ティーズ・デイですって、お兄様 4
「中立派の方々の言い分は?」
「一代貴族派に強く言えるほど、家の力が強いわけではないから、耐えるしかないみたい。世襲貴族派がかばってくれるものの、有難迷惑な部分も大きいようね」
「それは、どうしてですか?」
グロリアさんが首をかしげる。かばわれることによって、余計にあたりが強くなるのかしら? と思ったら、なんてことはなく──
「どうして、言われっぱなしになっているんだと、責められるそうよ」
言いそう。っていうより、言うわ。マレーネ様なら言うと思うわ。
「だからね、スーに間に入ってほしいのよ。無事、ディルワース公爵令嬢のお友達になれたことだし、彼女の意識が変われば、世襲貴族派も自然と変わるようになると思うの」
世襲貴族派のご令嬢たちの問題は、カテゴライズによる強い思い込みなのだそうだ。
「こうあるべき、こうするべき。このはずだ。そんなはずはない。べきべき、はずはずなのよ。頭が固いともいうわね。このままだと、貴族の力は衰えていくでしょうね」
あ~……領地からの税収入だけでは厳しくなりつつあるらしいですからねえ。
「そういう背景を踏まえて──お茶会の招待客について事前情報をチェックしましょうか」
グロリアさんが、どこからともなくしゅぴっと取り出したのは、
「招待状ね!」
エル義姉様の目がきらりと光る。
早速招待状を開いて、聞いていた内容と違いがないかチェック。うん、時間も場所も間違いなし。続いて、招待客のリストを確認する。名前と一緒にちょっとした紹介文も添えられていたので、大助かりだ。
さて、招待客は全部で十二人。わたしを含めると、十三人になる。
庶民の方が七人。この中には、ミス・レイトンとミス・ランデルも含まれている。他に、お父様が庶民院の議員をしていらっしゃるミス・エイヴォリーや弁護士の娘さんミス・ペリング、お医者様の娘さんミス・ハリソンも、女学院への影響力は強いらしい。
続いて貴族のご令嬢。こちらは五人。一代貴族派のブラックマン男爵令嬢とガヴァージュ男爵令嬢。中立派のネックス子爵令嬢とターナー子爵令嬢。それから、世襲貴族派のヒューズ伯爵令嬢となっている。
招待客の中で、昨夜ご挨拶させていただいた方はいらっしゃらないわね。
「ヒューズ伯爵令嬢は、社交界否定派に近い方ね。だから、ご自分から動こうとはなさらないの。でも、味方にできたら、頼りになると思うわ」
マレーネ様の言動も、冷めた目で見ていらっしゃることが多いらしい。
「こちらのネックス子爵令嬢は、確か旦那様一押しの法具士ですよ」
「え!? シール兄様の?!」
どういうこと? わたしが思わず大きな声をだしたものだから、グロリアさんは
「えぇと……この方、ギルドに法具のレシピを登録しに来ていたそうです。それを聞いた旦那様が、まだ十代なのに素晴らしい才能だとお声をかけられたそうですよ」
「……シール兄様の発言だと思うと、素直にうなずけないわたしがいます……」
十代でアミュレットのレシピを登録して、グランドツアーの費用を稼いだ人が言いますか? という気持ちだ。レシピの登録自体はすごいけど、すごくないというか……。
「お金になるレシピかどうかが重要ですからねえ」
そういうことである。
「ただ、優秀な法具士であることに変わりはないと思いますから、ステラさんさえ良ければ、声をかけておいてください。将来的に、ヴィリヨ商会で働いてみる気はありませんかと──」
シール兄様がギルドに足を運んだのは、近くを通りかかったついでに、そういった将来性のありそうな法具士がいないか、チェックするためだそうだ。
「法具士という職業は、女性だからと軽んじられることが少ない職業ですね。職人気質で頑固な方が多く、はじめは邪険にされることも多いようですが、一度認めてもらったなら、性別なんて問題にしないようですよ」
いつの世も、技術職は強いみたい。研究職的な部分もあるし、法具士の工房に所属しなくても、個人で研究開発をして、ギルドにレシピを登録。特許料で収入を得る、という方法もある。シール兄様がこのタイプね。
「ん~……もしかしたら、違うかも知れないけれど、ネックス子爵令嬢はランデル商会に取られているかも知れないわ」
「えっ?! どいうことですか?」
「どこをどう伝わってきたのかはっきりとはしないのだけど、ランデル商会でも法具を取り扱うらしい、といううわさを聞いたの」
「ネックス子爵令嬢がミス・ランデルとお知り合いなのは、明白ですものねえ……」
「それもそうですね……。庶民であれば、ランデル商会に囲われる可能性が高いですが、子爵令嬢ですから、スポット契約かも知れませんし……ステラさん……」
「お茶会で、それとなく聞いてみますね」
こういう話を聞いちゃうと、やっぱり社交って必要なことなんだわって、実感できるわね。




