女学院生になりましたわ。お兄様 3
わたしだって、フランク様の立場だったらそうするわ。下手に動けば、家の存続にまで関わってくるでしょうし……。未成年の第三王子でも、発言権は侮れないし、そこに隣国の公爵家や侯爵家、伯爵家も加わっているのよ。裏で動くにしても、慎重にならざるを得ないわ。
「そういうこともあって、彼は加害者リストから外れているのです。それでも、真面目な方ですから、謝罪のお手紙もいただきましたし、舞踏会でも謝罪をしていただきました」
「まあ……そうでしたか……」
「ええ。ですが、以前からもたびたび謝っていただいておりますし、こう……何度も謝られては……いい加減、鬱陶しいと申しますか……うんざりしてきますでしょう?」
頬に手を当て、ため息をつく。ヒューズ伯爵令嬢も「まあ……そうかもしれませんね」とあいまいにうなずく。
「なので、舞踏会では謝るのはこれきりにしてくださいと言ったのです。今は幸せだから、過去よりも未来を見ていたいのです、とはっきり、きっぱり言ってやりましたわ」
「素敵! それで? 彼の反応は?」
「変わりましたねって、笑って下さいましたよ。それで、友人になりませんか? と提案しました。いじめの件がありますから、男女の仲にはなれませんけれど、同士ですもの。彼も快く承知してくださり、フランクと愛称で呼ぶことを許していただきました」
「う……うらやまし……あ、いっいえ、なんでもありませんわ……」
おほほと笑ってごまかしましたけど、ヒューズ伯爵令嬢? ばっちり、聞こえましたよ。かわいいんだから、もうッ。
「ですので、わたしのことはお気になさらないでください」
「ええ。ありがとう。それで……そのぅ……」
「フランク様は、セールヴィを出て、馬の専門学校へ通われるそうです。内緒ですからね?」
「えぇっ!? ということは、もう……社交界にはお出でになられないのですか?」
「はっきりと聞いた訳ではありませんので、そこは何とも……。機会があれば、お伺いしてみます。お好きなものは、ご存知の通り馬ですね。それから、読書家でもいらっしゃいます。後、お茶にはかなりのこだわりが…………」
ヒューズ伯爵令嬢も馬術の講義を受けるくらいだから、フランク様と馬や馬術競技の話はできるでしょう。問題は読書とお茶だ。知ったかぶりすれば、恥をかくに決まっている。
「読書とお茶……」
「セールヴィで書評を寄稿していらしたから、その時に取り上げられていた本をお教えしますね。それから、お茶に関してですが……非常にハードルが高いと思ってください」
なんせ相手は神の手を持つ男。太刀打ちできる人がいるとは思えない。
「そ、そんなに……?」
「えぇ。美味しいお茶を振る舞おうとするのではなくて、この茶葉が美味しかったので、あなたも飲んでみてください、というスタンスがいいかと」
「なるほど……。馬と読書とお茶ですね……。家の事情もあるし、今の私の気持ちがこれからどうなるかも分からないけれど、学ぶことはプラスになるはずだから、がんば……っ……!」
ドドォ~ンッッ!
ヒューズ伯爵令嬢の言葉を途中で遮った、爆発音と地面の揺れ。これ、さっきと同じ……。
「マレーネ様にも困ったものね……」
「あの爆発、マレーネ様が?」
モクモクとあがる煙を指さし、わたしがたずねれば、
「えぇ、そうよ。あの方、攻撃系法術の講義を受けていらっしゃるのだけど…………」
最後まで言わずに、ヒューズ伯爵令嬢は肩をすくめて見せる。悪口と受け取られるかもしれないので、言葉を濁したに違いない。
「ダンジェ伯爵令嬢は、法術をお使いに?」
「いいえ。法術理論は勉強しましたが、教養レベルどまりで……。実践の方は才能がないから受けるだけムダだと言われて、受けさせてもらえませんでした」
法術って、才能に左右されるらしく、誰でも使える便利な技術ではないのよねえ。だからこそ、誰でも使えるようにって法具が発展したのだろうけども。
「まあ……。セールヴィは頭がかたいのね。勉強もさせてもらえないなんて……」
「──講師の質が良くないのだと思います。当たりはずれが大きいのですよ」
その昔、セールヴィは様々なジャンルの大会や競技会で優秀な成績を残していたそうだ。剣術や弓術、法術の大会。チェスや演劇、吹奏楽のコンクールなど。玄関ホールには、様々な優勝トロフィーや記念の表彰楯がずらりと並んでいる。ところが、だ。
「馬術関係で優勝したとか、入賞したという話はよく聞いていたのですが……」
それ以外となると、大会やコンクールに参加した、という話もあまり聞かなかったような……。あんなスキャンダルが起きるような経営をしていたのだ。講師の質だって推して知るべし。どちらが先かは分からないけれど……あれは、起きるべくして起きたスキャンダルだったのだと思うわ。