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実は……悩んでおります、お兄様

 護衛とメイドを紹介されたり、ストレッチやラジオ体操をしたりしていたわけだけれども、本日のメインイベントはマレーネ様のお茶会に参加することである。

 昼食をいただいて、まったりしていたら、レベッカがリーロと一緒にやって来て、

「お嬢様、そろそろ支度をいたしませんと──」

 忘れてた! 危ない、危ない。声をかけてもらわなきゃ、すっぽかしていたかも。……ありがとう、レベッカ!



 というわけで、支度である。女学院に通う生徒は「知的」「落ち着いた」「大人」というキーワードを好むそうだ。難しいわね……。わたしにそんなイメージがあるかしら?

「基本のドレスはこちらにいたしましょう」

 レベッカが用意してくれたのは、オフホワイトのフルドレス。前世で言うところのワンピースね。アクセントはリボン結びにしたタイネック。スカートの裾にはミルクチョコレート色のラインが二本。同じ色のハーフコルセットには、オフホワイトのピンストライプ。



「いいですね。帽子はこちらにしましょうか」

「いいわね~。コサージュはその白い花にしてくれない? そう。その小さいほうね」

 グロリアさんとエル義姉様の指示で、リーロがさっと動いてシルクハットと白い小花のコサージュを取ってくれる。

「コサージュの位置は右サイドにいたしましょうか?」

「そうね。お願いするわ」

 コサージュにはピンがついているから、帽子に取り付けるのも簡単。リーロが付けてくれたら、すぐにわたしの頭の上に乗り、次は

「お嬢様、ジャケットはいかがいたしましょう?」

 色と長さの違うジャケットが数種類広げられる。



 悩みに悩んで、ミドル丈のミルクチョコレート色の物を選んだ。わたしに、カラーセンスなんてないし? エル姉様とグロリアさんの意見を取り入れつつ、レベッカとリーロがてきぱきと動いてくれて、支度は万全。

 ちょっと休憩と思ったら、コンコンと部屋のドアを叩く音が。入室を許可したら、アジュールがロータスを連れて立っていて、

「そろそろ出発なさってはいかがでしょう?」

「もう、そんな時間?」

 日本人ルールと違って、招待された時間より少し遅れるくらいがちょうどいいのよ。だから、まだ時間はあると思っていたのだけれど……でも、時計を見ればいい時間になっている。



「お嬢様は飛び入り参加ですから、早すぎず遅すぎず、というところが良いかと──」

 そうね。その通りだわ。身分の問題も絡んで、いつ頃到着するかっていうのはかなり気を使う部分。エル義姉様も、その方が良いだろうと判断なさったので、いざお茶会へ。



 付き添いは、ロータスとリーロだ。モーリスはシール兄様と話し中。ワンダは、早くもミセス・ノーヴェからお小言を頂戴しているらしい。一体、何をしたのかしら?

 わたしとリーロは、ロータスにエスコートしてもらって、馬車に乗った。ロータスは御者席に回る。御者から馬車の操り方を学ぶらしい。早速、勉強ってわけね。感心しているわたしに気づいたのか、

「どうかなさいましたか? お嬢様」

「女学院に通うにあたって、カリキュラムを組まなくてはいけないのだけれど、どういうカリキュラムを組むべきかしら、って考えているところなの。将来のことも考えて組んだ方がいいのは分かっているのだけれど、その将来が……」

 あいまいなのよ。エル義姉様にも話したけれど、

「これをしたい、っていう強い気持ちがないの。今、はっきりと言えるのは、一般的な令嬢みたいに社交や奉仕活動に力を入れるのは、乗り気じゃないってこと」

 未婚の令嬢が社交に力を入れるということは、すなわち婚活である。



「なるほど。お嬢様の身分を考えると女官勤めが無難ですが──」

「女官になりたいという気持ちはないから、踏ん切りがつかなくて……。ねえ、答えたくなかったら答えなくてもいいのだけれど、リーロが傭兵になったのはどうして?」

「あぁ、単なる勢いです。元々メイドをしていたのですが、そこの女主人が陰険で……引き留められましたが、それを蹴って、小さな傭兵団が事務職を募集していたのでそちらに」

 顔がやさぐれたところを見ると、よっぽどその家の女主人と相性が悪かったのね。



「幸い、獣人で身体能力には自信がありましたからね。事務兼ポーターとして六年ほど働いていたんですが、その傭兵団がレオン・バッハに吸収されたので所属が変わりました」

 レオン・バッハではポーターとして後方支援に徹することが多かったそうだ。その時に、旦那さんと出会い、去年結婚。傭兵は引退することにしたらしい。

「ですが、旦那の稼ぎだけでは生活が苦しいので、仕事を探していたんです。そうしたら、隊長からこの仕事を紹介してもらえたんですよ。メイドの仕事はあんなに嫌だったのに、何が幸いするか分かりませんね。でも、前のお屋敷と違ってこちらでの仕事は楽しそうなので良かったと思っています」

「それはよかったわ。嫌々働くことほど憂鬱なことはないと思うもの」

 ワークライフバランスは大事よね。そうよ、そこも考えなくちゃいけないのよねえ。


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― 新着の感想 ―
[一言] そう…嫌々働くなんてとっっってもツラいもの……←こもるチカラ(笑) リーロさんはこれから楽しいお仕事ができると思う!トラブルとかトラブルとか兄ちゃんのやらかし&グロリアさんのお説教を見ると…
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