わたしですかっ?! (未来の)お義姉様……! 2
「ぅわぁ……! 素敵!」
「お帰り。ロア、スー」
屋敷に戻ったわたしたちを出迎えてくれたのは、シール兄様とたくさんのトルソー。それの前に立つ、クッキーとサバランの2人だった。
サロンにあったテーブルや椅子などの調度類は隅っこに追いやられ、デザイン違いの白いドレスを着た、いくつものトルソーとオーシャンブルーのドレスを着たトルソーが1つ、並べられている。
「あ、もしかしてこのドレス、グロリアさんが着る──?」
マーメイドラインの青いドレスは、ハイネックデザイン。首から胸元にかけてのレースとトップスの細やかな刺繍がとても豪華だ。スカート部分には、青から緑へ変わるグラデーションのシフォン素材が使われていて、すらりとしたグロリアさんにはよく似合いそうだ。
「ステラさん、旦那様へご挨拶をお忘れですよ」
「あ、そうでした。ごめんなさい、シール兄様。ただ今、帰りました」
わたしがドレスに目を奪われている間に、グロリアさんはシール兄様へ「ただいま」の挨拶をしたのね。子供っぽかったかなと反省しつつ、兄様へ「ただいま」の挨拶をした。
「お帰り。制服作りの方はどうだった?」
「簡単に終わると思っていましたけど……考えが甘かったみたいです」
色だけではなく、柄や細かなデザインまで。自分の好みを反映させられる範囲がとても広くて、嬉しい反面自分のセンスを試されるような気がして、プレッシャーも感じた。
工房でのことを話していると、食い気味に質問をして来たのはクッキーとサバランだ。同業者だから、気になるのだろう。グロリアさんや、同行してくれたレベッカにまで、感想や意見を聞いている。
「イツィンゲール女学院の制服がすっごいイケてるっていう話は聞いたことがあったのよね。でも『何だ、あれは。あんなものを制服だと言い張るなんて、どうかしてる』っていう話も聞いてたのよね~。意味が分かんないって思ってたけど、そういうことだったのね」
「アタシらが女学院の側をウロウロして制服ウオッチングなんてできないしねー。っていうか、生徒さんたちは基本、馬車通学だから外からじゃ分からないっつーね」
頭の固い人なら、それは制服とは言わないと言いそうよねと、2人は納得顔。
「制服のデザインを決めて来たばっかりのステラちゃんには悪いけど、こっちのデザインも決めてもらいたいのよ」
クッキーが言うこっちとは、ずらっと並べられたトルソーたちが着ている白いドレスのことだろう。プリンセスライン、Aラインにエンパイアライン。スカート部分のデザインだけでなく、トップスのデザイン──オフショルダーとかラウンド、ベアトップ──色々な物がならんでいる。
「これはもしかして……?」
「もしかしなくても、ステラちゃんが春の舞踏会で着るドレスの見本の見本ってとこね。あ、グロリア。アンタはさっさと、そのドレスを試着してきて。サイズとか細かなとこの調整をしたいのよ」
隣の部屋をびしっと指さしたサバラン。
グロリアさんは「今からですか!?」と驚くも
「あったり前でしょ。これから、ステラちゃんのドレスに全力で取り掛からないといけないんだから、アンタのドレスにかけられる時間は限られてるのよ」
「少しゆっくりしたかったのですが……」
「ドレスに着替えてから、ゆっくりすればいいでしょ」
はあとため息をつくグロリアさんに、容赦のないサバランの一言。ドレスに着替えたら、気持ちがゆっくりできないと思うのだけど。
「そう言えば、シール兄様。お城に呼ばれていたとお伺いしていましたが、そちらの御用はもうお済になられたのですか?」
トルソーを抱えて、グロリアさんに退室を促すサバランを横目に見ながら、わたしはシール兄様へ聞いてみた。ちなみに、シール兄様がここにいるのは、グロリアさんのドレスの出来栄えを見ていたからなのだそうだ。
「あぁ、ジェラルド殿下から学院の件で話があっただけだから。僕は、はいはい、そうなりましたかって、頷くだけだよ。あと、弟王子の行いについて謝罪もして下さった」
先日、王族を始め多くの貴族子弟が通う名門校に不正疑惑! 身分の低い者へのイジメ、常習化か!? なんて大きな見出しの記事が掲載されていましたものねえ。
「それと、春の舞踏会にはスーも参加できるよ。大丈夫だろうで参加するのと、殿下から大丈夫だとお言葉を頂戴しての参加では、モチベーションが違うから。これで、一安心だね」
シール兄様はわずかに首を傾げ、
「だから、サバランの言う通り、大急ぎで春の舞踏会用のドレスを作ろうね」
「は……い……」
舞踏会までにドレスを作ろうと思ったら、今日中にはデザインを決めてしまわなくてはならないくらい、わたしにも分かる。Oh……なんて悩ましいの……。




