お茶会では早くも火花が散っております、お兄様
テラスに通されたふたりは、まあぁ……不満そうなお顔。「どうして、自分たちが来ていないのにお茶会を始めているのよ!?」って、思いっきり顔に書いてあるわ。
元々、あなた方とマレーネ様は対立関係にあると聞いていたわよ? なのに、なんで待ってくれると思ったのかしら? そこが不思議。
それに、女学院の生徒は「知的」「落ち着いた」「大人」というキーワードを好むと聞いたわ。だから、わたしもそれに合わせてコーディネートしてもらった。事実、マレーネ様もそうだし、皆さんそういう雰囲気のデイドレスをお召しになっている。
でも、ブラックマン男爵令嬢とガヴァージュ男爵令嬢は違うみたい。女学院の流行りなんて知らないわと言いたげに、フリルたっぷり、リボンいっぱいの装いをしていらっしゃる。
まるで、アンティークドールのような雰囲気だ。似合っているから、別にいいんだけど。な~んかモヤモヤするわ~。庶民派の方々も、失礼にならない程度にひそひそ話。
「ダンジェ伯爵令嬢」
「はい」
名前を呼ばれたので、席を立つ。近くに行けば、
「こちら、ブラックマン男爵令嬢とガヴァージュ男爵令嬢だ」
「……っ! 初めまして」
「……よろしく、お願いします」
一瞬、ぎょっと目を見張ったふたり。簡単な紹介だったから、えっ?! って、なったのでしょうね。でも、公爵令嬢のお茶会に30分以上遅れてくるような方と親しくしたいとは思わないわ。それに、その挨拶。こっちだって、ぎょっとするじゃない。
いくら新参者だとはいえ、わたし、伯爵令嬢ですけど? 自分たちよりも身分が上の令嬢に対する挨拶がそれ? それなの? マレーネ様はちゃんと「ダンジェ伯爵令嬢」だって言ったわよ?
ふたりを紹介したマレーネ様は「正気か!?」という顔で、彼女たちを見ていた。もちろん、他の人たちも。
今の挨拶だって「よろしくしたくありませんけど」っていう言葉が聞こえてきそうなくらい、嫌な感じ。これって、ケンカを売られていると解釈していいかしら?
それともなんですか? もしかして、不機嫌対応、威圧風味の態度に出れば、わたしが委縮するとでも思いました? でしたら、お生憎様。わたし、いじめられっ子は返上したのよ。だって、わたしはアヴァローの英雄の妹で、今は養女なんだから! 負けるわけないじゃない!
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
顔は笑っているけど、目は笑ってないってヤツ。副音声は、「もちろん、よろしくしませんわ」だ。聞こえているといいけれど。あからさまに表情をひきつらせたから、聞こえたみたい。なんなの、その反応。よろしくしたくないと信号を送ってきたのは、あなた達でしょうに。
さて、遅れてきたふたりの座る場所なのだけど……子爵令嬢たちはもちろん、庶民派の方たちも席を譲ることはなく、空いている一番遠い席になった。遅れてきた自分たちが悪いのだから、当然のことなのだけど、やっぱり彼女たちは不満そう。
席を譲れ、とばかりに子爵令嬢や庶民派の方たちをにらむけれど、スルーされていた。ランクが下がった影響でしょうねえ。……この変わり身の早さが、社交界の怖いところだ。
「話は変わりますけれど、私、ネックス子爵令嬢にお伺いしたいことがあるのです」
ぽんと手を打って、口を開いたのはミス・レイトンだった。
「わたしに……ですか?」
「えぇ。実は昨夜の舞踏会を取材していた記者から聞いたのですが、ネックス子爵令嬢は白いラベンダーの髪飾りをなさっていたそうですね?」
「まぁ、白いラベンダーだなんて、そんな物、わざわざ作らせたのですか?」
「一昔前は、ありもしない色で花を作らせて髪やドレスを飾ったそうですわよ」
ブラックマン男爵令嬢に同調して、ガヴァージュ男爵令嬢がオホホと笑う。これにカッチーンときたらしい、マレーネ様。
「一昔前の流行りをご存知とは、ガヴァージュ男爵令嬢は古い物がお好きのようだ。着ているドレスも、アンティークなのかな?」
そういう攻撃的な言い方はよくないですって。だから、お友達が少ないなんて、言われるのですよ。
せっかく、ミス・レイトンが話題を提供してくださったのに……彼女だけじゃなくて、ネックス子爵令嬢も困っていらっしゃる……けど、あら? ご様子が……
ネックス子爵令嬢は、俯かせていた顔を上げ、きっとブラックマン男爵令嬢を見やり、
「まあ、いやですわ。ラベンダーには白い花を咲かせる種類もありますの。ご存じない?」
お見事。いや、本当に白いラベンダーがあるのかどうかは知らないけれど。あ、ミス・レイトンの目がきらっと輝いたわ。よく言った、ってところかしら。
「記者の話では、髪飾りに使われていたラベンダーは生花だったそうですわ? 生花は長持ちしないのに、ずっと瑞々しくて驚いたとも申しておりましたの。ネックス子爵令嬢? どんな法術をお使いになられたのか、ぜひ、教えてくださらないかしら?」
おっとぉ……生花だったというのなら、白いラベンダーは本当にあるのでしょう。帰ったら、シール兄様に聞いてみましょう。
それにしても、生花の髪飾りの秘密、気になるわね。ぜひとも、教えていただきたいわ。
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