大魔王の一方通行
これは「なろうラジオ大賞2」応募用の作品です。
これは、幾多ある異世界の中の一つのお話……。
異世界にはよくある、人間と魔族との戦いがここでも起こっていたが、それも今、ふたりの勇者によって最終決戦を迎えようとしていた……。
「ふははは! お前の力はその程度か!」
ここは、魔王城の最奥部に位置する玉座の間。魔王は、玉座からほとんど動く事なく、階下にいる勇者『セイカン=ナカオ』を跪かせる。
「く……くそぉ……」
そのナカオの元に女勇者の『アカイ=イト』が駆けつける。
「ナカオ! 大丈夫!?」
ナカオは床についた右腕を、痛々しく押さえながら返答する。
「ご……ごめん……イト……俺の力じゃ……魔王に太刀打ち出来ないみたいだ……」
「ううん! 大丈夫! また修行して、出直してくればいいよ!!」
そんなふたりを嘲笑うかのように、魔王はこう言い放つ。
「ふははは! ナカオよ! 女に助けられるとは、随分と情けない男よ! だが……」
それを聞いたイトは、魔王を鋭い目で睨み付け、玉座の間に向かって勇ましく指を差す。
「だ……黙れ、魔王! 今はまだ歯がたたないけど、次来る時は、きっちり修行してあんたを倒して見せるんだからねーー!!」
イトはそう言い残すと、ナカオを背負い、玉座の間の入口に向かって脱兎のように走り去って行く。
「あ! ちょっと待って! あぁ……行っちゃた……」
部屋にひとり残された魔王。力が抜けたように玉座に座ると、寝そべるようにひじ掛けに寄りかかり、ほう……と溜め息をつく。すると、玉座の後ろから声が聞こえてきた。
「また、告白できなかったのですか? レンボ様」
「カ……カイ爺!」
玉座の後ろから出て来たのは、直径10cm位の球体に、羽が生えたような悪魔『オセ=カイ』
因みに、魔王の名前は『ヨコ=レンボ』である。
カイ爺は、レンボ魔王の頭上をくるくると回りながら、こんな事を言う。
「何をやっているのですか、レンボ様! 今回こそは、あの男勇者に告白すると言っていたではないですか!」
「で、でも……あのナカオって子、イトっていう幼馴染みがそばにいるんだよ……? きっと、相思相愛だよぉ……きっと、ラブラブだよぉ……」
それを聞いたカイ爺は、レンボ魔王の頭上で更に激しく回り出す。
「くわぁー! その男勇者を奪う気持ちでいかないでどうするのです! 駆け落ちする気概がなくてどうするのです!」
「か、駆け落ちって……どこに行くのぉ……?」
「そ、それはですなぁ……」
女魔王ヨコ=レンボの恋は、今日も一方通行なのでした。