お話しましょう、お義姉さま 4
誤字ラ発見報告、ありがとうございました。退治(修正)いたしました。
「さて、話は変わりますが、ステラさん宛にもう一通、手紙が届いています」
ジャジャ~ンという効果音が聞こえてきそうだわ。グロリアさんが見せてくれたのは、A4サイズくらいの封筒だった。お礼を言って受け取れば、なかなかの厚み。
差出人は……イツィンゲール女学院!
弾かれたように顔を上げて、グロリアさんを見れば、ニコニコと笑っている。
「だっ……大丈夫……かしら?」
この厚みだもの。大丈夫だと信じたい。でも──っ。
ドキドキしながら、フランシス様からの手紙を開封するのに使ったペーパーナイフを持ち、女学院から届いた封筒を開ける。ナイフをテーブルに置いて、中身を引っ張りだす。
「……っ! やった! やったわ! 合格! 合格よ!!」
膝の上に置いたままにしていた、刺繍途中のハンカチやら何やらが落ちてしまったが、そんなことはどうでも良いのだ。
椅子から立ち上がり、わたしは合格通知を高々と掲げ、くるくると回る。
「ステラさん、嬉しいのは分かりますが、落ち着いて」
これでは、お祝いも言えませんと、グロリアさんに笑われてしまった。
「だって、合格したのよ! シール兄様たちは大丈夫、合格するっておしゃって下さっていたけれど……やっぱり、通知を見るまでは安心できなかったんだもの」
くるくる回るのをやめて、グロリアさんを見れば「そうですね」と苦笑い。
「ですが、はしゃぎすぎですよ。せめて、膝の上の物をテーブルに乗せてからにして下さい」
「ごめんなさい。すぐに拾うわ」
合格通知を胸に抱え、わたしは床に落とした丸枠付きのハンカチと刺したままの針を拾い、テーブルに置いた。アンモナイトの刺繍はちょっとお休み。
「グロリアさん、わたし、シール兄様へ合格の報告をしてきますね!」
「はい、どうぞ」
わたしは、いそいそと部屋を出た。グロリアさんの前から離れたので、淑女はお休み。駆け足で廊下を進み、階段を上る。
シール兄様の執務室のドアをコンコンコンッと勢いよく連打する。「どうぞ」の「ど」が聞こえたと同時にドアを開け、
「シール兄様!」部屋に飛び込んだ。
「どうしたんだ、スー」
デスクで書類読んでいたらしいシール兄様は、わたしが勢いよく飛び込んできたので、驚いているようだ。ぎょっとした顔でわたしを見ている。そんな兄へ、
「合格です! シール兄様、イツィンゲール女学院に合格しました!」
わたしは心のままに抱き着いた。
「うぉっと……! はは、そうか、合格か。おめでとう、スー!」
「ありがとうございます」
わたしをしっかりと抱きとめてくれたシール兄様は、笑顔を浮かべると
「ライ、聞いての通りだ。側付きの決定を急いでもらえるだろうか」
「え?」
兄様の視線の先をたどれば……
「ラ、ライオット様?! いらっしゃったのですかっ!?」
体をくの字のように折り曲げて、ライオット様が笑いをこらえていらっしゃる……。ちょ、いやだ、恥ずかしッ……!
「ステラは、変わんねえなぁ。学院から帰って来たシールを出迎える時と同じじゃねえか」
「ちょ……! ヤ、い、嫌ですわ、そんな昔の話、持ち出さないで下さいッ」
5歳か6歳の頃の話ではないですかっ。恥ずかしさで、顔が熱いわ。もっと上手にあしらえたなら良かったのに、恥ずかしさで脳みそが一気にゆだってしまっている。
「小さかったスーもかわいいけど、今のスーもかわいいだろう?」
「そうだな。ほれ、こっち来い。高い高いって、持ち上げてやるぞ」
好きだっただろ? と笑いながら、ライオット様は両手を広げ、おいでのポーズ。
「もうっ! からかわないで下さいっ」
好きでしたけども!
「さすがに、デビュー間近のレディーに高い高いはないだろ……」
「そりゃそうか。残念だな」
シール兄様は呆れ半分で笑い、ライオット様は悪びれた様子もなく、肩をすくめる。わたし、拗ねても良いかしら?
「スーゥ、唇を尖らせて拗ねてみても、かわいいだけだから」
「む」
兄様に尖らせた唇を摘ままれ、わたしは言葉を詰まらせた。だって、感情がそのまま顔に出ているなんて、思いもしなかったもの。レディーとして、あるまじき失態! 恥ずかしい。




