お兄様、転入準備をしてまいります 5
「──では、こちらのデザインで制作に取り掛からせていただきますね」
「よろしくお願いします」
採寸が終わったら、制服のデザインについての話し合い。色はライトブラウン。基本デザインは、ラインでお願いすることにした。チェックも良いなと思ったのだけど、生徒の暗黙のルールその2「制服のタイプは、1つに絞るべし」というものがあるそうで断念。
要するに、今日はチェックタイプ、明日はラインタイプ、という風に日替わり、あるいは週替わりでデザインのタイプを変えてはいけない、ということらしい。
「1番人気は、チェックタイプ。その次がラインタイプ、プラスホワイトと続いています。上下ともにノーマルを選ばれる方はほとんどいらっしゃいませんね」
チェックだ、ラインだと言ってはいても、ジャケットはノーマルに近かったり、スカートはノーマルだったりする人は多いらしい。基本のデザインだから、合わせやすいものね。
ふむ。なら、わたしもスカートはノーマルを1枚とラインを1枚、お願いしようかしら? アレンジすることを前提に、パーツを色々お願いすれば、おしゃれさんになれるかも。
特にこれからはどんどん暑くなってくるのだもの。ジャケットなんて着ていられないから、スカートにこだわるべきよね。
「今、お伺いした範囲だと、オーバースカートをはいても大丈夫よね?」
「ええ。問題ありません。過去のデザインをご覧になられますか?」
「お願いするわ」
そうか。すでにオーバースカートのアイディアはあったのか。それはそれで、楽しみだ。
スリーズのアシスタントが持って来てくれた過去のデザイン帳を見ながら、
「これは好き。これは今イチ」
「このデザインで、裾のあたりにラインを入れては?」
「ラインを斜めに入れたり、幅を太くしてみたり、するのはいかがですか?」
思いつくままに意見を口にしたら、アシスタントが素早く動いて、見本を持って来てくれたり、リボンをスカートに当てて、こんな感じになりますと見せてくれたり。
スカート以外にもブラウスの襟や袖口、袖の長さ。胸元の装飾はどうするのかとか、リボンを付けるのか、タイにするのか、スカーフはどうかとか。
隣の工房に行って、職人さんを呼んで来てくれて、帽子はどうする、靴はどうする……。
「ありがとうございましたー」
スリーズと彼女に雇われているアシスタントたちの声が見事に重なる。彼女たちのご機嫌な声に送り出されたわたしはというと……
「疲れた……」
あれこれ考えている間は、気持ちも高揚していて疲れなんて全然感じなかったけど、注文が確定したとたん、どーっと……。
「よくまあ、あんなに色々と思いつきましたねえ、ステラさん」
「あの、お嬢様がお話になられていたことって、真似をしても大丈夫ですか?」
「もちろん、構わないわよ。わたしが思いつくことは、他の誰かも思いついているか、思いつくことだと思うもの」
恐る恐る口を開いたレベッカに、わたしは笑いかける。
彼女が真似をしたいと言っていたのは、スカートにパーツを付け加えることで雰囲気を変えたいという、アイディアのことだ。
例えば、スカートと同じ布でカマーベルトを作る。他にも肩紐を足す、胸当てを足すなど。同じ布地でパーツを付け足せば、それだけで雰囲気を変えられるはずだ。
ペチコートやドロワースをはいても、雰囲気が変わりそう。前世のゴスロリファッションに近い雰囲気になるのかしら? 制服要素を足したような感じのものもあったし、違和感はなさそうだ。軍服っぽいテイストを足してみても……って、ダメダメ。
予算を考えずに、ドレスを作ってもらったことってなかったから、つい、欲が出てきて色々と考えちゃうわ。ちなみに、ドレスを作ってくれたのは、ホーネストの父ではなくて、ヴィンス兄様。お金の心配はしなくて良いと言ってくれていたのだけど、お金よりもカサンドラのイヤミが嫌だったから、デザインはシンプルなものを選んできた。
その他に、エル義姉様からお下がりをいただいたり、シール兄様やライオット様から送られて来た布地で、ドレスを自作したりもしたわね。予算の関係で、こちらもあまり凝ったデザインの物はできなかったけれど。
それはともかく──
「馬車がいませんね」
わたしたちが乗って来た馬車は、いったん、家に帰している。馬車が入り用になったら、法具を使って連絡を──と言われていた。レベッカがここまでの時間を計算して呼んでくれているはずなのだが、まだ来ていないようなのだ。
「おい、レベッカ」
我が家のメイドを呼ぶこの声は──
「ライオット様……」どうしてここに?




