次のステージへ参りますわ、お兄様 5
王子殿下がカサンドラに近づいた、というのは語弊があるわね。カサンドラは、男子生徒と積極的に交流していたから、王子殿下としては渡りに船っていう感じだったのかも。
「ところが、だ。彼女は、幼い頃に迷子になり、数年間を孤児院で過ごしていた。その間に君はグランドツアーに出てしまったため、直接会ったことはないという」
それは、事実だ。
「両親宛てに、ときどき手紙は来ているようだが、自分に宛てた手紙は届いたことがない。その手紙は読ませてもらっているが、どこそこにいて何をしている、くらいの内容しか書かれていない、というそうだ。レディー・ステラ=フロル・エデアには手紙が届いているようだが、手紙を読ませてもらえないのだと……」
「読みたい、読ませてほしいと言われたことがありません」
わたしから、読む? と聞くのも変な話。それに、あの子のことだもの。それは、自分への厭味か当てつけか、なんて騒いだって不思議じゃない。だから、手紙に限らず、わたしからあの子へ話しかけることは、極力避けるようにしていたのだ。
「会ったこともなく、興味もない人間に手紙を書いたりはしません。また、彼女を引き取ったと聞いてから、両親へ不信感を持つようになりましたので、2人には事務報告的な手紙しか送っていませんね。両親からも、どこで何をしているのか、詳しくたずねられなかった、ということもありますが──」
「人の家庭のことをとやかく言うつもりはないが、ずいぶん淡泊だな」
「当時の僕は、領地経営とは何もかかわっていませんでしたからね。伯爵家の不利益にならないのなら、どこで何をしていようと関係ないというスタンスでした。僕自身、僕のやりたいことの邪魔をしないでいてくれれば、それでいいと思っていましたので──」
お互いが、お互いに無関心だったと。
「こういうことを言うのはよくないのかも知れませんが、彼女から旦那様宛の手紙は届いたことがありませんよね? それとも、私が知らないだけで実際は届いていたのですか?」
わたしからや、ヴィンス兄様、エル義姉様からの手紙は見かけた覚えがあるのですが、とグロリアさんが首をかしげている。
「ご両親からの手紙、第一王子殿下からの物もありましたが──」
「届いてないよ」
「っつか、ホーネスト伯爵家の印章が使われてなかったら、届かねえと思うぞ」
グロリアさんの疑問に答えたのは、シール兄様とライオット様。
ライオット様は早い段階からシール兄様が、良くも悪くもおかしいことは理解していたので、余計なトラブルを避けるためにも、レオン・バッハの本部で手紙の内容を確認してもらっていたそうだ。
「ただし、ホーネスト伯爵家、リーブス男爵家、ジェラルド殿下の印章付きの手紙は確認不要。それから、専用封筒の手紙も確認はしてもらってない」
「専用封筒? そんな物が?」
「正しくはステラ専用封筒です。動物やら果物やらの絵がついた子供が使うような封筒に入った手紙ですよ。それも、シールがプレゼントしていた物限定ですね」
「それは……。くくっ。レオン・バッハへ届く手紙の中では、ずいぶん目立ったろうな」
装飾性の少ないシンプルな手紙ばかりの中に、黄色やピンク、緑といった明るい色が使われた可愛らしい手紙は、ジェラルド殿下がおっしゃる通り、さぞかし目立っただろう。
それだけじゃなくて、わたしに送ってくれた物と同じレターセットをレオン・バッハの本部にも見本としておいていたというのだから、表情も生ぬるくなる。
見本として用をなさなくなったレターセットは、娘さんのいる隊員の方がお土産として持って帰ったり、秘密裏の情報交換に使っていたりしていたのだそうだ。
「……つまり、彼女は事実を1部伏せて第三王子殿下方に伝え、ステラさんが自分をないがしろにしている、いじめているのだと印象付けたという訳ですね」
「第三王子殿下たちは、僕やライの話を聞きたい。でも、たくさんのネタを握っているかも知れないスーは、ずいぶんと性格が悪いようだ。そんな女性へ近づいていけば、自分の評判も悪くなるに違いない」
「聞きたいけど、聞きに行けない。そんなジレンマを抱えていた弟に、クリフォードのバカが言ったんだ。どっちつかずだと、シルベスターが帰ってきた時の印象が悪くなる。ホンモノの令嬢の味方をしていたとアピールできた方がいいんじゃないか? とね」
グロリアさん、シール兄様と来て、最後はジェラルド殿下が話された。
「コイツへの点数稼ぎのつもりが、兄弟そろってまったくの逆効果だったと言うことですか。シールに好印象を持ってもらうどころか、上流階級全体を揺るがす一大スキャンダルにまで発展してしまって…………」
若さの一言で片づけるには、苦くて渋くてしょっぱい、経験になってしまいましたねえ。
それは、わたしにも言える。心配をかけたくないから、わたしが我慢していればいい。それで丸く収まるはずだって、そう思っていたけれど──我慢しきれなくなって助けを求めれば、こんなことになっちゃって。仕事でなくても、報・連・相は、大事なんだわ。反省。




