表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/130

お久しぶりです、お兄様 2

 館の前で兄夫婦と出会ったこともあり、シール兄様の館へはスムーズに入ることができた。館の中が博物館みたいになっていて、ちょっと驚いた。エル義姉様も、

「変わった趣味ねぇ。こちらの絵は素敵だけど、この石の置物はちょっと…………」

 三葉虫の化石っぽいですね。その隣はアンモナイトかしら? 義姉様が素敵だと言ったのは、ポピーのボタニカルアートだ。わたしは、この大きな観葉植物も素敵だと思う。



 壁にはボタニカルアートの他に蝶やトンボの標本が飾られていた。コレクションボードには、化石や鉱石標本、それから動物の牙っぽいものなどが、並べられている。

 それら、シール兄様のコレクション(?)を物珍し気に眺めながら階段を上り、次兄のいるキャビネへ案内された。

「少しここで待っていてくれるかい?」

「もちろんですわ、ヴィンス兄様」

 正式に訪問する予定だった長兄夫婦と違って、わたしはイレギュラーだもの。来ていることをシール兄様に報告して、会って下さるという返事をいただいてからでないと、お会いできない。



 2人が先にキャビネに入り、待つことしばし。すぐにドアが開き、部屋の中へ招き入れられた。

「ご無沙汰しております。シール兄様」

「驚いた。本当にスーだ。ヴィンス兄さんと一緒に来るなんて、聞いてなかったんだけど?」

「いえ……実は、館の前で偶然……」

 言葉尻をごまかして伝える。少し気不味くて、つい、人差し指同士を胸の前でつんつんとつつき合わせてしまう。目も泳いじゃうわ。シール兄様は少しだけ呆れたように笑い、

「偶然って……まあ、いいか。話が早くて助かる」



 キャビネには、次兄の他に2人、先客がいた。

 1人は、わたしも知っている方だ。シール兄様の御友人、ライオット・エルファイン・バッハ様。獅子の獣人で、とっても逞しい御身体をなさった美丈夫だ。右目は健在ながら、その目の上に十字傷の痕があり、真顔でいらっしゃるとちょっと怖そうな雰囲気がある方だ。

 お久しぶりですと挨拶をすれば、ライオット様も笑顔で挨拶をして下さる。この方、笑うと雰囲気がガラッと変わって、人懐こそうなやんちゃな感じになるのよね。



 そして、もう1人。この方は、わたしの知らない方だ。先ほど、キャビネのドアを開けて下さったのもこの方なのだけれど……使用人らしくないのである。

 お召しになっているのは、ミントグリーンの男性用チャイナ服。プラチナブロンドの髪は、緩めの三つ編みにして垂らしていらっしゃる。はっきり言おう。性別不明の美人さんだ。傾国って、こういう人のことを言うのかも知れない。



「紹介するよ。彼女は、グロリア・リリー・マレフィセント。公私ともになくてはならない、僕の大切なパートナーだ」

「お初にお目にかかります、ステラ様。グロリアと申します」

 ま、まあ。女性だったのね。それにしても──

「シール兄様、いつご結婚なさったのです? 公私ともになくてはならないとおっしゃるのですから、生涯を共になさる方だと考えて良いのですよね?」

「もちろんだ。ただ、ロアとはまだ正式に結婚はしていなくてね」

 グロリアさんを知っているのは、ヴィンス兄様とエル義姉様、それにわたしだけ。お父様たちやおばあ様には、まだ会わせていないのだそうだ。



「会わせて反対されても、ロアと別れるつもりはないから」

 さらっと言ってのけるシール兄様。グロリアさんは「旦那様……!」って、感動で目を潤ませた。勝手にやってろ、と呆れ顔なのはライオット様で、長兄夫婦は「あらあら、ごちそうさま」っていう感じだった。

 グロリアさんは、この国の出身じゃないし、身分は平民。だから、反対されるかも知れないことは、シール兄様も分かっているそうだ。それでも、妻にするのは彼女が良いと。



「良いわねぇ、素敵だわぁ。2人の出会いは、さぞかしロマンチックだったのでしょうね」

 うっとりとした表情でエル義姉様は言うけれど、グロリアさんは

「いえ……出会いは最悪でした。でも……いつの間にか…………」

 何でこんなことになったんだろうとでも言いたげなため息をつく。シール兄様とどんな風に出会ったのか、とても気になる。ぜひとも聞かせて頂きたいわと身を乗り出すものの、

「惚気なんて聞きたかねえから、さっさと話を進めようぜぇ」

 いきなり脱線させるなと、ライオット様からクレームが入ってしまった。残念。



 ソファーに座るよう促されたので、そちらにすわっ……何て座り心地なの! これ、ふっかふかよ。お尻が沈んじゃうわっ! 驚きが顔に出ていたのか、

「いいソファーだろう?」

 シール兄様に笑われてしまった。ヴィンス兄様とエル義姉様は、ソファーの座り心地に感心し、ライオット様は「いいよなあ、これ」と独り言。グロリアさんは、ノックの音を聞きつけて、メイドからティーセットと軽食が乗ったお盆を受け取っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ