女学院デビュー前哨戦ですわ、お兄様 2
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
【ご報告!】 このたび、アマゾナイトノベルズ様より、当作品が『悪役令嬢だけど立場が逆転しています!~助けてください、お兄様~』として、1月20日(木)より配信されることが決定いたしました。これもひとえに皆様のおかげです。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
身分でいうと、わたしは紹介してもらう側ではなくて、紹介される側になる方が多い。とは言え、いくつかの例外も存在する。例えば、紹介する人間と紹介される人間の数によっては、今日のように身分の高い方を先に紹介することもある。
わたしを皆さまに紹介してから、すでにいらしていたお客様を紹介してくださった。
「ミス・ハリソンとミス・ペリング。あちらは、ミス・エイヴォリーとミス・ランデルだ。こちらが、ミス・レイトン」
名前を呼ばれた方は、カーテシーで挨拶をしてくれた。他にも三人、庶民派のトップクラスにいる方たちを紹介していただく。
「そちらがポリーナ・ノラリア・ターナー子爵令嬢」
落ち着いたグリーンのドレスを着た彼女は、背が低くて痩せ気味。わたしより小さいわ。
「隣の方は、ユリシーヌ・スワン・ネックス子爵令嬢だ」
こちらはターナー子爵令嬢と違って、ぽっちゃりさん。獣人のご令嬢だなんて聞いてませんよ? ふりふりと揺れる尻尾の形からして狸ではないかと思うのだけど……どうなのかしら? 何の獣人ですか? って聞くのは失礼よね。
ふたりとも、淑女らしいきれいなカーテシーで挨拶をしてくれた。こうして見比べると、庶民派の方々のカーテシーはちょっと、野暮ったいわね。言わないけれど。
ついて来てくれたロータスとリーロは、ここでいったんお役御免。帰りはしないけれど、別室に設けられた控室でお茶会が終るまで待っていてもらうことになる。
ふたりが控室へ向かったのと入れ替わるように、別の侍従とメイドが、ヒューズ伯爵令嬢が来たことを伝えに来た。マレーネ様はすぐに通すように伝え、
「やあ、オリアーナ。来てくれてありがとう」
彼女が出迎えたヒューズ伯爵令嬢は、アイスブルーのドレスをお召しになっていた。
「お招き、ありがとうございます。マレーネ様」
「早速で悪いが、彼女を紹介させてくれないかな? ステラ=フロル・エデア・ダンジェ伯爵令嬢だ」
「お初にお目にかかります。ヒューズ伯爵令嬢」
いくらわたしが新参者とはいえ、同じ伯爵令嬢。カーテシーでのあいさつはしない。カーテシーってね、自分よりも位の高い方や目上の人に対しておこなうものなの。わたしは彼女を上だと思っていないし、彼女もわたしを上だとは思っていないでしょう。
もちろん、マレーネ様にはきちんとカーテシーで挨拶をしていたわよ。
「ダンジェ伯爵令嬢……失礼な質問をするけれど、いいかしら?」
「はい? なんでしょう?」
ヒューズ伯爵令嬢の目がきらりと光り、
「あなたとダンジェ伯爵とはどういうご関係なの? 親子には見えないのだけれど……」
「あぁ、ダンジェ伯爵はわたしの兄です。つい先日、家庭の事情から養女になりました」
なので、父とは呼びづらく、今でも兄様と呼んでいることを告げる。
「なるほど。そういうことでしたのね」
持っていた扇子で口元を隠し、ヒューズ伯爵令嬢は納得顔。すると、横から
「失礼ついでにもう一つ、うかがわせてくださいませ。あの、ダンジェ伯爵のパートナーをつとめていらした、ミス・マレフィセントは……?」
「いずれは正式なパートナーになられる方だと聞いております。身分など関係なく、あの方ほど兄にふさわしい女性はいらっしゃらないと思いますわ」
ミス・レイトンの質問ににっこり笑って答えると、キャ~ッ! という悲鳴のような歓声がおきた。庶民派の方たちである。ふたりの子爵令嬢も、口をぽかんと開けていた。
「身分違いの恋、ということですか!?」
「庶民が、伯爵夫人になるということですか?!」
おぉぅ……すごい食いつき。皆さま、目がギラギラしていらっしゃる。けれど、ヒューズ伯爵令嬢は冷めたご様子で、
「身分の低い女性に伯爵夫人の重責がつとまるとは思えませんが……」
「いいや、あの方なら立派につとまるだろう。私も、昨夜はオリアーナと同じようなことを思ったんだ。庶民の女性に、あんな大舞台を歩かせるなんて、と──」
うんうん。そうでしたね。シール兄様を批判していましたね。
「マーメイドラインのドレスはもちろん、ご自身もとても美しい方で──」
「人魚姫が社交界に現れたと、新聞の社交欄には出ておりましたわね。大げさでもなんでもなく、本当にその通りだと思いましたわ」
ネックス子爵令嬢とターナー子爵令嬢が、うなずき合う。
「だからこそ、私は彼女が伯爵の自己満足で連れてこられたのではないかと思ったんだ。しかし、それは間違いだった。伯爵を批判した私に向かって、ミス・マレフィセントは、今の自分の姿は、伯爵の正当な評価によるものだと、堂々と反論してきたんだ」
かっこよかったですよね、グロリアさん。普通の女性なら、公爵令嬢に向かって真っ向から反論なんてできませんもの。