驚きの連続ですね、お兄様 2
誤字ラ発見、報告ありがとうございます。退治(修正)いたしました。
「どんなに難しかろうと、問題は1つ1つ解決していくしかない──」
「1人で抱え込まないで下さいよ? ヴィンス兄さん」
シール兄様の視線が、一瞬、わたしに向けられた。はい、ホウ・レン・ソウは大事ですよね。社会人だった前世の記憶を思い出した今、迷惑や心配をかけたくないと抱え込むようなことは、いたしません。そっちの方がかえって迷惑になることがあると分かってますから。
「ところでシール。不勉強で悪いが、この宝石タイプのアミュレットが主流となる前は、どんなアミュレットが主流だったのか、教えてくれないか?」
「宝石の中に法陣が封じられているタイプがなかっただけで、宝石もアミュレットとして出回っていましたよ。台座に術式を彫ったり、宝石その物を聖別してアミュレットとしたり」
そもそも、アミュレットというのはお守りのことだ。物は何でもよいらしい。
「極端な話をすれば、そこらで拾った石ころでも、これは幸運のお守りだと思って身に付けていれば、その人にとってのアミュレットということになります」
「でも、アミュレットは高額で取引されていますでしょう? もちろん、ダイヤモンドのアミュレットと石のアミュレットでは、値段が違うのは分かります。ですが、同じダイヤモンドのアミュレットでも、大きさは同じに見えるのに値段が違うこともありますでしょう?」
「技術者のネームバリューと技術料ですね。名のある職人が作れば、同じ効果のアミュレットであっても、値段は上がります。それから、無名の職人であっても、組み込んでいる法陣が高度なものになれば、その分、値段は上がります」
一般的にアミュレットと呼ばれる物は、法術を組み込んだ、確実性のあるお守りのことを言うそうだ。そして、法術を組み込んでいないタイプを護符と呼んで区別しているらしい。
この前者の方は、ダンジョンでも見つかることがあるそうだ。
「難易度の高いダンジョンからは、当然、質の良い物が数多く出ます。だからですかね? どこのダンジョンから出た物かによっても、値段が変化しますよ」
ただ、〇〇ダンジョン産が良いと言うのは、貴族が多いらしい。どこのダンジョンで手に入れたかよりも、その物の質の方が大事なはずなんですがね、とライオット様は面白そうに笑った。グロリアさんは呆れ顔で、
「貴族の半分は見栄でできているらしいですからね」と、肩をすくめる。
「そこらの石ころ……では、それがメダルであっても、アミュレットと言えるな?」
「ええ。その通りですが、何か?」
「私は今、リーブス男爵を名乗っているわけだが、この爵位は9代目のフランク様が与えられたものだ。このフランク様は、若い時分は傭兵としてあちこちを渡り歩いていたらしい」
ヴィンス兄様がおっしゃるに、このフランク様。女神の横顔があしらわれたメダルを大層気に入って、常に持ち歩いていたそうだ。
「鎧の胸の部分に、メダルを嵌め込めるよう細工をしてまで持ち歩いていたそうだが、そのお蔭で命拾いをしたらしい。以来、幸運のお守りとしてずっと我が家に伝えられている」
9代様の時代に戦争があって、この時の敵側に、キラービーと呼ばれるレイピアの達人がいたそうだ。普通、レイピアでは鎧を貫くことなんてできないのだけれど、このキラービーは、それができたという。
ヴィンス兄様の話を、わたしは信じられない思いで聞いていた。つい、胸元に手をやってしまう。
「そのメダルのお蔭で、9代様はキラービーのレイピアに貫かれることがなかったと?」
「そういうことらしい。女神の横顔、ちょうど頬のあたりにレイピアで貫かれた跡があるんだ。貫通はしていなくて、反対側が少し膨らんでいる──」
「あ……あの……それって……」
首の後ろに手を回し、わたしは首から下げているとある物の金具を外した。それを机の上に置き、
「そのメダルというのは、これのっ、ことでしょうか?」
ちょうど親指と人差し指で輪っかを作ったくらいの大きさ。くすんだ金色の、頬のあたりがへこんでいる女の人の横顔のレリーフ。
「そう、それだ。そのメダルこそ、私が祖父から学院への入学祝いとしていただき、生まれたばかりの妹にあげた、我が家に伝わるアミュレットだ」
ヴィンス兄様が、にこりと笑う。
「物的証拠が出ましたね。スー、そのメダルはいつから?」
「ずっと、肌身離さず持っていました」
シール兄様の質問に答えれば、グロリアさんから
「誰かに貸したり、取られたりしたことは? なくしたこともありませんか?」
「ありません」
「メダルのことを誰かに話したことは?」
「それもありません」
ライオット様の質問は、わたしの心をちょっとだけ傷つけた。だって、雑談をするような親しい間柄の人はいなかったのだ。わたしは、どこにいっても1人ぼっちだったから……。