…………(こっ、言葉が出ませんわ、お兄様!)
「っ~~~!?」
ぼふんっ! と音を立てたのではないかと思うくらい、一気に顔が赤くなった。だって、まさか、こんな風にきちんと舞踏会へ誘って下さるとは思ってもみなかったものっ。
「は、はいっ! 喜んでっ!」
どこかの居酒屋みたいな返事になってしまったけれど、仕方がない。そんな、経験値の低いわたしにスマートな返事なんて、できるわけないじゃないの。差し出された花束を怖々受け取り、胸に抱きしめる。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと~ぉ。何よ、アンタにしちゃあ気が利いてるじゃない」
ニヤニヤと笑いながら、サバランがライオット様の横腹あたりをドスドスと肘でつつく。グロリアさんはグロリアさんで「どうしたんですか。変な物でも食べましたか?」って。
「お前らな。あのな、デビュー前のコが春の舞踏会に出るなんて、1回か2回なんだろ? 1回も出たことがねえってコも珍しくねえって聞くぜ?」
サバランの頭をぐわしっと掴んで、ぐぎぎぎと力を籠めるライオット様。痛い、痛いと彼女(?)は暴れているけど、知らん顔をして
「なのに、丁度いいから一緒に出てくれ、なんて残念だろ? 俺だって、シールとの付き合いで仕方なくエスコートしてるんだろ、なんて思われんのは、気分が悪いからな」
そこで言葉を切ったライオット様は、サバランを解放してわたしを見た。
「ステラだって、そんな風に思われんのは癪だろ? だから、気後れなんてしねえで、ここにいるのはエスコートさせてくれって、言われたからだって堂々と立ってろよ。な?」
「はいっ」
ぽんと彼の手がわたしの頭に乗った。まだ、子供扱いがなくなったわけではないけれど、ライオット様はちゃんと年頃になったわたしのことも考えてくれている。
そのことが、とても嬉しかった。
「そのマーガレット、使えるわ。ねえ、サバラン。マーガレットのレースってあったわよね? それをドレスに使いましょう」
「いいわね、それ。ライィ、アンタの好みっていうか、リクエストは?」
クッキーに言われたサバランは、部屋の奥に置いてあった鞄を持って来て、ごそごそと中を探り始めた。
「リクエストっつーか……やっぱ、デコルテにするんだよな?」
「そうねぇ。デコルテが多いのは確かね。それがどうかした?」
「いや、たまにすげえのいるだろ? いくら何でも露出しすぎじゃね? ってヤツ。あれは、見てる分には構わねえけど、身内とかツレには着てもらいたくねえなって」
あ~たまに、胸の半分くらい見せてる人がいますね。下半身を出すのは下品でも、上半身を出すのはそうでもない、という謎の貴族基準があるものねえ。
「デビュー前の娘にそんな露出の高いドレスを着せる訳がないでしょう」
「デビューした後でも許さないよ、僕は」
グロリアさんとシール兄様のダメ出しに、ライオット様は「なら安心だ」と肩をすくめた。
「さて、トップスはライの希望で、デコルテにするとして──オフショルダーか、ベアトップ。ワンショルダーでも良いかも知れないわね」
クッキーが、わたしの前に3つのトルソーを並べていく。それぞれ、彼女があげたデザインのトップスを着ていた。さらに、その隣には、彼女たちおすすめのスカートライン、Aラインかプリンセスライン、ベルライン。3つのスカートを履いたトルソーが並べられる。
「あった。マーガレットのレースよ。どうかしら?」
「わ。かわいい」
マーガレットが刺繍されたレースは、かわいらしくも清楚なイメージをかきたてる。
「トップスに使うか、スカートに使うか。悩みどころね」
「手袋に使うのもいいわ。いえ、使いましょう」
「トップスは一度、着てみた方がいいんじゃない? 大体の雰囲気がつかめればいいもの」
サバランはそう言って、トルソーからトップスを脱がせる。あくまでイメージ見本なので、後ろは縫い付けずにピンでとめていただけ。なので、簡単にトルソーから脱がせることができた。
「はい、じゃあ、ちょっと隣で着替えてきましょうか。あ、花束はそこのテーブルね」
テキパキと指示され、簡易ファッションショーが始まる。上だけの、しかもピンでとめるだけのなんとも心許無い姿だが、オフショルダー、ベアトップ、ワンショルダーと3つ試して、
観客による投票の結果、オフショルダーに決まった。
「同じ素材でオーバースカートを作って、レースはその下に入れ込みましょうか」
「そういえば、ライはドレープデザイン好きだったな」
「は?! いきなり、何言いやがる!?」
シール兄様の発言に、ライオット様がびくっとなった。でも、デザイナー2人は、訳知り顔で「じゃあ、オーバースカートに小さめのドレープを作りましょう」とすんなり。
こんな感じで、わたしのドレス作りは進んで行ったのだった。