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社交なるものをいたしましょう、お兄様

 ニコニコ笑っていればいい、って思ったのは間違いだったっ。愛想笑いだけで乗り切れるのは、相手によるのだと理解しました。あぁ、泣きたい……。

だって、ヴィンス兄様とエル義姉様のあいさつ回り先がこんなに豪華なんてっ……!

 最初にたずねたのは、国王陛下と王妃陛下をはじめ、上級貴族の方々が談笑しているグループ。人がたくさんいるところに向かうのね~、なんてのんきに思っていたら、向かう先にいたのはこの国の重鎮ばっかり! 顎が外れるどころか、落ちそうになったわ。



 いくら、お城で働いているとはいえ、ヴィンス兄様の肩書は男爵で下級貴族。いくら何でも、そんなところにご挨拶に行くなんて──と思っていたら、タイミングを見計らったかのように表れるジェラルド殿下。その爽やかな笑顔が、とてもうさん臭く見えた瞬間でもあった。

 殿下が登場したことにより、シール兄様とライオット様は何の問題もなく、トップグループの方々に紹介された。ヴィンス兄様とエル義姉様は、すでにお知り合いの間柄だったよう。

 娘が生まれたんだってね、おめでとう、とソフィアの誕生を祝う言葉をいただいていた。



 ちなみに、わたしとグロリアさんはおまけ扱い。わたしの方は「デビューおめでとう」とお声がけくださったけれど、グロリアさんにはなし。仕方がないことかも知れないけれど、ちょっともやもやする。とはいえ、じゃあ話題を振られてもそつなく答えることができるのかと言われると、自信がないわけで……。結論として、愛想笑いを浮かべながら相槌を打つことに徹することにした。

 後で聞いたことなのだけど、皆さま、シール兄様とライオット様を紹介してほしいとヴィンス兄様に頼んでいらしたそうだ。我が国ではまだ珍しい魔物のエキスパートということで、何かあったら相談できるようにしておきたかったのだという。なるほど、納得。

 10分ほど話の輪に加わった後は、そろそろと言って退散した。皆さまには皆さまの、わたしたちにはわたしたちの社交がある。適度なところで切り上げるのが、お付き合いを長く続けるコツなのだそうだ。



 さて、次にあいさつしたのは、諸外国からのお客様たち。

 特に、ベサトゥムの外交官からは、わが国の者が申し訳ございませんでした、と謝罪をいただいた。これは、カサンドラの取り巻きの中にベサトゥムの公爵子息がいたからだろう。

 この方は、アルティーガ・トーラス・リディアーズとおっしゃるのだが、獣人ということもあってか、体格からして違う。めちゃくちゃ大きいのだ。ライオット様と同じくらいの身長の男に見下ろされて「カーラを虐げるの、楽しい?」なんて、言われるのである。

 そりゃあもう、恐ろしかった。



「ただでさえ、あの体格なのです。普通に会話をするだけでも、人間のご令嬢には恐ろしく感じられるでしょうに……。祖国でさんざん気を付けるようにと、言われていたはずなのですが……本当に、申し訳ありませんでした。今は深く反省しております。謝罪したところで、あなたの心の傷が癒えるものではございませんでしょうが、必ず謝罪に向かわせます」

 外交官のご夫婦は、ぺこぺこと何度も何度も頭を下げる。かえってこちらが恐縮するくらい。もちろん、リディアーズ公爵子息は許せるものではないけれど、このご夫婦が悪いわけではないので、適当なところで頭をあげてもらった。



 外交官ご夫婦が、公爵子息にどうしてこんなことをしたのか、話を聞いたところ、

「ダンジェ伯爵とアゲート男爵の話を聞きたくて、彼女の機嫌を取りたかったようで……」

 アナタもか。とはいえ、単なる情報の提供元としてしか見られていなかったカサンドラには、ちょっと同情する。それは、わたしだけではなかったようで──

「……あの子、いい笑い者ね」

 エル義姉様が何とも言えない顔でため息をついた。気持ちは分かります。



 カサンドラの言動は、学院内でも注目を集めていた。

 学院の生徒は、みんなゴシップ誌のジャーナリストみたいなものよ。目を皿のように、耳をダンボにして有名な生徒の一挙手一投足を気にしている。

 そうして見聞きした情報を家に持ち帰り、家族はそれをお茶会などで発信するのだ。

学院でのどんな言動がどんな風に発信されたのか、わたしには分からない。分からないけど、ホーネストのサロンで、あの子は

「あたしってば、とってもカワイイお姫様だから? みんなに愛されちゃってるの。うふふふ。困っちゃうわぁ。みんな素敵だから、誰か1人を選ぶなんて、あたしにはできなぁい」

 って、自分で自分の両頬を手で包んで、くねくねしていたもの。学院で同じようなことを女子生徒相手に言っていたとしても不思議じゃない。



 なのに、あの子を取り巻いていた理由が、シール兄様やライオット様の話を聞きたかっただけ、だなんて……。自意識過剰もいいところだ。

「王子たちとどんな話をしていたのか分からないが……内心は穏やかではなかったろうな」

 同情的な意見を口にしたのはヴィンス兄様。でも、グロリアさんは辛辣で、

「単に視野が狭い、ヘタレなだけでは?」

「カサンドラにこだわったのが間違いだったね」

 シール兄様は肩をすくめ、ライオット様は「馬鹿なだけだな」と鼻をならした。

「サンドロック伯爵子息は同調圧力に負けちまったみてえだが、そこはちゃんとステラに謝ってるしな」

 結論として、同情する必要はないから、わたしは怒り続けていてよい、ということでした。


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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん、スーちゃんは怒り続けてもイイのよっ!シール兄ちゃんとライのお話が聞きたいからと女の子をイジメるようなおバカさんにはいい薬……どうせなら薬と言いつつワサビか塩を擦り込んでやりたい………
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