期待が高まりますわ、お兄様 2
「ふわぁぁぁぁぁ……!」
もっふもふ。もっふもふパラダイスですわよ、皆さん! 今、この空間は、幸せの小花が飛び交い、吹雪のようになっているに違いないわ。
天国は、ここにあったのね! わたしは、今、感動に、打ち震えているわっっ!
「シアワセ……」
エル義姉様もわたしと同じ気持ちみたい。はわわわって、なっているもの。
「これは、癖になりそうだな」
ヴィンス兄様は、猫饅頭ことトールシァールを撫でまわしていた。
「ですよね! 癖になりますよね、これはっっ!!」
もっふもふ具合もさることながら、この適度な重みと温もり。もう、ずっと抱っこしていたい。それだけじゃないわ。このトールシァールは、足がとても短いの。だから、歩くたびにお尻がぷりぷり揺れるのよ。あぁ、愛らしい。いつまででも、愛でていられる……。
エル義姉様は、ルチルタミアがお気に入りのよう。
「はぁ……小っちゃい。かわいい」
上に向けた両手のひらにルチルタミアを乗せて、至近距離で愛でていらっしゃる。
シール兄様たちは、グラスラビットを構っているよう……というか、何か記録を取っているみたいだわ。
ライオット様が、ウサギを捕獲。シール兄様が、捕獲したウサギに、アイロンのような法具をかざす。ピッと音がしたら、番号を読み上げる。それをグロリアさんが、ノートのような物に書き付けていく。
「シール兄様たちは、何をなさっておいでなのです?」
「繁殖調査。順調に増えているみたいだ」
ウサギの耳にマイクロチップのような法具をつけていて、それを読み取り、記録していくのだそうだ。マイクロチップ法具のない個体がいたら、それはこの保護区で生まれた個体。ここで、グラスラビットたちが繁殖をしていることが確認できる、ということらしい。
「もっふり具合を堪能するのも良いですが、どの魔物と契約を望むのか、しっかり考えていて下さいよ? 契約できるのは、お1人1匹ですからね?」
アイロンそっくりの法具をウサギにかざしながら、シール兄様が言う。ちなみに、特別な餌は必要ないとのこと。グラスラビットは草を食べるし、ルチルタミアは木の実や虫を食べ、トールシァールは、お肉やお魚、時々草を食べるそうだ。動物のウサギ、リス、ネコと食べる物は変わりないらしい。
「まあ、そうなの? てっきり、変わった物も食べるのかと……」
「進化させたいと考えていらっしゃるのなら話は別ですが、そうでないのなら、与える食事は普通の物で何の問題もありませんよ」
シール兄様が問題視しているのは、契約を結ばずに飼育すれば、いつ魔物が暴れ出してもおかしくはない、ということだけ。
「Fランクが暴れたところで、被害はたかが知れているでしょうが、その中に幼い子供が含まれる可能性があることを思えば、堅実路線を貫いて契約をしておく方が良いでしょう」
「君の言う通りだな、ライ。では──どの魔物が良いんだい?」
エルと名前を呼ばれた義姉様は、そうねえと考え込み、
「私としては、このルチルタミアが良いと思うのだけど……契約しているからって、放し飼いにして良い大きさではないように思うのです」
「ルチルタミアを飼われるのであれば、基本はゲージで飼う方が良いでしょう。1日に1~2時間ほど、ゲージから出して運動させてあげれば十分かと──」
「そう……でもね、今のこの子たちが生活している場所を思うと、窮屈な思いをさせてしまうことになりますでしょう? でしたらヴィンセント様がお気に召した、そちらのトールシァールという魔物の方が良いように思いますの。この子なら、お庭で遊ばせていても、どこに行ったか分からない、ということにはならないでしょう」
存在感がありますからね。
「庭で遊ばせられるというのなら、グラスラビットでも良いのではないか?」
「うっ……! あえて見ないようにしておりましたのに……っ……」
悩みを増やさないで下さいと言いたげなエル義姉様。ヴィンス兄様を咎めるように睨んでいる。そんな義姉の横に、気配もなくそっと移動するライオット様。
彼に気付いたらしい、ルチルタミアが義姉様の手の上から、ライオット様の手へ移動し、腕から肩の方へちょろちょろと上っていく。かわいい! とほっこりしていたら、
「どうぞ、エイプリル様」
エル義姉様の手の上へ、ライオット様が捕獲していたグラスラビットを乗せた。
「ぃやぁん。なぁに、この子ったら、ふっかふか……!」
エル義姉様の目が蕩けきり、グラスラビットにほおずりを始めた。ヴィンス兄様も興味津々な様子で近づいて来て「これは確かに……! 猫たちとは違う感触……っ」
ウサギちゃんを撫でまくっていた。これは、ペット決定まで時間がかかりそうな予感。




