お茶会の報告をいたしますわね、お兄様 2
「お子ちゃま令嬢のことはおいといて、報告とお話があります。さっきの魔族の血を引いている話と関係があるかも知れないから、モーリス、もう少し付き合ってほしいの」
後半部分は、入り口近くに控えているモーリスに向けたものだ。彼は、
「かしこまりました」
「ありがとう。まず、ランデル商会が法具の取り扱いを始めるかもしれない、という話です。これは、法具を扱うのではなくて、アクセサリーの法具を扱う、ということだそうです」
「あぁ、なるほど。そういうことでしたか。基準カテゴリはアクセサリーなのですね。そういうことなら、それほど警戒しなくても問題ないでしょうね」
「あくまで、ミス・ランデルが話してくださった範囲での予想になりますが、アクセサリー法具の取り扱いは、今後、増えていくかもしれない、といった雰囲気でしたよ。まずは一点、ネックス子爵令嬢の法具を取り扱うみたいです」
「ネックス子爵令嬢? 彼女、どんな法具を考案したんだい?」
ギルドに、レシピを登録しに来ていたことは知っているものの、どんなレシピを登録しに来たのかは聞いていないから知らないんだ、とシール兄様。場所が場所ですし、聞かれても答えられないことですものねえ。当然でしょう。
「スライムジェルを使ったアクセサリーだそうです。こちらを使えば、生花でも瑞々しい状態が、一週間くらい保てるとか……。ただ、似たようなレシピをシール兄様が登録されているので、レシピの登録申請が通らないかもしれないと、気にしておいででしたね」
研究費用をランデル商会が出していたらしい、ということも付け加える。
「スライムジェル? なるほど。育てる必要がないのなら、スライムジェルで十分だ」
シール兄様はうなずき「僕のレシピとは全然違うから心配ない。通ると思うよ」
「旦那様が考案した法具は、土を使わずに植物を育てるための物ですから──」
なるほど。ウォールグリーンを作りたかったのではなくて、水耕栽培をしたかったのね。ということは、私の知らないどこかで育てているのかしら? ……育てていそうだわ。
「それにしても、売れるのかい? その法具」
「売れると思いますよ。どれくらいの大きさでどれくらいの値段になるのかは分かりませんが、新しいアクセサリーを買わなくても、手持ちのリボンや庭の花でいくらでも新しい物が作れますから。たぶん、ピアレスハートで特集を組むと思います」
リボン以外にもレースやビーズ、革紐、チャームなどを組み合わせれば、いろいろと楽しめるだろう。アクセサリーを買うよりも、リボンやビーズを買う方が安く済むし。
「なるほど。それもそうか……。発売されたなら、買うかい? スー」
「そうですね。流行ると思うので、ぜひ……!」
と答えたところで、ドアをノックする音が。
この部屋の主はシール兄様なので、返事をするのはシール兄様の役目なのだけど……
「失礼します! お茶をお持ちしましたぁっ」
返事をするより前にドアが開いて、ワンダが入室してきた。ア、アウトォォ~……!
ワンダはドアも閉めずに、ティートローリーを押して、ずかずかと部屋の中へ入って来る。部屋の外では、リーロとロータスが、信じられない、嘘だと言ってくれ! というような顔でかたまっていた。心境はわたしも似たようなもの。
ワンダは自分がどう思われているのか全く気にならない様子で、トローリーをわたしが座るソファーの真横に止めた。ティ―ポットに手を伸ばし、お茶の準備をしてくれるけど、
「……ワンダ」
「はいっ」
シール兄様に名前を呼ばれ、彼女は嬉しそうに返事をする。一方、兄様は無表情に近い。
「退室していい。リーロ、君がお茶を淹れてくれ」
「は? え?」
退室を命じられたワンダは、信じられないという顔で固まっている。シール兄様は、もう一度「ワンダ、退室を──」すっと指を動かし、部屋から出て行くように促した。
今にも「ハウス!」って言いそう……。
リーロはワンダの横顔を見て、小さくため息をつき、彼女からティーポットをそっと取り上げた。その上で「ワンダ」と年下の同僚の名を口にする。
「ロータス、君も入室を──」
「は、はい」
ロータスは部屋に入ると、ワンダに「おい」とささやくように声をかけた。部屋を出るように言われたのだから、早く出ろと彼女を促す。
「え? ちょ、ちょっ……どういうことですか!?」
「何が? 僕は、君をこの場に残すことはできないと判断した。だから、退室を命じた。今の君の行動は、田舎から出てきたばかりの娘でもしないと思うが? そう思わないか?」
シール兄様は、冷たい、突き放したような語調で話し、ワンダを見る。彼女は顔色を青くし、小刻みに震えているが、返事はしなかった。しばらく無言の時間が続いた後、シール兄様が「ワンダ、退室しなさい」と命令を出したので、彼女はそれに従い、部屋を出て行った。