あたしはお姫様 2
「先生に聞いてみろよ。王様の子供は何人いますかって。王子様が3人だって、答えるぜ。今の王様の子供にお姫様はいない」
「こっ、この国じゃないかも知れないじゃない!」
手に持ってた洗濯物を握りしめ、あたしは叫ぶ。あたしはお姫様だけど、この国のお姫様だとは言ってない。そうよ、あたしはほかの国のお姫様なの。だから、あたしを見つけるのに時間がかかってるのよ。そうに決まってるわ。
「……ほかの国って、どこの国だよ。っつか、お姫様が誘拐されること自体、おかしいし、もし、本当にあったとしても、誘拐したヤツが大事な人質に自由行動させるわけねえし」
「ぐっ……」
何を言っても、ロータスはあたしの言うことを信じない。全部、違うだろ。そうじゃない。そんな訳ないって言って、ウソだって決めつける。
「もっ、もういいっ! ロータスなんか、大っ嫌い!!」
「あ、おい!」
洗濯物を分からず屋に投げつけたあたしは、ロータスに背中を向けて走った。
なんで、なんで分かってくれないの? あたしはお姫様なんだもの。ウソじゃない。本当なんだから。後で、本当だったんだって、信じていればよかったって悔しがればいいわ。
でも……そうね。悪かったってあやまりに来てくれたら、許してあげてもいいわ。
走り疲れて立ち止まったのは、孤児院の正門の前だった。ぼーっと門の外を眺めていたら、
「カサンドラ、ここにいたのね。院長先生がお呼びよ。一緒にいらっしゃい」
「先生……院長先生が? あたしを?」
何かしら。もしかして、またお説教? 院長先生も、あたしがお姫様だってことを信じてくれない。モーソーはやめなさいとか、いつまで夢の話をしているのですとか……。
思い出したら、腹が立って来たわ。
先生と一緒に院長先生の部屋にいくと、何度か孤児院に慰問で来ていた宿屋のご夫婦もいた。えっと、確かポラーレさん。なんでこのご夫婦がいるんだろう?
不思議に思いながら、院長先生に挨拶をする。
「待っていましたよ、カサンドラ。そちらにお座りなさい」
ポラーレさん夫婦の前の席を勧められ、あたしはそこに座った。先生が隣に座り、
「実は、こちらのポラーレご夫妻があなたを引き取りたいとおっしゃっているの」
「は?」
「これっ!」
あんまりにも間抜けな声を出したもんだから、先生にピシャリと膝頭をたたかれた。
「まあまあ。カサンドラちゃんも突然の話でびっくりしたんでしょう」
「今まで何度も顔を合わせて、お話もしていたけど、養子の話は1度もしたことがなかったもの。しょうがないわ」
ご夫婦は、少し寂しそうに笑った。
「すみません。その……まさか、こんな話があるとは思わなかったので……」
戸惑うあたしに、ご夫婦は「そうよね」と分かったような顔でうなずく。なんなの、その顔。ムカつくわ。あたしの気持ちが分かってないから、そんな顔ができるのよ。
あたしが待ってるのは、あんたたちじゃない。お姫様のあたしを迎えに来るのは、王様とお后様の部下のはずでしょ?! あんたたちは、違うじゃない!
ご夫婦を罵ってやりたい気持ちを抑え、あたしは言葉を飲み込んだ。2人は、にこにこと笑いながら、どうしてあたしを養女に迎えようと思ったのかを話していく。
要するに、ほかの子たちと違って、黙々と仕事をするあたしが働き者の良い子に見えたらしい。何、ソレって感じ。なんにも分かってないじゃない。
あたしは、お姫様なの。誰も信じないし、あたしをバカにしてるから、話さないの。あたしを見下す、イヤな連中と話すことなんて、なんにもないわ。ホント、分かってないわね。
あたしはお姫様なのに、働かされてるのよ。これも、ムカつく。でも、ご飯抜きにされたらたまらないから、イヤイヤ、しぶしぶ、仕事をしてやってるだけよ。
「戸惑う気持ちは分かるけど、悪い話ではないよ、カサンドラ」
ご夫婦の人柄はもちろん、経営している「幸運の二葉亭」という宿は、とても評判が良いのだそうだ。この国の偉い人だけじゃなくて、外国の偉い人たちも泊まりに来るらしい。
「──この国と外国の、偉い人……!」
ピーンときたわ。きちゃったわ! 待ってるだけじゃ、ダメだったのよ!
ご夫婦の子供になれば、貴族や外国の人と顔を合わせるチャンスができるってことよね。お兄さんからもらったこのお守りに浮かぶ模様についても、何か分かるかも。
つまり、あたしの本当のパパとママのことが何か分かるかもしれないってことよ!
「そんなに震えて……大丈夫よ。お見えになるお客様は、素敵な方ばかりなの。きっと、カサンドラちゃんのこともかわいがってくださるわ。おびえることなんて、何もないの」
おびえ? そんなの、あるわけない。あたしが震えてる? それは、興奮してるからよ!あたし、ご夫婦の子供になるわ。子供になって、本当のパパとママの手がかりを探すの。