驚きの連続ですね、お兄様 3
「ということは、誰かがスーのメダルを偽造したということもなさそうですわね」
ぽむっと手を打ち、エル義姉様が微笑む。
「そんな顔をしないでちょうだい。大丈夫よ。アミュレットってね、貸し借りしたり、見せびらかしたりするような物じゃないの。由来についても、話したりはしないわ」
「そうなんですか? 俺たちの間じゃ、アミュレット自慢は、しょっちゅうなんですが……」
驚きの声を上げたのはライオット様だ。傭兵は、お酒の席で、装備やアミュレットについて、自慢し合うのが常だという。
「それは、何を自慢に思うかの違いでしょう。貴方がた傭兵はアミュレットを手に入れるまでの冒険譚やアミュレットに決めたエピソードを話したいのですよ。言い換えれば、自分はこれだけ凄いことを経験してきたんだという自慢です」
何を言ってるんだと、呆れた様子でグロリアさんがライオット様を見る。
「紳士淑女はというと、商会や教会でアミュレットを購入するんです。どこのダンジョンで出た物を、どこで買ったか、あるいは誰の作を買ったのかが重要であって、アミュレットの素材などについては──それほど興味をお持ちではありませんよ」
わたしがヴィンス兄様から頂いたメダルのアミュレットも、傭兵さんたちの間では「スゲエな、それ!」という評価になるだろうけども、貴族の間では「まあ、そうなんですの」程度の評価だろう、ということである。
「見せてもらうよ? スー」
「は、はい。どうぞ」
わざわざ手袋を白い物にかえてから、シール兄様が机の上のメダルを手に取った。
「これは、北のフェブルという魔族の国で200年くらい前に使っていた通貨だね。だから、メダルではなくて、コインというのが正しい。デザインされているのは、豊穣の女神アルティシアの横顔だよ。これは状態が悪すぎるけど、状態の良い物なら、最低でも金貨50枚くらいの値段はつくはずだ」
ごじゅっ!? それって結構なお宝なのでは?
「まあっ! そんなに価値がありますの!?」
「状態が良ければ、の話ですよ。フェブルは遠いので、こちらに流れて来る物はとても少ないですから。僕としては、9代様がこのコインをどんな経緯で手に入れたのか。そちらの方に浪漫を感じます」
小さく飛び上がったエル義姉様へ、シール兄様が笑いかける。ライオット様も、キラキラとした子供のような目でメダル──じゃなかった、コインを眺め
「魔族は、俺らよりも移動範囲が広いし、寿命も長いから、200年前って言っても、あいつらの感覚からすりゃあ、ちょっと前ってことになるだろうな」
「傭兵時代に買った……では、浪漫がないな。誰かから貰った、あるいはダンジョンで見つけた──想像が広がるね」
男3人は、9代様の隠れた歴史浪漫に思いをはせているようだ。
一方、わたしたち女3人は、「殿方って、浪漫という言葉が好きよねえ」と少し呆れ顔。
「かわいらしく思うところでもありますが……」
ふふっと笑うのは、グロリアさんだ。
「はいはい。歴史浪漫に浸るのはそれくらいにしていただいてよろしいかしら? スーの問題は解決の方向性が決まりましたから、次の相談に移らせて下さいな」
パンパンと手を打ち、エル義姉様が笑う。
「次の相談? まだ、何か問題が?」
「問題ではありませんわ。ただ、シルベスター様にアドバイス頂きたいことがありますの」
軽く眉を持ち上げたシール兄様へ、エル義姉様はにこにこと笑顔を向ける。シール兄様は、不思議そうにされながら、わたしにコインのアミュレットを返してくれた。
「僕に、アドバイス? 何でしょう?」
「来年あたりから、魔物をペットにして可愛がることが流行り出しそうな予感なのです。聞けば、魔族の方々は、魔物をペットにしていらっしゃる方も多いのですってね? シュナルフォでは、既に小さな流行となっているそうですわ。と言うことは、今年、来年あたりには我が国にも伝わり、我が国でも流行するでしょう」
流行り物って、大体、北の方から伝わって来るんですよね。我が国へは、シュナルフォ経由で、流行が伝わって来るケースが多いらしいわ。シュナルフォで流行れば、我が国でも流行る。最近は、我が国からも流行の発信を! という人も増えているらしいけれど、現状はまだまだ、といったところ。
「でも、魔物と一口に言っても、色んな種類がいるのでしょう? 危険な種類も多いと聞きますわ。ですからね、シルベスター様にご教授いただきたいの」
お母様やお姉様の分まで、しっかりと私がお勉強したいと思います。
エル義姉様は、とても張りきっていらっしゃるご様子。むんっと気合も入っている。
「魔族の普通と我々の普通を一緒にしないで下さい。犬猫を飼うのとは訳が違いますよ」
国へ早急に対応を願い出なくては、とシール兄様。魔物を飼うのは大変なようです。