…………お兄様? 3
何だか、聞けば聞くほど、相手が不憫……。
落とし穴にもバリエーションが存在し、深さも30センチ程度のものから、2メートル近いものまで。穴の底も、生臭かったり、フローラルだったり、ぐにょぐにょの物体Xにひょわぁ?! となったり、這い出たら妙に声が甲高くなっていたりと、色々あったらしい。
「完全におちょくっていますね」
「まあな。他にも足を引っかけてすっ転んだ先が泥だったり、踏んだら板が跳ね上がって来て、顔面にぶち当たったり、両サイドからこう、スパーン! と叩かれたり……」
両手の平の手首に近い所を合わせた状態で、ライオット様は手をパチンと叩いた。
コントかっ! シール兄様が思いつきで作った罠と呼びづらい罠は、まだまだあるらしい。グロリアさんが「何やっとんじゃあっ!」となるのも当然のような気がする。
「活躍の内容が詳細に語られないわけが分かりました」
広められたら、あちらに追加ダメージがいく。ついでに言うと、こちらのイメージダウンにもなりそうな気がする。
「他にもまあ、色々。とにかく、肉体的なダメージよりも精神的なダメージの方がデカかっただろうな。最初はふざけやがってって、怒ってた連中も数が続けば、またかよぉぉって泣きが入るようになってたし……ウチのシールがスマンって、謝りまくってた」
何だかその光景が目に浮かぶようだわ。
「謝られた方は二重でダメージを喰らっていたようですけどね」ぼそっ。
グロリアさんのつぶやきは、聞こえなかったことにしましょう。
「……ですが、それではライオット様のご活躍の場がなかったのでは?」
「あぁ、俺とシールの到着には1か月くらい差があるんだよ。ちょうど、商会の立ち上げで忙しくしてた時だったからな」
ライオット様が、アヴァローの諍いに身を投じたのは、平原で最初の衝突があってから1か月ほど経った頃。シール兄様が加わったのは、さらに1か月ほど経ってからのことだったそうだ。
「なるほど」そういうことかと、わたしが頷く隣で、グロリアさんが
「レベッカ? 分かっているとは思いますが、このことは他言無用ですからね?」
「もっ、もちろんですぅ! あたしは何にも聞いていましぇんっ!」
びくぅと両肩を跳ね上げ、レベッカが半泣きで答える。レベッカは、アヴァローの諍いの後に雇われたそうで、シール兄様がどんな活躍をしたのか、詳しい事は知らなかったらしい。
「まぁ、アヴァローの話はこれくらいにして、ライオット。貴方、春の舞踏会のパートナーは決まったのですか?」
「えっ?! あ……いや……まぁ……その……何だ……」
思いっきり目が泳いでいらっしゃいますよ、ライオット様。
6月も過ぎて、春の~とはこれ如何に。何でも昔は、3月か4月頃に行われていたのだけれど、社交界のシーズンに合わせるため、今では6月の開催になったそうだ。
この舞踏会は、王家が主催する公式行事の1つであり、シーズンの最盛期が来たことを告げる行事でもある。
春の舞踏会は、去年爵位を賜った人々を祝うためのパーティーだ。
もちろん、これとは別に、毎年12月に晩餐会が開かれている。ただ、シール兄様とライオット様は、去年の晩餐会を欠席しているのよね。なかなか許されることではないけれど、事情によっては許される場合──領地で災害が起きたとか、大きな事件があったとか──もある。
では、どういう理由で2人が欠席を許されたのかと言うと……行方不明だったから~。
なんと、招待状を届けることができなかったそうだ。
この頃、シール兄様たちは魔族の国、フォーレンダムのとある漁村にいたらしい。シール兄様が、淡水と海水が交わるところ、汽水域における魔物の生態だか種類だかを観察してみたい、と言い出したのがきっかけ。
フォーレンダムは、わが国から見て西北西にある。パトナルガ川の河口がある国で、この川の流域には、変わった木がたくさん生えているそうだ。
そういえば、その頃「面白い木が沢山生えています」という一文が添えられたマングローブ林のようなスケッチを頂戴していたわね。おっと、また、話がそれてしまったわ。
ライオット様は、グロリアさんのジト~っとした視線に耐えきれなくなったのか、
「社交の得意なヤツに打診はしてるが、色よい返事はもらってねっ……!?」
グロリアさんが、ライオット様の向こう脛を蹴った! きれいなお顔は不機嫌そのもの。
「何しやがる!?」
「何してやがるは、こっちのセリフですよ。貴方の目の前にうってつけの相手がいるというのに。一体、どこを見ていやがるのかっ……!」
「目の前って……お前……」
あの、グロリアさん? ライオット様の目の前にいるのは、わたしなんですけど? 何を言っているのデスカ? 思いもしない言葉にパチパチと瞬きをすれば、
「ええ、ステラさんのことですよ」
にっこり笑ったグロリアさんの顔には、当然でしょうって書いてありました。え~……?
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。




