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…………お兄様? 2

 我が兄シルベスターが『シール・エスクロ』なる呼び名で呼ばれるようになったのは、3年前に起きたアヴァローの諍いと呼ばれる事件がきっかけである。ライオット様が、『スカー・クロス』と呼ばれるようになったのも、この事件がきっかけだ。

 この事件を簡単に説明すると、ブエルヴィスタという魔族の国のピオリクオという地の領主が、隣国のルァグーラへ侵攻を開始。すわ、戦争勃発かと緊張感の高まる中、大活躍したのが、シール兄様とライオット様。



 ルァグーラの防衛軍に所属して、ピオリクオ軍の足止めに成功。戦争を回避した立役者として、ルァグーラ国から褒章を頂いたそうだ。

 そのことを踏まえ、我が国でも2人に褒章を与えねばということになり──隣国に取り込まれてはかなわないという政治的判断もあったのだろう──シール兄様は、母方の祖父が持っていたダンジェ伯爵位を、ライオット様はアゲート男爵位を授かったという訳だ。

 このダンジェ伯爵の爵位。実は2年前におじい様がお亡くなりになられたことで一度は消滅している。そのため、爵位と領地は国へ返納していたのだけれど、兄が爵位を授かったことにより、改めて領地を与えられたのだ。



 まあ、そういう背景はともかく──

「シール兄様とライオット様の武勇伝、是非お聞かせください──!」

 大活躍したことは知っていても、どのような活躍をしたのか、わたしは知らないのだ。当事者がこうして目の前にいることだし、半年という長い間にどんなことがあったのか、聞いてみたい。

 さあ、さあっ、さあっ! ずずいっと身を乗り出して迫れば、ライオット様は気まずいお顔。何かしら? 聞いてはいけなかったのかしら?



「あ~、そんな顔すんな。別に話すなって言われるとか、そういう訳じゃねえんだ」

「そんなにしょんぼりされては、申し訳ない気持ちになりますね」

 グロリアさんは、眉尻を下げながら、力のない微笑みを浮かべている。

「活躍したのは間違いねえが……やり方がエグイっつーか、えげつないっつーか……」

 乱暴に頭をかきながら、ライオット様は息を吐く。

「は? それは、どういう……?」

 えげつないと言われて、真っ先に思い浮かんだのは奇襲やゲリラ戦だ。



 でも、確かアヴァローは見晴らしの良い平原だったと記憶している。そんなところで奇襲? ゲリラ戦は、密林で行われたイメージしかないし……。首を傾げていると、

「アイツ、精霊と契約してるだろ?」

「あ! そのおかげで、高度な法術をぽんぽんと?」

 コスプレ紳士と心の中で命名した、大気の精霊ヘルメスのことを思い出す。風の上位精霊だと言っていたから、ズルイことになりそうだ。



「まぁ、そうだな。っつか、ヘルメスがいるだろ? アイツ、風の上位精霊だろ? だからな、自分より下の精霊に命令を出せるだろ?」

 出せるだろ? と言われても「はあ、そうなのですか」としか答えようがない。わたしの返答はあいまいなものだったけれど、ライオット様は気にした様子もなく──

「だからな? 敵側の情報がほぼリアルタイムでこっちに入って来るんだよ」

「は? え? ちょ……えっ? そ、それって……」やばくない?



「そもそも、精霊の姿が見える人間なんて、こっちもそうだが、向こうさんにもいなかったんだよ。となりゃあ、精霊を警戒するっつー発想がねえから、情報は抜き取り放題──」

 抜き取る側は、存在に気付かれていないからほぼ安全。うわぁ……悲惨。

「天気予報だって正確だからな。明日の昼前頃から雨が降るって。奇襲、行っとく? とか、ふっつーの顔して言いやがるんだよ。行っとく? じゃねえっつーの……!」

 そんな、放課後にハンバーガーを食べに行くようなノリで、奇襲に誘うんじゃありません!



「このあたりに何人、こっちは何人。装備がこうだから、こういう戦い方が得意そうだとか、今、斥候が出発したみたいで、このルートを通って来るっぽいなとか……」

「丸裸ですね」

「おうよ。ホント、マジで向こうの連中には同情しかねえわ。アイツ、ヘルメス以外にも契約してる精霊がいるしな? おまけに法具技師としての腕も確かだしな?」

「──子供が工作をするようなノリで、罠を作るのですよ。旦那様は……っ! しかも、質の悪いことに作る罠、作る罠、子供のイタズラレベルのようなものばかりで……っ!」

 えー……。唸るグロリアさんの顔には、しっかりと「何やっとんじゃあっ!」と書かれてありました。これがいわゆる、才能の無駄遣いってヤツなのでしょうかね。



 例えば、落とし穴。敵側の行軍ルートから、どれくらいの早さで進軍してくるかもおおよその見当を付けられるので、シール兄様は「はい、落とし穴」と両手をぽんと叩く。そうしたら、精霊がぽんと落とし穴を作ってしまうらしい。……ドッ、ドラ〇もォ~ん……。

 ほんの数分前まで影も形もなかった罠の感知なんてできるはずもなく、進軍して来た部隊の皆さまは、ほぼ全員が落とし穴にはまり、捕虜としてライオット様たちがお迎えに。

 …………そりゃあ、同情したくもなりますネー。…………何か、兄がスミマセン……。


 今年最後の更新です。拙作にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いいたします。

 皆様、よいお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今日の帰りマ◯ク?それともがっつりラーメン?的なノリで奇襲をかまされる……わぁ屈辱ぅ(笑) 精霊なんてガード出来ないじゃまいか、筒抜けどころか素通し…あぁなんてアワレな…(*´∀`)←この笑…
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