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ついていくのも大変ですのよ、お兄様

 兄が言うには、この法術は座標の指定や法術の固定がとても複雑なため、挫折してはこねくり回し、また挫折する、というようなことを繰り返していたそうだ。

「そんな時にたまたま、転移法陣の研究をしている魔族と知り合いになれてね。これは、共同研究の結果なんです。安全には十分配慮していますが、未知の部分も多くて──」

 実験も兼ねて、設置しているのだそうだ。



「……言いたい事はあるはずなんだが……なんだろうな、うまく言葉にすることができない。こんなことがあるなんて……」

 額に手を当てて、ヴィンス兄様がため息をついた。分かります。わたしも、言葉にならないモヤモヤがありますもの。そのせいで、指がわきわき、わなわな。

「後でストレスを発散させましょう。ストレス解消法は、いくらでもありますから」

 任せて下さい(キリッ)という、グロリアさんはとても格好良かった。



 そこへ、背後から失礼します、という声がかかる。

 振り向けば、頭の上に黒みがかった灰色の垂れ耳をのっけた、20代半ばくらいのメイドがいた。多分、犬の獣人なんだと思う。その後ろに、もう1人。金茶髪のメイドはわたしと同じくらいの年齢のようだ。

「お茶をお持ちいたしました。それと、リーブス男爵夫人とお嬢様は、お帽子が必要かと思い、持参いたしました」

 年若い方のメイドが、どうぞと差し出してくれた帽子は、つばの広いシンプルなデザインの物だった。日差しが強いし、木陰もなさそうだから、帽子はとてもありがたい。

 お礼を言って帽子を受け取り、早速被る。



「あちらのデッキに参りましょうか」

 シール兄様が指さしたのは、わたしたちの背後。目の前の光景に目を奪われていたけれど、後ろにはロッジ風の建物があった。この建物の2階にお茶をいただけるスペースを設けてあるのだそうだ。

「この建物は?」

「この牧場の事務所兼管理人一家の住居です」

 デッキに繋がっている階段を上りながら、ヴィンス兄様の質問にシール兄様が答える。

 経営が悪化して閉鎖寸前だった、このアルモ牧場をシール兄様が買収してご自身の商会に吸収したのだそうだ。

「買収して採算は取れるのか?」

「問題なく。事務に人を投入するだけで、問題はほぼ解決しました。ここのチーズはうまいんです。ベーコンやパストラミなどの加工肉も美味いので、是非持って帰って下さい」

 デッキには、シンプルなデザインのテーブルがいくつも並べられていた。茶褐色のテーブルは、長方形で同じ色の椅子も行儀よく並んでいる。



 グロリアさんにこっそりたずねて確認した所、ティーセットを持っている垂れ耳のメイドは、犬の獣人で名前をレベッカというのだそうだ。もう1人のメイドは、ターニャというらしい。こちらは、人間の娘さん。

 レベッカがセッティングしてくれたテーブルに着き、まずはお茶をいただく。添えられたスコーンも、ほんのり甘くておいしい。

「青空の下で頂くお茶は美味しいですわね、ヴィンス様」

「ああ。景色も良いし、街の空気と違って呼吸するたびに胸が洗われるようだ」

 まるでピクニックに来たみたいだわ。幸せな気分に浸っていると、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。のどかな雰囲気を壊す足音に、ついつい眉をしかめてしまう。



 むっとしながら、音の方向へ視線をやると、つなぎの作業着を着た朴訥な雰囲気の男性が慌てた様子でこちらにかけて来るのが見えた。年の頃なら50代くらいだろうか。

「そんなに慌てなくて良かったんだが……」

「旦那たちだけなら、勝手知ったる何とやら、だ。どうぞお好きになさってくださいってなもんですが、お客様もご一緒とあれば、そうもいかんでしょう」

 席を立ったシール兄様は、作業着姿の男性の近くに行って話しかけていた。もしかしなくても、この牧場の関係者なんでしょうね。少しだけ話し込んだ後、男性はわたしたちに会釈だけして、デッキから去って行った。



「今の彼は牧場の責任者か何かかい?」

「先代の牧場主で食品部門の責任者です。チーズやベーコンを気に入ってもらえて、定期的に仕入れてもらえるのなら、後でご紹介しますよ」

 メイドのターニャが、わたしとエル義姉様に帽子を渡してくれた後に彼を呼びに行ってくれたらしい。ただ、今回は初めて来た人間が3人もいるので、顔を見に来たらしいのだ。



「従業員に聞かれた時に説明できないようでは、困るでしょうから──」

 確かに。グロリアさんの言う通りかも。

 ここ、アルモ牧場ではさきほどの男性が責任者をつとめる食品部門とは別に、彼の息子さんが責任者として働く、魔物部門なるものがあるらしい。この魔物部門は、シール兄様の研究の手伝いを兼ねながら、ナドゥールの街の魔物需要にも応えているのだそうだ。

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