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わたし付きの使用人ですか? お兄様

 マレーネ様のお茶会に参加する人たちは、大雑把に二種類に別れる。

「ひとつは、女学院社交界の中で強い発言権を持つ方たち。ミス・レイトンやミス・ランデル。男爵令嬢のおふたりも──。この方たちについては、好き嫌いなんて関係ないの」

 インフルエンサーと知り合いなのよ、ということが重要であって、インフルエンサーと仲がいいかどうかは別のお話。



「もうひとつは、この方は自分の庇護下にある、というアピールね。子爵令嬢たちがこちらのカテゴリに入ると思うわ。スーも今回はこちら側ね」

 わたしのお友達に何かしたら、わたしを敵に回すということよ? という圧をかけている、ということだそうだ。このことは、インフルエンサーから、周りに拡散されていく。



「今日のわたしの役割は、マレーネ様のコミュニケーションを助けること。目標は、子爵令嬢たちと仲良くなること。それから、ランデル商会の法具取り扱いに関して聞くこと。ネックス子爵令嬢がランデル商会に入って、法具士として働くかどうかを確認すること、ですね」

 少しぬるくなったお茶を口に運び、よしっと小さく気合を入れる。グロリアさんからは、

「法具の取り扱いとネックス子爵令嬢の将来については、聞けたらでかまいませんよ」

 情報を集めるツテはまだまだありますから、と言われてしまった。



「目標に気を取られて、お茶会を楽しめなくては意味がないわ。仲良くなるには、楽しいですね、という気持ちが不可欠よ」

「あ。そうですね。一番の目標は子爵令嬢のおふたりと仲良くなることでした」

 いけない、いけない。聞き出すことに気を取られて、逆に警戒されてしまったら、意味がないわ。気をつけなくちゃと改めて気合を入れ直したその時、

「お話し中失礼いたします。リーブス男爵夫人、お嬢様、グロリアさん。アゲート男爵がお見えですが、いかがいたしましょう?」

 声をかけてきたのは、従者のアジュールだった。背も高く、筋肉質でシール兄様いわく、そこらの下手な傭兵よりも強い、とのことである。



「あら、何かしら? お通ししてちょうだい」

 エル義姉様が許可を出したので、アジュールは「ではお呼びしてまいります」と一礼して去っていく。一体、何の御用かしら? シール兄様なら執務室にいらっしゃるはずだけど。

 ライオット様は部屋の外にいらしたみたい。アジュールが場所を譲れば、すぐに彼が入室してきた。ちょっと疲れていらっしゃるようにも見えるけれど、大丈夫かしら?

「おはようございます、ライオット様」

 わたしたちを代表してエル義姉様が、彼に挨拶をする。ライオット様も「おはようございます。朝から失礼します」と頭を下げてくださった。



 時計を見れば、もうすぐ十時になるところ。午前中の訪問は、どこの家も嫌がりますからね。社交界の行事は夜に行われることが多いから、貴族の、特に女性は夜型の生活をしているの。

「今日は、ステラの護衛とメイドを連れて来ました。公爵家へ行くと聞いたので、連れて行く護衛とメイドが必要でしょうから──」

 ライオット様は、待機していたアジュールに視線を向ける。アジュールはうなずき返すと、部屋の外にいる人たちへ入室を促した。部屋へ入ってきたのは、男女二人ずつ、合計四人。男性は、ロングコートに黒のペリースという恰好で、女性は我が家のメイド服を着ている。



「やっと決まったんですね。旦那様への挨拶は?」

「済ませてある。護衛はモーリス・ジョーダンとロータス・トレバーだ」

 男性たちが前に進み出てきて、礼をしてくれる。うわあ、どっちもかっこいいんですけど。

「ロータスを選んだのですか?」

 グロリアさんは意外そうに目を丸くした。

 ロータスは、わたしとそんなに年齢は変わらないくらいに見えた。頭の上にはピンととがった三角形の耳。彼は、ジャッカルの獣人なのだそうだ。

「お久しぶりです。その……よろしくお願いします」

 ちょっと照れくさそうに、彼は頭を下げる。



「人材育成の一環な。今までは外回りの依頼をさせてたが、護衛依頼とか都市(なか)での依頼もできねえと、仕事の幅が狭まるからよ。魔物や法術の勉強もできるし、いい環境だろ、ここは」

 なんと、ロータスはアヴァローの諍いの時に、シール兄様やグロリアさんと一緒に行動したことがあるそうだ。その時の働きぶりをみて、ライオット様はいろんな経験を積ませたら一回りも二回りも大きくなれると思われたのですって。



「こっちのモーリスは、ロータスの教育係も兼ねてるんだ。こっちじゃ、魔族の働き口は限られてるが、ここの家の人間はそんなこと気にしねえだろ? お互いのニーズが一致したパターンな」

 初めまして、と挨拶してくれたモーリスの顔には、大きな特徴があった。右の目元からその頬にかけて茨のような痣があるの。この痣は生まれつきのもので、魔族には珍しくない特徴なのですって。一見すると獣人のような特徴を持つ方も少なくないとのことである。

 傭兵への依頼は多岐にわたり、知っていること、できることは多ければ多いほど、仕事を長く続けることができるそうだ。将来のことを思えば、勉強する時間も必要なのですって。

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― 新着の感想 ―
[一言] スーちゃんの為のの護衛とメイドさんとな?貴族のご令嬢には必要不可欠ですしね!ライオット推薦なら安心かな! おお…ジャッカルさんの、お耳……(・_・)←つっつきたいのを堪えてスンとなる顔(笑…
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