは、誰かを守ったことがあるか。
あなたは誰かに、命がけで守ってもらったことはあるだろうか。私はよく、「守る」という言葉と向き合わされ、考えさせられる。
この作品を読む前に、一度思い浮かべてみて欲しい。あなたが守る、あるいはあなたを守る人のことを。
ここは、王国の首都とは遥か遠くの、地方の村。この村に居候する青年、サクジは、村の近くの森で木こりの仕事をしている最中だった。両親をすでに亡くした彼は、村の木こりや運び屋などを手伝い、飯を食わせてもらい、疲れて寝る日々を送っている。今日も朝早くから一人で森に来て、木を何本か切り倒した。
昼になって、少し休憩をと思い、近くの切り株に腰かけた。サクジの切った木ではなく、村の熟練者の誰かが、昨日か一昨日ぐらいに切ったのだろう。キレイにできていて座り心地も良い。持ってきた水を飲み、ほっと一息。虫の鳴き声も、鳥のさえずりも、空の青さも、いつもと変わらない。水を飲み、一息ついて、また一飲み。
そのとき、異常な音が日常を壊した。
バキバキバキバキッ。たくさんの木枝の折れる音が、葉っぱの踏み潰される音が、聞こえてきた。ビクッとして、音の方向へ振り返る。熊のような大きい動物が動いたか、あるいは何か重い物でも降って来たか。
だが、今のたくさんの激しい音、その中に、わずかだが人の声が混じっている気がした。うっ、とか、ぐおっ、とかの痛みに耐えるような声。木登りの練習中に落下したか。いや、さっきまで誰もそこにいなかったと思うが。とにかく真相を確かめたくて、歩き出す。現場近くにいたサクジが、帰って村の者達に説明しなければならないだろう。だから、音の正体を目で確かめるぐらいはせねばならないのだ。
現場に着くまではすぐだった。音の正体を見るなり、驚愕する。そこには一人の男性が、倒れていた。彼の真上の枝が折れているのを見ると、まるで空から落ちてきたかのようで、余計に状況が掴めなくなる。さらにもう一つ、その男性の格好も奇妙なものだった。見たこともない黒い服だが、それはボディラインにほぼ沿った形で、体にそのままピッタリ纏わりついている。その異様さに考察を巡らせるのは後にして、彼の肩を叩き、声をかける。
「大丈夫ですか?」
しかし返事などない。服の触り心地は、やはり普通の素材ではない。一体何の服なのだろうか。とにかく、村の者を呼んで、村まで担いで行くのを手伝ってもらおう。そう思ったとき。
今度は周囲で、何頭ものドラゴンが羽ばたく音。見上げると、竜騎士(ドラゴンに乗った騎士)の集団で、それらはあっという間にサクジを囲い込んでいた。
「そこの少年、今すぐそこから離れろ」
竜騎士のうち一人が、そう言い放つ。少年、ではないと思うがそう言われたサクジは、倒れた男性から遠ざかる。奇妙な格好の男性に、普通この村に来ない竜騎士達。サクジはもう混乱しきっていた。
サクジに離れろと言った竜騎士はリーダー格で、別の竜騎士に顎で指示を出した。無言の指示を受けた竜騎士は、ドラゴンから降り、気絶した男性に近づくと、持って来たマントを広げ、男性をマントで包み込んだ。あの黒い特殊な服がマントに隠れ、完全に見えなくなる。
リーダー格の竜騎士は、サクジをしばらく見つめ、少し考え込む。そして目を逸らすと、再び部下に指示を出す。
「少年は連行しろ。」
「え?ちょ、ちょっと待ってください。」
近づいてくる竜騎士に、後退り、首を微かに横に震わせ、意味もなく手のひらを見せ許しを請う。だが竜騎士の歩みが止まることはない。サクジに大した抵抗などできるはずもなく、呆気なく捕まってしまった。
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