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あたしはお姫様 5

「は? 婚約? あたしが、ですか? 誰と……?」

 お父様の話を、あたしはすぐに理解することができなかった。

 珍しく、話があるからとお父様の書斎に呼ばれたの。書斎には、お母様もいらしたわ。2人ともニコニコと機嫌よさそうに笑っていて、

「サンドロック伯爵家のご子息、フランシス・バーナード様とあなたの婚約よ」

「は? なんで?」



 フランシス・バーナード・サンドロック? あの、ひょろっとした頼りない、女顔の? 冗談じゃないわ。あんな、ひょろひょろしたの、あたしの好みじゃないし。何より、あたしはお姫様になるのよ? あんなのと婚約したらお姫様にはなれないじゃない!

「あの……お父様、お母様。あたし、今リチャード殿下と親しくしているの。だから、この婚約はステラ=フロルに……」

「あぁ、それはだめよ。ステラは、ホーネストの血を引いていないのよ? だから、ホーネスト伯爵家の娘として他家へ嫁がせるわけにはいかないわ」

 分かるでしょう? と眉をひそめるお母様。お父様は厳しい顔で、

「なぜ、リチャード殿下の名前が出てくるのかは分からんが……婚約と言ってもまだ仮のものだ。正式な発表は、学院を卒業してからになる」

 これは──もう、決まったことなんだわ。決まったことだから、つべこべ言うなという雰囲気がはっきりと感じ取られ、あたしはうなずくしかなかった。



 親が決めた政略結婚。物語ではよくあるシチュエーションだけど、まさかあたしの身にも降りかかってくるとは……でも、希望はある。この婚約は仮のものだ、っていうところ。

 学院へ通っている間に王子様と両想いになって、婚約を破棄してもらえばいいだけの話だわ。大丈夫、大丈夫よ。あたしは、お姫様になるんだもの。

 お父様にも言った通り、最近は王子様とよく話をするのよ。リチャード殿下って、呼んでも良いって、許可もいただいたわ。2人の仲は順調だもの。殿下とはすぐに両想いになって、この婚約はなかったことになるでしょ──そう思っていたのに……1年経っても、2年経っても、進展なし。どうなってるのよ!? とやきもきしていたところに──



「は? 婚約の撤回? どうしてですか?」

 いつかのように、お父様の書斎には、お父様とお母様、あたしの3人がいる。でも、前とは違って、お父様は眉間にしわを寄せていて、機嫌が悪そうだし、お母様は半泣き状態だった。控えている執事も、困惑した様子を隠しきれていない。書斎に呼ばれた理由を尋ねれば、

「サンドロック伯爵家より、お前とフランシス・バーナード殿との婚約を撤回したいという申し出があった。ジェラルド殿下からの一筆付きでな……」

「ジェラルド殿下から婚約の撤回を後押しされては、断り切れないわ……」

 は? ちょっと、ちょっと待ってよ! なんで?! なんで、第一王子が、あたしの婚約話にしゃしゃり出てくるのよ?! そりゃあ、フランシスとの婚約は破棄したいけど、なんで、あたしがお断わりされなきゃいけないのよ!? あたしがお断わりする方でしょ!? あたしがフるはずなのに、なんであたしがフラれなきゃいけないわけ?!



「──これは、フランシス・バーナード殿の強い意向らしい。お前とは不仲だったし、結婚してもメリットが薄くなってしまったから、婚約は撤回させてもらいたいとな」

「は? メリット……?」メリットって……なに?

「元々、あちらが望んでいたのはシルベスターとの縁だ。それが見込めないとして、婚約の撤回を申し出てきたんだ」

「ッ! どっ、どうしてそうなるんですか!?」

「ステラが、シルベスターの養女になる。これも、ジェラルド殿下から後押しがあって、断ることができなかった」

 大きなため息をついたかと思うと、お父様は急に「くくっ」と笑いだし──

「どうして、こんなことにっ……! どこだ!? どこで間違った?!」

 頭を抱えて、ヒステリックに騒ぎ立てる。



 お母様は「チェルシーが怒っているんだわ」と泣き出した。何なのよ?! もう! 訳が分からないじゃない! チェルシーって誰よ!?

 って言うか、なんでステラ=フロルがシルベスターお兄様の養女になるわけ?! それと、あたしの婚約破棄とどういう関係があるって言うのよ!?

 うるっさいわね! やめてよ、大の大人がピーピー、ピーピー泣きわめかないで! 情けないし、格好悪いし! 泣いたってなんにもならないことくらい、分かるでしょ!?



 両親を張り倒してやりたい気持ちを何とかこらえ、側に控えていた執事へ「説明しろ」と目線で合図を送る。執事もほとほと困り果てた様子だったが、両親よりはマシだった。

 シルベスターお兄様は、外国で活躍した功績を称えられてダンジェ伯爵の称号を賜ることになり、ホーネスト伯爵家からは出ることになった。これは、あたしも知ってる。

 サンドロック伯爵家が、我が家に婚約を打診してきたのは、お兄様と仲良くしたかったから。お兄様が伯爵位を賜ったのは、あたしの婚約が内定した後のことで、あまり関係ない。

 この時点でもなんの問題もなかったけど、ステラ=フロルが、お兄様の養女になったことで、政略的うまみがなくなったと判断されたため、撤回の申し出がきたんだそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ククク……Ψ(`∀´)Ψ←顔が戻った!そしてとても悪くなった!(笑) 顔が悪い……?うん、キニシナイ(・_・)←(笑) じわじわじわとシール兄ちゃんのボディブローが効きだしたか…?シール兄…
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