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あたしはお姫様だったのに 2 (ウルリカ視点・三人称)

「ちょっと、何よ、その目は……っ」

「何よって……あなた、信じられない。誰のせいで学院がこんなことになっていると思っているのよ?」

 ウルリカは、いきなり腕をつかまれて強引に振り向かせられたことに、憤りを感じていた。ましてその相手が、ホーネスト伯爵令嬢ともなればなおさらだ。この女とは、二度と関わりあいたくなかったからである。

 ある理由があって、仕方なく彼女の取り巻きをしていたが……ストレスがすごかった。体調は不安定で、ただでさえ白い顔色がますます白くなって、まるでアンデッドのようだと両親には心配をかけることになってしまった。

 この女と距離を置くようになると、体調は一気に回復の兆しを見せ始めたのだから、身体というものは正直なようである。



 それはそれとして、ウルリカは目の前の伯爵令嬢のセリフが、信じられなかった。え? 私、しばらく耳掃除をしていなかったかしら? あれ? と、現実逃避をしかけたくらい。

 だから、学院のこの暗い雰囲気を作ったのは誰だと思っているのだと──自宅で謹慎することなく、普通に登校してきている神経も信じられないのだが──ストレートに言ってやったわけだが、この女はきょとんとした顔で、

「誰のせいって、学院の偉い人のせいに決まってるでしょ。卒業した平民を脅して、便宜をはかるように強要してきたって、新聞に載っていたじゃない。それも、ずいぶんと昔から」

 目まいがした。彼女の顔を見る限り、本当にそう思っているようだ。



「そうだけど……そうじゃないわよ。生徒が舞踏会への参加を自粛せざるを得なくなったのは、あなたが原因じゃない。聞かれもしないのに、一人でベラベラと舞踏会に行くなんて言いふらしていると思っていたけれど、まさか本当に行くなんて! あなた、恥という言葉を知らないの? よく、ご両親が許したわね」

「なっ……な、ななな……っ! だっ男爵令嬢ごときが誰に向かって口をきいてるのよ!?」

 出た。すぐこれだ。自分が不利になったと思ったり、反論の言葉が出てこなかったりすると、身分差を出してマウントを取り返そうとしてくるのである。底の浅いことだ。



 少し前なら、この女のこれは魔法の言葉だった。

 彼女の後ろには、リチャード殿下とその側近候補たちがついていたからである。彼らに気に入られたい貴族や庶民の生徒たちも。権力と数、二重の圧力がウルリカのような弱者を抑え込んでいたわけだが……今はそれもない。

 ウルリカは鼻で笑うと、

「ホーネスト伯爵令嬢に、ですよ。今、あなたが何を言おうと、誰も聞く耳なんて持っていませんからね。私が生意気だなんだと訴えたところで、誰も相手にしてくれやしませんよ。それどころか、あなた自身の評判がさがるだけ……といっても、これ以上さがりようがないくらい、さがっちゃっているわけですが……」



 この女に気に入られたいがために、多くの生徒がこの女の姉、ステラ=フロル・エデアを間接的、あるいは直接いじめた。もちろん、当時は自分たちの行いが正しいと信じてのことだったわけだが、今はみな激しく後悔している。

「な、なんっで⁉」

「なんで? なんでって、言うんですか?! あなたが、ダンジェ伯爵令嬢にいじめられているなんて、うそをついたからじゃないですか! それを真に受けた、正義感あふれる人たちが彼女を本当にいじめたものだから、それが家を巻き込んだ、大きな問題になっているんじゃない! 知らないとは言わせないわよ」



「う、うそなんてついていないわ! あたし、本当にいじめられてたんだから──!」

「単なる被害妄想でしょう? 髪はサラサラ。派手で品のないバラの髪飾りをこれ見よがしにくっつけて。しっかりプレスされた制服にピカピカの靴。鞄だって、きちんと手入れされていたわ。伯爵令嬢でしかないのに、メイドを二人も引き連れて歩いて……どこがいじめられているのよ」

 この女が嘘つきなのは知っている。ダンジェ伯爵とは書類上、兄と妹になるのだろう。けれど、彼の行動とこの女が聞かれもしないのにベラベラとしゃべった経歴をたどれば、接点などないに等しいことくらいすぐに分かる。二歳の頃のことを覚えている人間が、どれくらいいると言うのだ。



「そっ、そんなこと言っていいわけ? あのこと、バラすわよ?」

 グッと奥歯を噛みしめ、悔しそうな顔でホーネスト伯爵令嬢は切り札を切ってくるが、お生憎様。それはもう、切り札にはならない。何の役にも立たない札である。

「どうぞ? バラされる覚悟はできているわ。それに、ダメージを軽減することもできる。私は泣きながら訴えるわよ。あなたに脅されて仕方なく……って……」

 目じりの涙をぬぐうふりをしながら、ウルリカは笑う。

 この女は本当に伯爵令嬢としての教育を受けたのだろうか? と。学院の成績は決して悪くはなかったはずなのに、どうしてこうも頭が悪いのだろうか。切り札は、いつまでも切り札として使えるとは限らないと、なぜ分からないのか……。

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[一言] Q.ナゼ解らないのか?! A.振ればカラカラ音がしそうな頭の中は補食者的なお花しか咲いてないからです ウルリカ嬢ちゃんの心中『嘘やん?マジかコイツ…マジなんか…』て感じですかねぇ?……マ…
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