表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/130

あたしはお姫様 3

 ポラーレのご夫婦があたしを引き取ったのは、働き者だと思ったから。そうじゃないってバレたら、面倒なことになりそうだったから、そりゃあ頑張ったわよ。我慢して、我慢して、我慢して……言われたことは、はい、はい、はい。ほんっとうに、大変だったわ。

 でも、ちょっとだけ考え直したの。

 ご夫婦は、あたしをこき使ったけれど、働いた分のご褒美はくれた。お姫様に贈るには、安物ばっかりだったけど、それはしょうがないわよね。平民なんだもの。

 ご夫婦がくれたご褒美の中には、本もあったわ。物語に出てくるお姫様は、ときどき、あたしみたいに辛い目にあっている。それでも、めげずに働いて、たくさん勉強をしていたわ。

 そうよ、そういうことなのよ。あたしがこんな目にあっている理由が、分かった瞬間だった。



 これは、試練だったの。あたしが、いつか素敵な王子様に出会うための試練なのよ。

 物語の王子様は、優しくて頭がよくて、いつもニコニコ笑ってる、働き者のお姫様を好きになってた。あたしも、物語のお姫様みたいにならなくちゃ。今のあたしじゃ、お姫様レベルが低すぎる。迎えに来てもらえなかったのは、そのせいよ。

 いつか出会う王子様のために、あたしは働き者でいなくちゃいけない。ただ、働いていればいいってわけでもないわ。笑顔で働かなくちゃいけないの。これは、重要なポイントね。

 それから、いっぱい勉強もしなくちゃ。王子様は、外国の人ともお話するんだから、外国の言葉も話せなくちゃ、頭のいいお姫様とは言えないわ。

 ご夫婦は、外国語が話せることはいいことだって、先生をつけてくれた。勉強は嫌いだけど、お姫様には必要なことだからって、頑張ったのよ。



 もちろん、その努力は報われたわ!

 宿屋の娘になって、もうすぐ3年が経とうとしてた時、とうとう見つけたのよ。黄色のお守りに浮かぶ模様と同じ模様をつけた馬車を!

「あなた、我が家の馬車に何か?」

「あ、その……あたしのお守りと同じ模様だって思って……」

 話しかけてきたご婦人に、お守りを見せながら言うと、

「まあ、まあっ、まあっ! 何てこと……! あぁ、神様感謝します……!」

 ご婦人は突然泣き出して、あたしを抱きしめた。



 訳が分からないけど、これは、もしかして……。ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻したご婦人は、ごめんなさいねとにじむ涙をぬぐいながら微笑み、あたしの名前を聞いてきた。

「カサンドラ・リュクス・ポラーレです」

「ポラーレ……この宿の主人の名前ね。こんなことを聞いてごめんなさいね。ポラーレ夫妻は、あなたの本当のご両親かしら?」

「いいえ。あたしは、養女です。この家の娘になって、もうすぐ3年になります」

「やっぱり! いい? あなたの本当の名前は、ステラ=フロル・エデア・ホーネスト。ホーネスト伯爵家の長女にして、わたくしの娘よ」

 伯爵家の娘? お姫様じゃないの? あぁ、でも伯爵って貴族の中でも上のほうで──



「あの、伯爵夫人? 伯爵家の娘はお姫様になれますか?」

「伯爵夫人だなんて、よそよそしい呼び方はやめてちょうだい。お母様と呼んでほしいわ。ええ、ええ。なれますとも。身分も年齢も釣り合う王子様がいらっしゃいますからね。あなたがきちんと学び、たくさんの方に認められたなら、きっと──」

 それからは、とんとん拍子にことが運んだわ。伯爵夫人──いいえ、お母様がご夫婦に話をしてくれて、あたしはカサンドラ・リュクス・ポラーレから、カサンドラ・リュクス・ホーネストになったの!



 見ていなさい、ロータス! あたしは、お姫様になるんだから!!

 宿で見たのと同じ馬車に揺られ、あたしはお母様とこれから住む家に向かう。馬車の窓から眺める外の景色は、何となく見覚えのあるものだった。そのことをお母様に言ったら、

「小さいころは、あなたが暮らしていたところよ? 見覚えがあっても不思議じゃないわ」

 それもそうか。お母様は「そんな小さいころのことを覚えているなんて、あなたは頭の良い子なのね」と目を細めて笑ってくれた。

 到着した家は、家じゃなかった。お屋敷だったの。お母様は「タウンハウスだから、少し手狭で──」なんて言っていたけど……これのどこが手狭だっていうの!? 孤児院よりも大きいわよ?! は? これ、廊下なの!? あたしが寝起きしてた部屋より広いんだけど?!



 案内されたどの部屋も、広くて、それでいていろんな物がたくさん置かれていて。でも、ごちゃごちゃした雰囲気はなくて。洗練された? 豪華な? とにかく、相応しい言葉が見つからない。どの部屋も、同じ家にあるとは思えないくらい、雰囲気ががらりと変わるの。

「いやあね、カーラちゃん。これくらい、普通よ、普通」

 お母様は、ころころと楽しそうに笑う。

 お貴族サマは、流行に合わせて、気分を変えたくて。いろんな理由から、わりと簡単に、部屋の模様替えをしてしまう。壁紙だけ変えたり、インテリアや小物を変えたり。そうやって、屋敷の価値を高めていくのだそうだ。……あたしには、よく分からない世界ね。

 でも、あたしはお姫様になるんだもの。まだまだ、これからよ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 出会っちゃった……(・´ω`・)←そして戻らない顔(笑) お花畑+お花畑=とっても迷惑 さ、この公式は次の試験に出ますからねっ!皆さん覚悟しておくよーにっ!←どこの皆さん(笑) とって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ