出逢いはイチゴのパンツ!異世界で悪役令嬢や逆ハーレムでも王子様だけを愛したのに忘れた
今日の私は昨日とは違う。
昨日までは下を向いて歩いていた。
誰にも見られたくない。
誰にも話しかけられたくない。
そんなふうに思っていた私。
学校へ行くのにも下を向く。
学校の廊下を歩くのにも下を向く。
そんな私には友達なんていない。
ずっと一人。
そんな私が気付かされたこと。
私の好きな歌手の歌だった。
彼女の歌は“一人で何ができるの?”と問いかけている歌。
私は考えてみた。
一人と二人の違いを。
すると、私は二人でできることに何があるのか分からなかった。
だから私はまずは、下を向くことをやめた。
すると世界は変わった。
いつもの道は違って見えた。
全てが初めてに見えて私はキョロキョロと景色を見ていた。
「ふふっ。何か小動物がいる」
誰かに笑われ、そう言われた。
私は後ろを振り向く。
そこには私と同じ制服を着ている男の人が立って笑っていた。
「あっ、すみません」
「何で謝るの?」
「あっ、えっと、すみません」
「また謝るの?」
そう彼は言ってまた笑った。
「君っていつもこの道を通っているでしょ?」
「なぜそれを?」
「いつも下を見て歩いていて、通行人にぶつかりそうになるときがよくあったでしょ?」
「あっ、そう言えばそうですね。」
「俺、その時いつも一人で笑ってたんだ」
「えっ」
なんて失礼な人なんだろう。
人を陰で笑うなんて。
でも彼はそんな人じゃなかった。
「あっ、怒った?」
「いいえ」
「違うんだよ。
君のそんなところが可愛いくて。
前を向いて歩けばいいのに、下を向いてマンホールの上を絶対踏みながら歩く君がね」
見られてた。
下を向いて歩くのはつまらなかった。
だから私はマンホールを必ず踏むという遊びをしながらいつも歩いていた。
見られないようにしていた私は見られていたの?
私は見られないようにしていたんじゃなくて、見ないようにしていたのか。
彼はそれを教えてくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとう」
「えっ?」
「やっと君の顔を見ることができたから。想像通りの可愛い子」
「えっと、あの、その」
「そう言うところが可愛いんだよ」
私は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「君はもう下を向いて歩くのはやめたの?」
「はい!」
私はうつむいていた顔を上げて元気に言った。
それから彼とはこの道を通る度に出会った。
でも、彼とは学校では会わない。
同じ学校なのに。
なんとなく彼にそのことを言うと彼は、
「大きな学校だからね」
って笑って言った。
その後、彼は話題を変えたから私は何の違和感もなく彼の言葉に納得した。
でも今考えると、それなら教室がどこなのかとか教えてくれてもいいよね。
彼は謎が多い人だった。
でも彼といるときは楽しかった。
彼と歩くのも、
彼と話すのも、
彼と寄り道するのも、
彼の隣にいるのがとても居心地が良かった。
私はもう一人でいることができなくなっていた。
彼を必要としていた。
今日も彼に会うために前を向いて歩く。
いつもは待っていてくれる彼が今日はいない。
私は彼を待った。
待っても待っても彼は来ない。
その日は彼は来なかった。
次の日も、その次の日も、それからずっと彼は来なかった。
学校で彼を探そうとした。
でも、彼のことを私は何も知らない。
彼は彼自身のことを話したことは一度もなかった。
私はそんなこと気付かずに、自分の話をしていた。
私は彼とちゃんと会話してたの?
彼は楽しく話してたの?
すごく不安になった。
彼が私を嫌で離れたのではないかと思った。
私、嫌われた。
そう思うようになるとまた私は下を向いて歩く。
こんな私を誰にも見られたくない。
誰にも話しかけられたくない。
やっぱり私は一人がいいの。
一人でいいの。
自分に言いきかせた。
彼がいなくなって時間はどんどん過ぎていった。
私の心も彼がいない生活に慣れてきていた。
前の自分に戻るのにあまり時間は必要なかった。
「また、下を向いて歩くの?」
彼の声が後ろからして私は振り向く。
彼は悲しそうに笑っていた。
「あなたがいないからよ」
「俺のせい?」
「そうよ」
「君は?」
「え?」
「君は俺がいなくて何か努力した?」
「努力?」
「君はもう、下を向いて歩くのはやめたんでしょ?
それは君が自分で決めたことだよ。
俺のせいじゃないよ」
「ごめんね」
「俺もごめん」
「何で謝るの?」
「黙っていなくなるのは悪かったと思っているから」
「どこにいたの?」
「ここよりもずっと遠い場所」
「すごく大まかに言ったね」
「君は信じてくれないからね」
「信じるよ。
私はあなたの話が聞きたいの。
あなたのことが知りたいの」
「これから起きることは誰にも言っちゃダメだよ。
これは君と俺の秘密だよ」
「うん」
「ここから入るんだ」
彼はマンホールの蓋をどかし、そう言った。
「マンホールの下?」
「大丈夫だよ。ここはただの入り口だから」
「でも」
「大丈夫だから。ほらおいで」
彼は私に手を差し出した。
私は恐る恐る手を重ねると彼はギュッと握ってマンホールへ飛び込んだ。
「えっ!」
私も彼にひっぱられるようにマンホールへ入った。
怖くて目なんて開けられない。
「着いたよ」
彼の言葉で私は目を開ける。
「えっ!」
「想像してた場所とは違うでしょ?」
「あの入り口が変よ」
「俺もそう思うよ」
私が目を開けてみた世界は自然豊かな木々や川、空は澄み渡り、そして綺麗な空気。
「ここはどこなの?」
「ここが俺の住んでいる世界」
「えっ!」
「俺は君の世界の人間じゃないんだ」
「この世界はどんな世界なの?」
「住んでるいる人達は君達と同じ人間なんだけど、少し違うのはこんなことができることかな?」
彼はそう言って手のひらを私に見せた。
すると手のひらが光出した。
そして彼は近くにあった大きな岩を片手で持ち上げた。
「何? すごいよ」
「ここの人間は力を増幅できるんだ」
「すごいよ」
「もう1つ、話すことがあるんだ」
「何?」
「君は今日から俺の婚約者になったから」
「婚約者?」
「そう。婚約者」
「誰が?」
「君が」
「私が?」
「そう。君が」
「私、まだ高校生だよ」
「俺も君と同じ歳だよ」
「結婚なんて考えたことないよ」
「俺はずっと君と結婚したいと思っていたよ」
「ありがとう。でも私はあなたのこと知らないし、無理だよ」
「今すぐ結婚はしなくていいんだ。俺がこの国の王子だから婚約者だけでも早く決めてくれって言われて」
「ねえ今、王子って言った?」
「うん。王子って言ったよ」
「この国の?」
「そうだよ」
「いつかはこの国の王様になるの?」
「いつかはね」
ありえない。
こんな私がこの国の王子様の婚約者?
「私なんかより、もっと可愛い女の子いっぱいいるでしょ?」
「俺は君のイチゴを見てから君を婚約者にするって決めたんだ」
「イチゴ?」
「あっ」
王子はしまったという顔をして自分の口を押さえている。
「イチゴって何?」
「あっ、えっと、その」
「教えてくれないなら私は婚約者なんてならないよ」
「君が怒らないなら話すよ」
「それは話の内容によるよ」
「分かったよ。ただ先に行っておくけど、俺は見たくて見た訳じゃないからね」
「分かったわよ。だから、早く話して」
「俺はいつものようにマンホールから君の世界に出ようとしたんだけどマンホールがいつもより重かったんだ。
何か上に乗っていると思ってマンホールの穴から上を見たらイチゴがあったんだ」
「イチゴ?」
「そう。君のイチゴのパンツが見えたんだ」
「なっ、何で見てんのよ」
「だから怒らないでって。
俺は見たくて見た訳じゃないからね」
「もう。聞きたくなかった」
「君が教えてって言ったんだよ」
「そうだけど」
「でも、それがきっかけで君を見るようになったんだ。
毎日、毎日、俺の心の中で君の存在は大きくなった」
「それで私に声をかけたの?」
「そう。君の顔を見たくて声をかけたんだ」
「それならどうしていなくなったの?」
「俺は結婚する歳になってしまったから早く結婚相手を決めなくてはいけなくて、最初は君を諦めようかと思ったけど、やっぱり忘れられなくて。」
「それで私をここに連れて来たの?」
「そう。俺の婚約者としてね」
「質問してもいい?」
「うん。何?」
「私はここの国の人じゃないよ。それでいいの?」
「それなんだ。俺は婚約者を今日、連れてくるって言っただけで王様には君のことをちゃんと話してないんだ」
「それって大丈夫なの?」
「分からないけど、俺は君としか結婚しないって決めてるから」
「でも、あなたはこの国の王子様だよ。ちゃんと国のことを考えて結婚相手も決めなくちゃダメでしょ?」
「君がそうしろと言うなら俺はこの国の人と結婚するよ」
いきなり王子は真剣な目をして私に言った。
私にそんな大事なことを決めさせるの?
「もし私があなたの立場だったら、好きな人と結婚したいよ。でも誰かが傷つくなら分からない。もしかしたら、自分の気持ちを諦めるかもしれない」
「君の気持ちは?」
「えっ?」
「君は俺のことどう思ってるの?」
「私は、あなたがいなくなってすごく寂しかったよ。
でも、それと好きは違うでしょ?」
「でも、俺と一緒にいたいでしょ?」
「うん。」
「それなら仮の婚約者だね」
「仮?」
「まだ婚約者としても決まってない、仮の婚約者」
「それでいいの?」
「俺たちの間では仮の婚約者。
でも、王様達の前では婚約者になってくれる?」
「いいよ。仮の婚約者契約だね」
「契約だね。君の気持ちが決まるまで」
「そうだね」
「それならまずは、王様に会いに行こうか」
王子はそう言って私の膝の裏に手を当て、横抱きにした。
「えっ、待ってよ。重くない?」
「さっきの力、見てなかったの?」
私は王子にお姫様抱っこをされながら、王子は走り出した。
さっきの力のせいで、すごく速かった。
でも、私は分かってるよ。
腕の力には彼の増幅する力は使われていないこと。
だって手は光ってなくて、足だけが光っていたから。
そして大きな大きなお城の前につきました。
私は下から上へと首を動かし、開いた口が塞がらない。
私は王子と手を繋ぎながら中へ入る。
「俺がいるから大丈夫だよ」
王子はそう言って手をギュッと握った。
私の不安に気付いているんだと思う。
「王様。俺の婚約者だよ」
「そうか。彼女はどこの家の生まれなんだ?」
「地球だよ」
「何だと。あの地球なのか?」
「そうだよ。」
「あの地球は汚いんだ。
空気が汚染されている。
そんな汚いところで育った娘をお前は婚約者と言うのか?」
「彼女は汚くない。
地球だって汚くない。
この世界にはないものがたくさんあるんだ。
綺麗なものもたくさんあるんだ」
私は王様と王子の会話を聞くことしかできなかった。
地球が汚い?
王子はそんなこと一言も言わなかったのに。
地球の人間は嫌われているの?
私って婚約者になっちゃダメなんじゃないの?
「そこの娘さん」
「あっ、はい」
私は王様に声をかけられた。
「君は王子をどう思っているんだい?」
「私は……」
私は王子を一度見る。
王子は何でも言っていいよと言うようにうなずきながら私の言葉を待っている。
「私は、彼の優しさや強さが好きです。
彼は私に一人は寂しいことを教えてくれました。
私は彼がいないとダメなんです」
「君は自分の世界を捨てられるのかい?」
「私の世界?」
「王子はいつか王様になる。
この国を守らなくてはならない。
それがどういう意味かは分かるだろ?」
「どうして自分の国を捨てるんですか?
彼はここで王様になって、私は彼の隣で彼を支えることになぜ、国を捨てないといけないんですか?」
「君はこの国の人間になるんだ。
君はこの国の人間の妻になるんだぞ。
そんな妻になる人がこの国の民達にこの国よりも大切な国があると知られたら民達はどう思うか分かるか?」
「それは……」
「信用がなくなるんだ。
私達、王族の信用がなくなり、民達は離れて行くんだ。
それが何を招くか。
暴力が生まれ、
それが悲しみを生み、
希望がなくなり、
この国が終わりを迎えるかもしれない。
君はそれを分かっていても国を捨てずに婚約者になるつもりなのか?」
私は何も言えない。
王様の迫力はすごかった。
王様のこの国に対する愛が確かなもので、私にはそんな愛を自分の世界に持っているのか不安になった。
「この国のことをこの国の人間ではない彼女に押し付けるのは間違っていると思う。
俺が彼女を選んだんだ。
彼女が背負うものなんて何もない。
俺がこの国の全てを背負うことを決めたんだ」
王子の言葉は私の為に言ってくれたと分かっている。
でも、何か違う感じがした。
王子は間違っている気がした。
でも、私には何が間違っているのか分からない。
だから何も言えなかった。
それに、この場所から早く逃げたかった。
「婚約者の話はまた明日、話す」
王様はそう言うと部屋を出て行った。
私達も部屋を出て、王子の部屋へと入った。
王子の部屋は広くて、何もかもが揃っていた。
部屋には、トイレやお風呂。
他にも小部屋があり、王子の部屋が一軒家と同じくらいある。
「ごめんね」
「何が?」
「嫌な思いしたでしょ?」
「そんなことないよ。
なんて言えないくらい、少し傷ついたけど大丈夫。
私は仮の婚約者だから。」
「俺は本物の婚約者になってほしいんだ」
「それはまだ、無理だよ。
私はこの国の人間には好かれる気がしないし。
みんな私をチラチラ見て、コソコソ話してるし」
「ごめんね。俺のわがままだよね。
君が嫌なら今すぐでも君の世界に帰すよ」
「大丈夫よ。私は言ったじゃない。
あなたがいないと寂しいって」
「俺が君を守るから」
王子はそう言って私を抱き締めた。
初めて王子に抱き締められ、私の鼓動は速くなった。
今日はこの王子の部屋で過ごし、明日また王様と話すことになった。
ご飯は食べたことがないような料理が運ばれ、どれもとても美味しかった。
「お風呂できてるから入ってって、メイドが言ってたよ」
「えっ、いいの?」
「自分の部屋だと思っていいよ」
「無理だよ。こんな豪邸を部屋なんて思うの」
「いつか慣れてよ」
「本物の婚約者になればね」
王子は苦笑いをしながらお風呂のドアを開けた。
「どうぞお姫様」
「もう。恥ずかしい」
そう言って私はバスルームへ入る。
お風呂は想像通り、大きくて一人で入るのには広過ぎだった。
私の着替えが大きな鏡の前に置いてあった。
私はその着替えを着て、バスルームを後にした。
「ねえ、なんでイチゴ柄なの?」
私はバスルームから出るとすぐに王子に言った。
「君はイチゴが好きなんでしょ?」
「好きだけど、着替えまでイチゴ柄にしなくてもいいでしょ?」
「でもすごく似合ってるよ」
王子はそう言って私の左頬に右手を添える。
王子と目が合う。
王子の顔がどんどん近づいてくる。
「待って」
「えっ、何?」
「キスはダメ。」
「何で? 婚約者なのに?」
「仮の婚約者でしょ?」
「ハグはいい?」
「うん」
私は王子にハグされた。
「君からいい香りがする。」
「お風呂上がりだからだよ」
「本当にいい香りだ」
王子はそう言って私の首筋に顔をうずめた。
その日、私は王子の隣で寝るわけはなく、王子の部屋の小部屋で寝ました。
ほとんど眠れなかった私は朝早くに目が覚めた。
小部屋を出ると王子はいない。
王子の寝室へ入る。
王子はぐっすり眠っている。
寝ている顔はすごく穏やかで、とても可愛い寝顔だった。
頬っぺを触りたくなり、
手を伸ばすと王子はパッと目を開け、
私の腕を掴み、
私の世界と王子の世界が反転した。
私は王子にベッドに押し倒された?
「何するの?」
「それはこっちのセリフだよ」
「私はあなたの頬っぺを触ろうとしただけよ」
「ここ、俺の部屋だよ」
「知ってるよ」
「危ないでしょ?」
「危ない?」
「俺だって男だよ」
「あなたは私に嫌がることはしないよ」
「そうだね」
王子はそう言って私の腕から手を離した。
「俺は何もしないかもしれないけど、他の人には気をつけて。
君は女の子で男に力で勝てるわけもないんだよ。
それに、君はこの国の人間じゃないから力はもっと弱いんだ」
王子は心配して言っているんだと思う。
でも、王子の心配は私が本物の婚約者になって結婚して妻になっても続くと思う。
私のことも、国のことも守ることってできるの?
今でも、重荷はたくさん背負っている王子に、
私はもっと重荷を背負わせてしまう。
王子がいないと寂しいのに、王子といると迷惑をかけちゃう。
どうすればいいの?
答えはでないまま、また王様と話す時間になる。
「娘さん。昨日はすまなかった。」
「いいえ」
「今日は王子の婚約者候補を連れてきた」
「何、言ってんだよ。俺は彼女としか結婚しない」
「そんなわがままを承知できると思うか?」
「俺はどんな女性を連れてきても彼女しか選ばない」
「お前はそうでも、彼女はどうかな?」
「私?」
「彼女にも婚約者候補を連れてきた」
そして王子の婚約者候補三名と私の婚約者候補三名が王様の横に並んだ。
美女とイケメンが並ぶ。
なぜ私にも婚約者候補がいるの?
「お前達はこんな好条件の婚約者候補がいてもお互いを選べるのか?」
王様は私達の気持ちを試してるのね。
こんなイケメンがいたって、私は王子と一緒にいないと寂しいと思う。
王子だからいないと寂しいの。
それから私と王子は別々の部屋へと連れてこられ、三名のイケメンも私について来た。
まず一人だけ部屋に残り、後の二人は出ていった。
「私はこの国の大臣の息子です。
あなたの婚約者になれば私はその上のランクの高大臣という名前になるんです。
どうか私をお選び下さい」
この人は肩書きがほしいのね。
私が好きとかではないのね。
却下。
次の人を呼んだ。
「僕は君のその華奢な体に興味がありまして、
君はこの国で一番弱いんですよ。
君の力はどのくらいなのか知りたいですね」
そう言って私を押し倒す。
私は逃れようとする。
「何と、そんな力しかないのですか?
弱い。
弱すぎる。」
そして私の腕を押さえている手に力を入れる。
「痛い。やめて」
私はできる限り大きな声を出した。
「何してんだよ、この変態おっさん」
誰かが私の声に気付き私の腕を押さえている婚約者候補の人に飛び蹴りをした。
そして婚約者候補のおじさんは部屋から追い出された。
私は座り込んで、今起きたことを頭の中で整理していた。
「お~い。大丈夫か?」
「あっ、ありがとうございます」
「腕は大丈夫か?」
助けてくれた人は私の手首に手を当てた。
私はその手に驚き、ビクッと体を強ばらせた。
「あっ、ごめん」
助けてくれた彼はすぐに手を離す。
「王子のところに行ったら?」
「えっ?」
「あんたの顔、王子に会いたがってる」
「どういう意味?」
「今にも泣きそう」
「え?」
「今は泣かないでくれよ」
私の涙を見て、助けてくれた彼はオロオロしている。
「彼に会いたい」
「分かったから」
助けてくれた彼は私の頭をポンポンと撫でる。
「それなら行くか。王子のところへ」
そして助けてくれた彼は私の手首を掴む。
そして部屋を出て、王子の部屋へ向かう。
ノックもせずに王子の部屋へ入る。
王子は私の泣いている姿を見て、助けてくれた彼の手から私を奪う。
そして私を抱き締めて、
「お前、彼女に何をした。
絶対に許さないからな。
俺の命よりも大切な彼女を傷つけた奴は絶対許さない」
そう言った。
「違うの。彼は助けてくれたの」
「え?」
「彼は私が襲われそうだったところを助けてくれたの」
「君は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。彼のおかげなの」
王子は私を腕の中に閉じ込めたまま離さない。
王子の気持ちが嬉しかった。
「結婚してもいいんじゃない?」
助けてくれた彼が私達を見て言う。
「二人とも、同じ気持ちじゃん。
彼女は王子に会いたくて、王子は彼女を守りたい。
それって、好きだからできることなんだと思うよ」
私と王子は助けてくれた彼の言葉を聞いて見つめ合う。
私は王子が好き?
王子は私が好きと言ってくれる。
私は?
私は王子が好きなの?
王子と見つめ合っている間、私の鼓動は今までで一番速くなっていた。
「私は、あなたが好きよ。
あなたが大好きよ」
「それなら仮の婚約者契約は終わりだな」
「そうだね」
私達は見つめ合ったまま笑った。
「早くキスすれば?」
「「なっ!」」
助けてくれた彼の言葉に私と王子は顔を真っ赤にしてうつむいた。
それから私と王子は王様の元へ向かう。
今度はちゃんと心も手も繋いで。
「俺は一生、彼女と生きていく。
王子の仕事もちゃんと手を抜かずにやる。
俺にとって彼女が俺の全てなんだ」
「娘さん。君は王子の気持ちと一緒なのかい?」
「はい。私は王子の隣で王子の重荷を少しでも軽くしてあげたいです」
「婚約者は認めてやろう。
だが、結婚は別だ。
私は王子の結婚相手は決めておる」
王様はまだ諦めていない。
私だって諦めないからね。
そして、私達は手を繋いで王子の部屋へ入る。
昨日とは違う気持ちでいる私は、なぜか恥ずかしくなった。
「また下を向いてるよ」
彼はそう言って私の両頬を両手で包み上を向かせた。
「だって、何か恥ずかしくって」
「何で?」
「私の気持ちは昨日とは違うから」
「俺にドキドキしてるの?」
「うん」
「俺もだよ」
彼はそう言って私の耳を彼の胸に当てた。
彼の心臓はドキドキと速かった。
「私と一緒だ」
私は王子の胸に耳を当てたまま上目遣いで彼に言った。
「あれ? もっと速くなった」
王子は顔を真っ赤にしている。
「可愛いすぎる」
王子は私を抱き締めた。
そして次の日、王子の結婚相手がお城に来ました。
彼女はとても美しく、私に勝てるところはありません。
そんな美しい彼女の前で王子は言いました。
「俺はあんたを好きになることはない。
時間の無駄だと思うけど、それでもいいわけ?」
「私はあなたの、大好きな彼女の命を預かっているのよ」
「まさか!」
「そうよ。彼女の命はあと五日くらいかしら?」
「卑怯だろ」
私は王子達の会話についていけない。
彼女はまさしく、悪役令嬢みたいだ。
「彼女は知らないみたいね」
「彼女には話す暇がなかったんだ」
「そんな大事なこと早く言わないと彼女死んじゃうわよ」
何?
私って死ぬの?
「君に大事な話があるんだ」
「何?」
「君はこの国に来て一週間以内にあるものを食べないと死んでしまうんだ」
「死ぬの?」
「この国の酸素の濃度は君の地球とは違うんだ。
君の体には酸素濃度が濃くて、君の体が耐えられないんだ」
「あと五日しかないの?」
「ある食べ物を食べればいいんだが、それがあるのは隣の国にしかない。
彼女の国にしかないんだ」
「自分の国に帰りなさい」
「えっ帰れば死なないの?」
私は彼女の言葉の意味を知りたくて王子に聞く。
「その食べ物を食べなかったら君は元の世界へ戻るとここであったことを全て忘れるんだ」
「あなたのことも?」
「そうだよ。この国のことを全て忘れるから、この国の人間の俺のことも忘れるよ」
「ひどい」
「分かったよ。
お前と結婚すれば彼女は助かるなら」
「え?」
「俺は君が全てなんだ。
君がいなくなることが俺は一番辛い」
「何を言ってるの?
私はあなたの婚約者だよ?
結婚するのは私でしょ?」
「ごめんね。君が生きていてくれればそれでいいんだよ」
「それなら私は自分の世界に帰るよ」
「あなたが私と結婚しないなら私はこの国にいる必要がないもの」
「俺の記憶がなくなってもいいのか?」
「私のものにならないあなたのことなんて忘れたほうがいいわよ」
「俺の気持ちを考えてよ」
「それなら私の気持ちを考えてよ」
私達は見つめ合う。
すると、
「それじゃ、私は国へ帰るわ。
答えが決まったら連絡してね」
と悪役令嬢は言って帰っていった。
私達は王子の部屋へ戻る。
何も話さない。
静まりかえった部屋に時計のカチカチという音だけが響いている。
「どちらにしても、俺達はあと5日しかないんだ。
それなら今を大切にしないか?」
「そうだね」
私達は手を繋いでいた。
私達には一緒になるという選択肢はない。
王子が悪役令嬢と結婚して私の命が助かるか、
私が自分の世界へ帰って王子のこと、全てを忘れるか。
何でこんなことになったんだろう。
あの時、あのまま王子がいなくなったままになっていれば私はこんな思いしなかったかもしれない。
王子が手を握る力を強めた。
私はうつむいていた顔をあげた。
王子は苦しそうな顔で私を見ている。
離れたくないよ。
忘れたくないよ。
王子もそう思っている。
私は王子に抱き付いた。
「忘れたくない」
「うん」
王子は私をギュッと抱き締めてくれた。
朝、目を覚ますと王子は私を見ていた。
「おはよう。早いね」
「おはよう。ずっと君を見てたからね」
「えっ、恥ずかしいじゃん」
「忘れないから」
「えっ」
「俺は全部忘れないから」
「私だって忘れない努力はするからね」
「忘れない為の印つけていい?」
「いいよ」
そして王子は私の首筋に真っ赤な痕を残した。
忘れない。
忘れたくない。
私の命の期限はあと四日。
その日は王子とのんびり過ごした。
綺麗な花を摘んでそれを王子は私に花飾りにしてつけてくれた。
王子といる時間はいつの間にかどんどん過ぎていく。
私の命の期限はあと三日。
今日は助けてくれた彼が来てくれた。
助けてくれた彼は私の婚約者候補三人の一人だったみたい。
助けてくれた彼を王子は側近として側に置いた。
助けてくれた彼は私達の変化に気付き、からかった。
そんな一日はとても楽しかった。
私の命の期限はあと二日。
今日の私は具合いが悪かった。
私の体が限界を迎えようとしているのかもしれない。
今日はベッドの中にいる。
王子が心配そうに見ている。
「俺があの女と結婚すれば君はこんな思い、しなくていいのに」
「私は大丈夫よ。
自分の世界に帰れば全て忘れるんだから。
今が苦しくても大丈夫。
だから私が覚えているまでは結婚なんてしないで」
「俺は君としか結婚しないよ。」
「分かったよ」
「本当に分かってる?」
「うん」
でも、あなたは王子様なんだからいつかは結婚しないといけないことを、
分かってるよ。
私の命の期限はあと一日。
今日が最後。
王子と話すのは。
王子と手を繋ぐのは。
王子と笑い合うのは。
王子とハグをするのは。
王子と愛の言葉を囁き合うのは。
王子と触れ合うのは。
王子と会うのは。
私と王子はマンホールの前にいる。
マンホールの中に入れば私の世界に帰れる。
王子は私を抱き締める。
「ごめんね」
「どうして謝るの?」
「俺が君を好きにならなければ。
俺が君を諦めればって思ってるんだ」
「あなたは後悔をしてるの?」
「うん」
「私とあなたの思い出を後悔してるの?」
「泣かないで」
「あなたが私を泣かせるんでしょ」
「ごめんね」
「私はあなたとの思い出を後悔で終わらせたくないよ。
私は絶対に忘れないよ。」
「うん」
「忘れないから。
忘れたくない。」
私の涙は止まらない。
「そんなに泣いたら帰れなくなるよ。
君の好きな紅茶だよ。飲んで」
王子はそう言って紅茶を自分の口に含み、私にくれた。
口移しの紅茶はすごく甘かった。
「泣き止んだな」
彼は笑って私に軽いキスをした。
「さぁ、時間だ」
「うん。また会おうね」
「うん。また会おう」
私達は笑顔でさよならをした。
私、何でこんなところにいるの?
マンホールの前に立っている私。
マンホールを踏んで毎日歩いているのに、今日はマンホールを踏んでいない。
「まっ、いっか」
そして私はまたマンホールを踏んで前を見ながら歩く。
家に帰ってお風呂に入って鏡を見て驚いた。
「何?この赤い痕。私、覚えてない。」
首筋の赤い痕のことを考えながら次の日、学校へ行く。
またマンホールを踏みながら前を見て歩く。
「ふふっ。何か小動物がいる」
私は何か懐かしい声のする方へ振り向く。
そこには笑顔の彼がいた。
「忘れてないよ。私の王子様」
私は満面の笑みで彼に抱き付いた。
読んで頂きありがとうございます。
ちょっと長くなりましたが、楽しんで読んで頂けたのなら嬉しいです。
大切な思い出は忘れたくないですよね。
忘れない努力はやっぱり大切な思い出を思い出しながら語り合うことだと思います。
評価、ブクマ、感想をくれる皆様、本当にありがとうございます。私の執筆の糧になっています。




