問題はいたるところにあるものなのですね、お兄様 3
う~ん。女学院の生徒と知り合いになっておこう計画が、こんな話になるなんてね。家が大きくなれば、問題の1つや2つ、あるものなのでしょうね。
「この話は屋敷に帰ってからにしましょう。女同士の秘密の話よ。英才公も女学院の教育について、思われるところがおありでしょう?」
娘に話しかけた後、ディルワース公爵夫人は、英才公とミズ・キャリーを見た。
「ええ。今一度、教育の方法について見直そうと思います。リーブス男爵夫人、君の意見も聞かせてもらいたいと思うが、かまわないだろうか?」
「もちろんです。母校の発展には協力を惜しみませんわ」
「ありがとう。当たり前だが、女性だけではなく、男性諸君にも力添えをいただきたいと思っている。我が校の生徒に足りないのは、男性を敬う気持ちなのだろう」
性別で人を判断するのではなくて、人柄で判断しましょう、ということね。
英才公の申し出に難色を示すような器量の狭い男性は、わたしの身近にはおりません。2人の兄様もライオット様も、自分で良ければ力になりますと快諾なさった。
「ミス・マレフィセントには、ぜひ我が校にて講義をお願いしたいと思っておりますわ」
「は? え? 講義……ですか? 私が一体……なんの……?」
ミズ・キャリーのにこやか笑顔での依頼に、グロリアさんは目を白黒させた。
「驚かせてしまいましたか? お話いただきたいのは、あなたの体験談ですわ。冒険譚に心惹かれるのは、何も殿方だけではありませんもの。我が校の生徒の中には、法術士を目指している者、諸外国や獣人族、魔族の文化に興味を持つ者などもおりますから」
鉄道はまだ登場していないこの世界。移動は、徒歩か馬車が基本である。移動する時は、私兵か傭兵の護衛をつける。多くの貴族はシーズンに合わせて、国内外を移動するけれど、交友関係は限定的。地元の人たちや護衛たちとは、ほとんどかかわらないのよ。
これでも伯爵令嬢ですから? 経験談よ。
「あぁ、そういう話を望まれているのでしたら、お力になれるかと思います」
良かったという本音が聞こえてきそうな、グロリアさんの返事。後で聞いた話、もしかして男性の印象を変えるために、男を褒める話をさせられるのかと思って焦ったそうだ。
ふむ。でしたらそのお役目、わたしに任せていただきましょう。他の生徒さんとの交流の中で、チャンスがあればブラコンを発揮させてやるわ~!
ええ、ええ。勝手にやらせていただきますが何か?
だって、シール兄様を自慢しーたーいー! ヴィンス兄様やライオット様の自慢もしーたーいー! エル義姉様やグロリアさんを自慢しーたーいー!
セールヴィじゃ、ぼっちだったから、誰にも自慢できなかったのだ。自慢できそうな環境に行くのだからチャンスは積極的に狙っていきますっ。
1人心ひそかに決意していると、ディルワース公爵令嬢に名前を呼ばれた。何かしら? 返事をして、令嬢の次の言葉を待つ。すると、
「ダンジェ伯爵令嬢。貴女のことをステラ=フロル様と呼ばせていただいていいだろうか? もちろん、私のことはマレーネと……」
「まぁ。それは……」
お腹の前で両手を組み合わせ、祈るような恰好で公爵令嬢はわたしを見てくる。
突然どうしたのかしら? わたしは眉を持ち上げ、彼女の言葉を待った。
「その……図々しいと思われるかも知れないが、貴女と親しくさせてもらいたくて……」
チラチラと上目遣いでわたしを見ないでください。ムズムズ、ウズウズします。
「その……私も頭の中では分かっているつもりなんだ。世の中には尊敬できる男もいるのだということは──! でも、私のまわりにはいなくて……でも、貴女は違うのだろう?!」
必死に言い募るその姿がカァ・ワァ・イィ・イィ……! 公爵令嬢、いえマレーネ様がデレたー! 私は両手で顔をおおい、天を仰いだ(つもり)
「だから……貴女のような人と親しくすることで、私は変われるかも知れないと思って! 男への接し方だとか、言葉選びだとか。────だっ、だめだろうか?」
「だめだなんて、そんなことありませんわ! 喜んで……ッ! わたしのことは、ステラとお呼びください。マレーネ様」
ツンデレ公爵令嬢爆誕か!? などとオタク心をたぎらせながら、わたしは、今自分ができる最高の笑顔で公爵令嬢の名前を呼んだのだった。
「あ、ありがとう! スッ、ステラ……これから、よろしく頼む」
わたしの名前を呼ぶだけなのに照~れ~な~い~! かわいすぎかッ。
あれだけツンケンしていたマレーネ様が急にデレ始めたので、大人たちは「おやおや」「まあまあ」と微笑ましそうに笑っている。公爵夫人なんて「娘に友人ができるなんて! 本当に喜ばしいこと!」と涙ぐんでいらっしゃった。
そんな母君へ「やめてください、恥ずかしい!」とマレーネ様は、ちょっぴりお怒りでしたが……それすらも微笑ましく映る。マレーネ様、かわいい。尊い。
これはもう、女学院へ通うのが楽しみでしょうがない。わたしもそうだけど、マレーネ様も頑張って友人をたくさん作りましょうね!




