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少年たちのエレジー 2

 学院へ入学した頃、上の兄ジェラルドから言われたことがある。

「ホーネスト伯爵令嬢とは、ほどほどに仲良くしておいてくれ。ホーネスト伯爵家には何の魅力もないが、シルベスターの妹というだけで良好な関係を持っておく理由になる」

「シルベスター……ですか?」

 首をかしげれば、広報部で働くリーブス男爵の腹違いの弟であり、ジェラルドの学友でもあった人物だという。彼はとにかく、好奇心旺盛な上に行動力がある。

「社会的知名度はまだ低いが、そう遠くないうちに知られるようになるからな。友好な関係でいたい。彼との縁は、王家にとって大きなプラスになる」

 兄は、あくまでシルベスター個人との縁を望んでいた。伯爵家なので、王家に嫁ぐ資格はあるものの、今のホーネスト伯爵家に政治的、経済的な魅力は全くない。

 ジェラルドの言う「ほどほどに」とは、王家と縁を結べるかもしれない、という期待を持たせない程度に親しくしておいてほしい、ということである。

 少なくとも、前期生の頃は兄が望んでいた、ほどほどの付き合いをしていたはずだ。



「前期生の頃は、彼女にいい印象を持っていなかったはずなんだよな?」

「ええ、そうですね。伯爵家の令嬢にしては、異性との距離が近すぎましたから」

「引き取られて何年も経つのに、まだ庶民感覚が抜けねえ、頭の悪い女だって思ってた」

 リチャードが言えば、グレンとキースが続く。この頃、アルティ-ガはまだ母国にいた。

「印象、よくない?」

 アルティ-ガが聞けば、3人とも「よくないな」と即答する。

 美人の部類には入ると思う。ただ、好ましい人物だったかと聞かれれば、首を横に振ることになる。ジェラルドに言われていなければ、挨拶すらしなかっただろう。

 華やかというよりは、派手。異性との距離が短く、品がない。貴族の娘としてはもちろんのこと、庶民と比べても眉をしかめたくなるレベルだった。

 そんな人間と親しくしていては自分たちの評価も下がると考え、距離を取っていた。



「アルもそうだろう? 彼女に声をかけたのは、ダンジェ伯爵とアゲート男爵の話を聞きたかったからだ。ステラ=フロル・エデア嬢よりも、彼女の方が声をかけやすかった」

 ただ、それだけ。カサンドラは男子生徒との距離が近かったため、仲介を頼める男子生徒がたくさんいただけの話。ステラ=フロル・エデアを紹介してくれる誰かがいれば、カサンドラには近づかなかったと断言できる。

「ぁ! そうだ、お茶会しなくなった!」

 唐突にポンと手を叩き、アルティーガが大きな声を出した。

「お茶会なくなったから、オリジナルのお茶、飲まなくなった!」

「「「あ!」」」

 それか?! と3人も手を叩く。



 お茶会と言っても、女性が主催するそれとは違って、準備は学院のカフェスタッフに丸投げしていた。目的は、カサンドラから2人の英雄の話を聞くこと。とはいえ、彼女だけを招いては反感を集めるので、1部の参加者を除いて、招待客は入れ替えるようにしていた。

 はじめは飾り気のないお茶会だったが、招かれた女子生徒が自主的に茶菓子──サンドイッチなどの軽食が中心で甘い物が用意されていなかったので──やテーブルを飾る花を用意してくれるようになる。カサンドラが持ってくるオリジナルブレンドのお茶も、そんな持ち寄り品の1つだった。少なくとも、今まではそう思っていた。



 4人の顔色が一気に悪くなる。落ち着け、冷静になれと言い聞かせながら、

「確かランデル商会で、特別にブレンドしてもらっていると言っていたよな?」

「ああ。ランデル商会のティロンという紅茶ブランドは有名だからそれはあると思う」

 リチャード、キースが言えば、グレンが

「彼女の取り巻きに、ラント男爵令嬢がいただろう? 確か、ランデル商会は彼女の叔父が経営していた商会だったはずだ。もう1つ言うと、彼女は錬金術師の資格を持っている」

 人間の父親と魔族の母親の間に生まれた彼女は、蛇のような目を持ち、犬歯が牙のように発達している。その容姿から、一部の生徒には遠巻きにされていることも知っていた。



「あの子、フランシス、よく見てた」

「待て待て待て! ラント男爵令嬢は今まで全く眼中になかったぞ?!」

 男爵は下級貴族であること。中央とのパイプは細くて弱い。貴族と言っても、住む世界が違うこと、男爵にも強い野心は見られなかったため、配慮や警戒の必要はないと判断された。

 ラント男爵令嬢に対する印象は、引っ込み思案。正直、カサンドラの取り巻きをしているのが不思議なくらいだった。彼女の言動に傷ついた顔を見せることも珍しくなく──

「フランシスに慰められたり、励まされたりしているうちに惚れたか?」

「……おそらく。現時点ではただの憶測にすぎませんが、調べさせましょう」

 グレンの提案にうなずいたリチャードは鈴を鳴らし、侍従を呼びつけた。ラント男爵令嬢の周辺を調べること、父と兄へ話があるのでリチャードが会いたがっていることを伝えるように指示を出した。

 今さらの話ではあるが、きちんと調べておくべきだと判断したためである。


すみませんっ。体調不良で1日寝込むことが何度かあったためか、ストックが底をつきました(涙) キリのよいところまで来たこともありますし、しばらく更新をストップさせていただきます。なるべく早く復帰できるようにがんばりますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここへ来てアヤシゲなお茶の存在が……?? そりゃお茶会の主催者が怪しいならいざ知らず、普通は疑わずにごっくんするわねぃ……ぅわちゃー( ̄▽ ̄;) 取り敢えず頑張れ少年達よ!もしかしたら見直…
[気になる点] 作者さまの体調が良くないとの事 [一言] 続きを楽しみにしていますが、 作者さまの体調に合わせて執筆して頂けたらと思います。 お大事に
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