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あたしはお姫様 4

 あたしは、かわいそうなお姫様。

 小さいころに迷子になって、孤児院で育ったの。辛くても我慢できたのは、お兄さんにもらった、黄色のお守りがあったから。

 その後、宿屋の夫婦の娘になって、汗水たらしてたくさん働いたわ。宿屋の夫婦は、親切にしてくれたけど……やっぱり、本当のお父様とお母様が恋しかったの。

 そして、ようやく出会えた、本当のお母様! お母様は、あたしを抱きしめて、再会を喜んでくださった。おとぎ話ならここでハッピーエンドだろうけど、現実はそうじゃない。

 あたしを迎えてくれたお屋敷には、ニセモノがいたんだから…………。



「初めまして。あなたが、カサンドラ・リュクス?」

 お母様から紹介された子は、ふわふわの髪をハーフアップにした、大きな目のかわいらしい女の子だった。あたしのニセモノ、ステラ=フロルは小さく首をかしげて、初めて会う親戚に向けるような目であたしを見てる。

「ええ、そうよ。仲良くしてくれるかしら?」

 笑って言ってやったけど、あたしははらわたが煮えくり返るような思いを抱えてた。

 ニセモノのくせに! ホンモノが帰って来たんだから、焦りなさいよ! 怒るとか、恨むとか、憎むとか、あるでしょう!? お屋敷から追い出されないように、あたしのご機嫌取りをしなくちゃいけない立場のくせに!



 なのに、なんで、仲良くできたら嬉しいけど、仲良くできなくても別に構わないわ~、って顔をしてるのよ?! ムカツク!

 あたしがホンモノだっていう証拠の黄色のお守りを見ても、顔色1つ変えないで、「これが、そうなのですか? ……先祖代々伝わっていたにしては新しめのような?」

 なんて言うのよ!? 信じられない! ニセモノのくせに、なんなのよ、その態度!

 許さないわ。絶対に、追い出してやるんだから!

 追い出してやるっていったら、もう1人。気に入らないヤツがいるのよね。月に1回か2回、お屋敷にやって来る、ヴィンセントっていうものすごく感じの悪い男よ。



 お母様が、あたしのことを話したとき、「先祖代々伝わるアミュレット……ねえ……。宝石のような? そんな物あったか? もしかして、シールか? 」

 なんて……信じられないでしょう?! お守りっていう確かな証拠があるのに、この男、あたしのことを疑ってるのよ、ありえない! 気分が悪いわ。

 この後、何を話したかは全然、覚えてない。あんなやつと何を話したかなんて、覚えてる必要ないし、どうだっていいわ。脳みそがもったいないもの。

 この男が、気に入らない理由はまだあるわ。こいつが持ってくる手土産よ。ぬいぐるみに、人形? 子供っぽいわ! 小物や雑貨の柄だって、リンゴとかイチゴとか……センス、最悪。

 でも、せっかくだからステラ=フロルに取られたってことにして、全部捨ててやったわ。



 それから、こいつの話! すっごく、つまんないの。お城で働いているからなんだって言うのよ。あんたの婚約者とか、どうだっていいし。

 あたしに関係のない話なんてしないでほしいわ。聞くだけ、ムダでしょ。

 だから出迎えの挨拶だけして、その後は「勉強をして、遅れを取り戻したいの」って言って、部屋に引っ込むことにした。お母様は、残念そうな顔をするけど、あたしの勉強が遅れているのは、本当だから「仕方がないわね」って許してくれたわ。

 これでも、たくさん勉強してきたつもりだったけど、全然ダメ。ポラーレご夫妻が、あたしにつけてくれた家庭教師が教えてくれたのは、あくまでも平民向けの内容。貴族の令嬢としては、あれもこれも足りてなかったのよ。信じられない。

 あたしは、必死に勉強をした。お姫様になるためだもの。外国語に、地理、歴史、植物のこと。ピアノの演奏、絵画、裁縫、礼儀作法。ダンスと乗馬も習ったわ。



 その一方で、少しずつ、ステラ=フロルの評判を落としていくことも忘れなかった。

 まずはお屋敷から、ゆっくりと。ステラ=フロルが孤立するよう、確実に。

 次は、入学した学院。はっきりとは言わず、ぼやけさせて、向こうにそう思わせることがポイントよ。他にも邪魔になりそうな女はみんな、評判が下がるように仕向けてやった。

 だってね、学院には王子様がいたの。あたしをお姫様にしてくれる、王子様よ。

 ライバルを出し抜くために、あの手のこの手を尽くすのは、当たり前のことでしょう? もちろん、やりすぎはよくないって分かってたから、ちょっとずつよ。少しずつ、順番にターゲットを変えて、印象が悪くなるように、評判が下がるように──。



 それでも、王子様との距離はなかなか縮まらない。知人以上友達未満という関係から抜け出せないまま、前期生3年目を迎え──

「カサンドラの兄上は、どんな方なんだ?」

 王子様の質問に、あたしは「はァ?」と答えそうになった。少し事情があって、会ったことがないことを伝え、その場は何とかごまかした。お屋敷に帰って、お母様に聞けば、

「シルベスターのことね」と教えてくれた。あたしのお兄様。外国で大活躍したため、一躍時の人として騒がれるようになったらしく、王子様たちも興味津々なんだとか。

 やっと運が向いてきたわ。これで王子様と仲良くなれれば、あたしはお姫様よ!


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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのをやりたい放題って言うんだろうかねぃ…?(・´ω`・)←定着しつつある顔(笑) ワタシの心が殺りたい放題になりそうだ…(´Д`) スーちゃんがナニをしたというのだ!許せぬっシー…
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