わたしですかっ?! (未来の)お義姉様……!
「ステラさんのことですよって……まぁ、参加できる条件は満たしてるけどよ……」
ちらり、ちらりとわたしを見ながら、ライオット様がもごもごと。いつになく、歯切れの悪いものの言い方だ。
春の舞踏会には、多くの貴族が招待される。招待された貴族は、家族を伴って出席することができた。もちろん、参加者はパートナー同伴。ただし、例外として1~2年以内にデビューする予定がある令嬢、令息はパートナーなしの参加が許されている。
わたしも近々デビューする予定ではあるので、参加することはできる。でも、参加できるとは思っていなかった。
なんせ、親がアレなもので。じゃあ、ヴィンス兄様に連れていってもらったら? となるかもしれないけど、ヴィンス兄様は、わたしを連れていけないのよ。リーブス男爵を名乗っているけれど、これは借りている爵位であって、ヴィンス兄様の爵位ではないからだ。
ヴィンス兄様宛の招待状には、エル義姉様の名前しかなく、ホーネスト伯爵家の一員として、ご参加くださいと書かれている──はず。本物を見たことがないので、聞いた話でしかないけれども。わたしのカワイイ姪っ子ソフィアの名前が招待状にないのは、赤ん坊だからだ。男女共に、14歳になるとデビュー間近ということで、良ければご一緒にどうぞという扱いで、名前が書かれるようになる。
また、春の舞踏会への招待状が発送された時点では、シール兄様の養女となっていないので、わたしが参加できるのはホーネスト伯爵家の家族枠しかない。
そう思っていたので、春の舞踏会のことなんてすっかり忘れていたのだけれど……
「あ~……何だ、その……理由を聞いていいか?」
「虫よけです」
キッパリと言い切りましたね、グロリアさん……。ぐっと握った拳が頼もしいです。
「むっ……まぁ……そうか。今年、出席しねえとインパクトがねえもんなあ。それも、家族枠とパートナー枠。どっちがよりインパクトが強いかっつーとパートナー枠か……」
ザリザリと音がしそうな雰囲気の乱暴な手つきで、ライオット様は後ろ頭をかいている。
「ええと……虫よけと言うのは?」どういう意味なのでしょう?
「今年の春の舞踏会の招待者で1番注目されているのは、旦那様とライオットだと言って良いでしょう。となれば、仲良くなりたい、お近づきになりたい、という人は多いはずです」
わたしも、そこに異論はない。新聞の社交面でも、春の舞踏会の話題が出始めていて、今回はダンジェ伯爵とアゲート男爵も出席されるようだと、一際大きな記事になっていたもの。
「じゃあ、俺らを紹介できる人がどれだけいるかっつーと、ぶっちゃけヴィンスさん夫婦くらいしかいない訳だが……ホーネスト伯爵夫婦なら、シールを紹介することはできる」
「親子ですからねぇ……」と答えたところで、はたと気が付いた。「そのルールでいけば、カサンドラもシール兄様を紹介できますよね? 現実はどうあれ、兄妹なのですもの」
「そこだよ、問題は。想像でしかねえが、自慢げにシールを紹介しそうなんだよな」
するでしょうねえ。
「ステラさんが側にいても、家族枠での参加であれば『あら、いたの?』とか『何で、いるの?』とか、平気な顔をして言いそうな気がします」
言うでしょうねえ。家族枠参加だとパートナーはいなくても良いので、その家の社交界における立場、あるいは家庭内での立場が露骨に出てしまうと聞いているわ。
「でも、俺のパートナー枠だったら? あら、いたの? じゃあすまねえよなあ?」
「舞踏会に参加しているかもしれない、学院の生徒も旦那様に紹介してほしいと、彼女に頼めないでしょう。貴方がすぐ側にいるのですからね」
なるほど。虫よけですね。
「ですが、ライオット様はよろしいのですか? その……わたしのような小娘をパートナーとして連れて歩くことになりますが……」
「かまわねえよ? 言ったろ? 色よい返事はもらえてねえって。場所が場所なだけに、一時しのぎで平民が行くのはちょっとって、敬遠されてるんだよ」
「それに、ヴィンセント様からエイプリル様をお城まで連れて来てほしいと頼まれているのです。ですので、お城まではライオットがエイプリル様をエスコート。ヴィンセント様に彼女をお任せした後、ステラさんをエスコートする形になります」
「なるほど。ヴィンス兄様はお城でお仕事をされてから、参加なさるのですね」
当日、ライオット様がエル義姉様をお迎えに行き、ダンジェ伯爵邸へ寄ってから、お城へ行く。 この時、わたしはシール兄様たちと同じ馬車に乗る。お城に着いたら、エル義姉様のエスコートはヴィンス兄様に引き継ぎ、わたしはライオット様にエスコートしてもらう。
「そういう意味でも、ステラをエスコートさせてもらうと、色々と面倒が省けて助かる。ただまあ……お前の気持ちとしては、あんまり嬉しかねえ理由で、申し訳ねえなとは思うんだ」
「いえ、自分には縁のないものだとばかり思っておりましたから──」
春の舞踏会自体、忘れていたし。それで、八方丸くおさまるのだし、わたしが駄々をこねる理由はない。問題は、わたしが着ていくドレスがないことである。