お茶会デビュー、無事に終えられましたよ、お兄様 2
「でも、今日のお茶会のことも場合によってはそんな感じになりかねないわよね?」
「なるでしょうね。ディルワース公爵令嬢がどこまで寛大かによるかと思います」
公爵家令嬢のお茶会で、よくもまぁ、あそこまで自由に振る舞えたわねと目を丸くするばかりだ。結果として、失敗ではなかったけれど、成功とも言いづらいお茶会だったものねえ。
お茶会に招かれたなら、お茶会に招き返すのがルールだから、近いうちにわたしもお茶会を開いてマレーネ様を招待しなくては。
屋敷に帰り着き、馬車からおりると「は~あ……っ」と大きなため息がこぼれた。外からは見えない位置だから大丈夫だと判断し、大きく伸びをする。
「お嬢さん……」
ロータスの口から呆れ声が聞こえたが「お茶会は肩がこって」と言い訳にならない言い訳をする。御者をしてくれたギュールズに礼を言い、馬車が遠ざかるのを少し見送ってから、リーロとロータスを連れて、屋敷に入った。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、モーリス」
玄関で出迎えてくれたのは、モーリスだった。シール兄様もグロリアさんもキャビネにいて、仕事をしているところだそうだ。
「ありがとう。着替えたらお顔を見に行こうと思うけれど、大丈夫かしら?」
「では、確認してまいります。ロータス」
「あ、はい」
目線で一緒に来いと促されたロータスは、わたしに一礼をしてから、モーリスの後を追いかけて行った。ふたりが見えなくなってから、
「わ! お嬢様、帰ってたんですね」
ワンダが姿を見せた。
レベッカやターニャが言うのならともかく、わたし付きのメイドであるワンダが「帰ってた」はないんじゃない? と内心で首をかしげれば、
「ワンダ、言葉遣い。それにお嬢様付きのメイドなのに、なんで出迎えに遅れるの。モーリスはちゃんと出迎えに出て来ていたわよ」
リーロが叱る。「はぁい」と返事はしたものの、唇を尖らせて不満そう。リーロは「ワンダ!」と強い語調で彼女を叱責する。彼女は不貞腐れた顔のまま。返事はなし。
「はあ…………着替えるわ、リーロ。ワンダはお茶をお願い」
「え?」
なんで? と全身で訴えてくるワンダ。わたしは、その反応になんで? と思う。
「なに? 何か用を頼まれているの?」
「え、いやぁ……別に、そういうわけでは……」
「そう。じゃあ、お願いね」
彼女が不満そうにしていることには気づいていたけれど、気づかないふりをした。だって、わたしの身の回りの世話をするのが彼女の仕事だもの。
「申し訳ございません、お嬢様」
「あなたが謝らなくていいのよ。でも、ミセス・ノーヴェには報告をしておいて」
「もちろんです」
「雑用を言われたのが、気に入らないのかしら?」
階段をのぼりながら、ワンダの態度の理由を考えてみる。「それはあるかもしれません」と、リーロはうなずいた。
部屋に入り、ドアを閉めてから「どういうこと?」と聞いてみれば、
「ワンダの両親は、確か小隊長だか中隊長だかをつとめていたかと──。それに、かなり甘やかされて育ったと聞いたことがあります」
「なるほど……」
帽子を取って、リーロに渡す。ジャケットも脱ぎ、フルドレスも脱いだら、
「こちらのフルドレスはいかがですか?」
淡いモスグリーンのフルドレスは、シャツワンピに近いデザイン。ピンタックがまっすぐ裾まで続いていて、青みの強い紫のボタンと襟元にあしらわれた同色の細いリボンがかわいい。ウエストもリボンで絞るようになっている。
「いいわね。それにするわ。髪もほどいて、ひとつにまとめてもらえる?」
「もちろんです」
リーロが用意してくれたフルドレスに着替えたら、ドレッサーの前に座る。結っていた髪をほどいてもらって、ポニーテールにしてもらった。
う~ん、武装解除って感じがするわ。ほっと息を吐くと同時に、改めて体のこわばりが抜けていく。このタイミングでお茶がほしいのだけれど……ワンダは来ない。
「あの子、何やってるの?」
お茶会に着て行っていたドレスやジャケットに、リーロが清潔の法術をかけた。法術により、ドレスは洗濯をしたのと同じ状態になったため、クローゼットへしまわれていく。




