お茶会では早くも火花が散っております、お兄様 2
「そう言えば、ネックス子爵令嬢の今日の髪飾りも白いラベンダーですね。隣に座っていると、ほのかにいい香りがしますわ」
ターナー子爵令嬢が、ネックス子爵令嬢の髪飾りを見ながら言った。髪をアップにまとめていらっしゃるので、わたしの位置からは髪飾りが見えない。彼女のお隣に座るもう一人、ミス・ハリソンが
「本当……生花だし、いい香りもします」
「え、すごい。いつお作りに? 生花なんて一日くらいしかもたないのに……」
驚きの声をあげたのは、ミス・レイトンだ。聞き役に徹している庶民派の方々も、長持ちしないことがネックになって、シンプルな物しか作れないのにと、作り方に興味津々。
「この髪飾りは、わたしが作った法具を土台にしていますの。この法具を使えば、三日は瑞々しい状態を保つことができるんですよ。リボンなどは変えてありますけれど、これは昨夜の舞踏会につけていった髪飾りとベースは同じ物ですわ」
「法具って、そんなことにも使えるのですか!?」
驚きの声をあげたのは、ミス・ペリングだ。これは画期的ですよと、手をグーにした。
「だって、この法具があれば庭に植えている花を髪飾りやブローチにすることができるのでしょう? リボンやレースを付け足したりすることも」
「あの……! その法具、使い捨て……ではないですよね? いえ、それよりもその法具は私たちでも買うことはできるのでしょうか?!」
ミス・エイヴォリーが食い気味に問いかける。
「今、ギルドにレシピの登録申請をしているところなんです。申請が通りましたら、すぐにでも数を作って、ランデル商会で販売していただく予定になっておりますわ」
あら、嬉しい。この流れだったら、あの質問がしやすいわ。
「ランデル商会は、法具の取り扱いもなさっているのですか?」
存じませんでした、という雰囲気を演出しつつ、ミス・ランデルに聞いてみると、
「法具というカテゴリでの取り扱いはしておりませんし、これからもする予定はございませんわ。ただ、アクセサリーや雑貨の扱いで、もしかしたら取り扱うことになるかも、とは聞いております。ネックス子爵令嬢の法具もそのひとつですわ」
「なるほど」
スイッチを入れると光る置物やスノードームみたいな置物などは、こちらにもあるのだ。違いと言えば、電池の代わりに法石という法力を宿した石を使っているくらい。
「ですが……っ! 場合によっては皆さまのお手元に届けることができなくなるかも知れないのです」
あの……どうして、わたしを見るのでしょう? その法具の販売には無関係ですよ? わたし。ミス・ランデルの様子にちょっと気圧されしていると、
「実は、ダンジェ伯爵が、わたしの法具とよく似た法具のレシピを登録されていらっしゃるそうなのです。詳細は聞いておりませんが、もしかしたら……」
あ~……レシピを登録するイコール特許ですからねえ。もし、シール兄様のレシピとネックス子爵令嬢のレシピが同一の物だと判定されたら、計画が狂うわけですね。
「お願いします、ダンジェ伯爵令嬢! ダンジェ伯爵にこの特許の件、話していただくわけにはまいりませんか?」
いえ、そのように祈られましても……って、皆さまもですか。
「無知ですまない。同じ物だと判定されたらどうなるんだ? レシピの登録ができず、販売もされない?」
「ええ、そうです。それに、この法具を作るにあたってランデル商会の支援を受けておりましたので──」
しょんぼりと肩を小さくするネックス子爵令嬢。恩返しができないのは辛いですねえ。
「まあ、貴方、子爵家の令嬢だというのに庶民から資金援助してもらっていたの?」
「そのお金が返せないからと、ダンジェ伯爵に特許を譲るようにお願いしてほしいだなんて、厚かましいにもほどがあるのではなくて?」
ガヴァージュ男爵令嬢、ブラックマン男爵令嬢? 誰もそんなこと言っていませんよ?
「優秀な人材に資金を提供することは、珍しくもなんともない話だ。資金を出す者は、貴族だけではないよ。私もしていることだ」
「話をきちんと聞いていらしたの? それとも、この距離では話が聞こえづらいのでしょうか? 譲ってほしいだなんて、一言もおっしゃっておられませんわよ」
マレーネ様はともかく、ヒューズ伯爵令嬢……煽らないでくださいよ。ターナー子爵令嬢が「全くですわ!」と憤慨しているし、庶民派の皆さまは冷めた目で、彼女たちを見ている。
お茶会って、こんなに殺伐としていたかしら? やだわ~……。帰りたい……。
「えぇと……兄……じゃなかった父には話してみますね」
たぶんだけど、同じレシピだったとしても、目的の違いなどを理由にあっさり許可しそうな気がするわ。大きさの違いで区別すればいいとか何とか言って。
シール兄様は、作る過程が楽しいのであって、完成した物にはあまりこだわらないみたいだもの。だから、研究資金の調達も兼ねて、グロリアさんが頑張っているのよね。
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